葬儀社の業績・利益を調べる場合、帝国データバンク(TDB)か、商工リサーチ(TSR)、はたまた日経テレコンで調べるのが一般的ですが、いずれも有料です。
ちょっと知りたい、ざっくり今すぐ把握したい、葬儀社の業績・利益の比較をしてみたい、そんな方に向けてまとめました。
今回は株式会社 アークベルの現状について、貸借対照表をもとに分析いたします。
上場企業の決算資料ほど詳細ではありませんが、事業の大まかな状況はつかめますので、ぜひ最後までご覧ください。
株式会社 アークベルの概要
1958年6月に全国で4番目の冠婚葬祭互助会「新潟県新生活互助会」として設立された「株式会社 アークベル」は、新潟県新潟市に本社を構え、新潟県・山形県を中心に婚礼・葬祭サービス事業を展開する冠婚葬祭互助会事業者です。
結婚式場11ヵ所、葬祭ホール80ヵ所(中規模ホール「セレモニーホール」64ヵ所・小規模ホール「ラソ」16ヵ所)、および貸衣装店「ビアンベール」14ヵ所を運営しています。
*貸衣装事業はグループ内企業「株式会社雅裳苑」が担当しています。
2020年1月には、同じ新潟県の冠婚葬祭互助会事業者「平安セレモニー株式会社」との資本業務提携契約を締結しています。
◎資本業務提携とは
資本業務提携はM&Aと異なり、契約締結後も経営権の移転が発生しないため、両社ともに独立した企業として存続します。
取得する相手方企業の株式も10%程度となるため、全株式を取得するM&Aにくらべ必要資金も少なくて済むため、低リスクなのが特徴です。
基本的にはパートナーとして双方の弱点を補いつつ、営業効率の向上や企業としての魅力を増大させるなどが目的となります。
また以下のグループ会社が、冠婚葬祭サービス付帯業務の内製化を支えているようです。
- ベルツアー株式会社 (旅行業)
- 株式会社 北辰 (食品製造業)
- 株式会社 アークベル倶楽部 (損保代理業)
- 株式会社 ベルフラワー (生花事業)
- 株式会社 ATS (印刷業)
- 株式会社 レジーナリュクシー (食品製造・レストラン)
葬儀社の決算公告とは
決算公告はその会社が健全な経営を行っているかを確認できる計算書類となります。以下に、決算公告についての簡単な概要を記載しました。
株式会社は定時株主総会の後に貸借対照表を公告する義務があり、その行為を決算公告と言います。
公告の方法は全部で3つあります。
- 官報に掲載
- 日刊新聞紙に掲載
- 電子公告(会社のウェブサイトに掲載)
決算公告は義務的な側面が強いですが、取引先や銀行に情報の開示を行うことで、自社の透明性や健全性を見せることができるという重要な側面も持ち合わせております。
なぜ葬儀社は決算公告をおこなうのか?
葬儀社の大手あるいは長年 葬儀・葬祭事業を営む会社は冠婚葬祭互助会を運営するケースが多いです。
冠婚葬祭互助会とは冠婚葬祭などの行事に備えるために毎月一定の掛金を複数回の支払いで積み立てるサービスとなっております。互助会の会員になることで葬儀や婚礼で割引などの優遇があります。
冠婚葬祭互助会は経済産業大臣の認可を受けた事業者となります。
会員から掛金として支払われた前受金は割賦販売法によって積み立てられた前受金の2分の1を次の何らかの方法で保全することが義務付けられています。
- 法務局に供託する
- 経済産業省の指定する保証会社と供託委託契約を結ぶ
- 銀行や信託会社などの金融機関と供託委託契約を結ぶ
上記のいずれかの方法を選択する必要があります。
また、経済産業省は割賦販売法に基づき互助会事業の経営指導や立入検査等を行っています。
なお現在、冠婚葬祭互助会事業者として登録されている事業者は以下より確認することができます。
経済産業省 前払式特定取引業者(冠婚葬祭互助会)許可事業者一覧
上記のように、冠婚葬祭互助会では政府・行政の認可団体として運営している側面があり、義務である決算公告を発表する事業者が多い状況です。
アークベルの貸借対照表

