葬儀社が知っておきたい家族信託まとめ|メリット・デメリットや任意後見との違いを解説

葬儀社なら知っておきたい家族信託

厚生労働省が公表した「認知症施策の総合的な推進について」(2019年)によると、2025