貸借対照表でまずチェックしたい箇所は純資産の部です。総資産に対する純資産の比率である「自己資本比率」が高いほど、その企業の経営状態は良好であると考えられます。
例えば自己資本比率が50%以上であれば、経営状態は良好とされています。自己資本比率が10%を下回っている場合は経営状態は良いとは言えません。
自己資本比率が低い場合は、借入金などの負債が多いので資金繰りが厳しいと予測ができます。
一方で、自己資本比率が高い場合は返済義務を有しない資金を大量に抱えているので倒産リスクは低くなると考えられます。
自己資本比率は中長期的にその企業の安定性を確認できる指標ですが、自己資本比率は業種によって大きく異なります。
例えば固定資産(建物や土地や機械など)を多く抱えている業種(製造業や鉄道会社)は最低でも20%程度はあると安心です。
逆に流動資産(ソフトウェアや”のれん”など)を多く抱えている業種(IT企業や卸売業)は最低でも15%程度は欲しいところです。
のれん:その会社が持つ技術やブランドで、目には見えない価値の高い資産のこと
貸借対照表の左右(運用状況と調達状況)の合計額は必ず一致する
「資産」=「負債」+「純資産」という計算式が成り立つことから、
貸借対照表のことをバランスシート(Balance Sheet)またはビーエス (B/S) と呼ぶこともあります。
アークベルの自己資本比率は7.90%
自己資本比率は「自己資本比率(%)=純資産÷総資産×100」で求めることができます。
61億0千2百万円÷772億7千3百万円×100=7.90
アークベルの2021年6月期における自己資本比率は、7.90%(前年同期比0.30%増)となっています。
2018年6月期に7.30%だった自己資本比率も、2019年6月期:7.58%→2020年6月期:7.60%→2021年6月期:7.90%と、過去4年間は年々向上しています。
アークベルの資産と負債について
自己資本比率の次に確認したいのは、資産と負債の額になります。
貸借対照表でいうところの資産は左側に、負債は右側上段に記載があります。
この赤い円の箇所を確認することで、その会社の資産と借金の額を確認できます。
資産合計の推移
貸借対照表の左側に記載されており、「会社の所有する資産」を表します。
資産は下記の3つに構成されています。
・流動資産 = 1年以内に現金化もしくは費用化できる資産
例) 現金、有価証券、商品、製品など
・固定資産 = 長期にわたって会社が保有するものや1年を超えて現金もしくは費用となる資産で有形固定資産や無形固定資産がある。
例)・有形固定資産:建物、土地、車など
・無形固定資産:ソフトウェアなど
・繰延(くりのべ)資産 = 会社設立にかかった費用や社債発行にかかった費用を一括して費用として計上せずに資産として計上し期間内(数年など)に分けて償却するものとなります。
例) 創立費、開業費、開発費など
アークベルの資産合計の推移は以下のようになっています。

アークベルの2021年6月期における資産合計は、772億7千3百万円(前年同期比1.82%増)となっています。
過去4年間にわたり、アークベルの資産合計は緩やかに増加しています。
負債合計の推移
貸借対照表の右側上段に記載されており、「返す必要のある他人からの借金」を表します。
負債は下記の2つで構成されています。
・流動負債 = 1年以内に支払い期日を迎える負債となります。
例) 家賃、従業員の給与や賞与、買掛金(サービスや商品の金額を後払いするもの)など
・固定負債 = 1年以内に支払い期日を迎えない負債となりますので、流動負債以外の負債は固定負債になるということです。
例) 従業員の退職金、社債、長期借入金など
アークベルの負債合計の推移は以下のようになっています。

アークベルの2021年6月期における負債合計は711億3千2百万円(前年同期比1.38%増)となっています。
アークベルの負債合計は過去4年間にわたって緩やかに増加していますが、固定負債が99.60%を占めている状況です。
財務安定性指標の一つである流動比率(流動資産÷流動負債×100)も、2021年6月期の時点で13784.27%(安全ラインは100%以上)となっており、短期的な支払い能力について不安は感じられません。
アークベルの純資産について
自己資本比率、資産合計、そして負債合計をみてきましたが、最後に確認したいのは「純資産」となります。
純資産は貸借対照表でいうところの右側下段に記載があります。
純資産は資産(現金、土地、建物など)から負債(借金)を差し引いたものです。
この赤い丸の箇所を確認することでその会社の純資産を確認できます。
アークベルの純資産合計、当期純利益、利益剰余金の推移はそれぞれ以下のようになっています。(各用語についても分かりやすく解説しています)
純資産合計の推移
会社の所有する現金や建物などの資産から負債(借金)を差し引いたものとなります。
純資産の割合が高ければ財務健全性が高いと考えます。一方で、純資産がマイナスの状態を債務超過といい、2期連続で債務超過の状態が続いた場合、東証上場の廃止基準に抵触することがあります。

アークベルの2022年1月期における純資産合計は、61億0千2百万円(前年同期比5.85%増)となっています。
過去4年間にわたってアークベルの純資産合計は緩やかに増加しており、自己資本比率も継続的に向上している状況です。
当期純利益の推移
会社が1年間で得た全収益から法人税や住民税そして費用を差し引いたものが当期純利益となります。
この当期純利益がマイナスとなると当期純損失となります。
当期純利益の額をみることで、その会社の収益性がどのくらいなのか判断できる指標になります。

アークベルの2021年6月期における当期純利益は3億3千7百万円(前年同期比366.30%増)となっています。
2020年6月期には当期純利益が大幅に減少していますが、これは2020年1月に実施された「平安セレモニー株式会社」との資本業務提携による影響とも考えられます。
利益剰余金の推移
利益剰余金とは簡単に言うと会社の貯金のようなもので、その会社の生んだ利益を分配せずにコツコツと社内で貯めたお金です。正確な会計用語ではないですが利益剰余金のことを内部留保とも言います。
内部留保は恐らく聞き馴染みのある単語だと思います。利益剰余金は貸借対照表で言うところの純資産の部に記載があります。
内部留保(利益剰余金)が多くあればあるほど、金融危機などの影響で経営が赤字になった際に従業員の給与や固定費の支払いに活用できるため企業が生き残るための重要な資金源となります。
アークベルの場合は以下のように推移しております。

アークベルの2021年6月期における利益剰余金は、60億4千2百万円(前年同期比5.91%増)と3億3千7百万円増加しました。
過去4年間にわたって、アークベルの利益剰余金は緩やかに増加を続けている状況です。
株式会社 アークベルの損益計算書
損益計算書とは、企業が1年間の経営状況を把握するために作成される資料で、P/L(profit and loss statement)とも呼ばれます。
企業に入ってくるお金(収益)と、出ていくお金(経費)をまとめたもので、最終的な利益が確認できる資料です。
損益計算書

アークベルの損益計算書を確認すると、過去4年間にわたって営業損失が発生している点に目が行きます。
しかし最終的には当期純利益が発生しており、大手冠婚葬祭互助会の底力を感じます。
売上金額の推移

アークベルにおける2021年6月期の売上高は、33億0千2百万円(前年同期比1.60%増)となっています。
2018年6月期以降、減少を続けていたアークベルの売上高ですが、2021年6月期には増加に転じており、復調の兆しが見える状況といえるでしょう。
営業利益の推移
営業利益とは、主な営業活動で得られた「売上総利益」から「販売費および一般管理費」を差し引いたもので、1年間の本業における利益を表す数字です。
葬儀業界でいえば、葬儀施行や葬儀付帯業務などによる利益が、営業利益にあたります。

アークベルでは、2021年6月期において9億9百万円の営業損失が発生しています。
しかし販売費及び一般管理費の圧縮により、損失額は2018年6月期以降ゆるやかに減少しており、将来的には黒字転換の可能性もありそうです。
経常利益の推移
経常利益は、企業が1年間で得たすべての利益を表す数字で、「営業利益」+「営業外収益」-「営業外費用」で算出されます。
ここでいう「営業外収益」とは、主な業務以外の収益(金融商品・株・為替などの取引で発生した利益)を指します。

アークベルの2021年6月期における経常利益は、5億2千2百万円(前年同期比1.51%減)となっています。
過去4年間にわたって、アークベルの経常利益は緩やかに減少していますが、減少幅は年々小さくなっていることから、近い将来増加に転じる可能性もありそうです。
またアークベルでは、毎年15億円以上発生している営業外利益が営業損失をカバーし、黒字経営を支えています。
株式会社 アークベルのまとめ
今回は株式会社 アークベルの決算公告を参考に、現状分析を行いました。
2020年から2021年にかけて立て続けに発出された新型コロナ関連の行動規制で、大幅に収益を悪化させる葬儀社様も多い中、アークベルの業績は堅調に推移している印象です。
しかし2022年7月時点では新型コロナの感染が再拡大しつつあり、まだまだ日本経済の先行きは不透明な状況ですので、今後のアークベルの決算公告にも引き続き注目していきたいと思います。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。より詳しい情報を知りたい方はお気軽にお問合せ下さい。
★お問合せフォーム https://souken.info/contact-inquiry/
葬研(そうけん)では企業の発信する情報をキャッチして、より分かりやすい内容として整理・分析をおこなっております。
また今後は、商品・サービスをはじめ経営・マーケティングに至る部分において、取材をおこない発信していくことも予定しております。
自社の情報発信をご希望の企業様は、ぜひご連絡いただければと存じます。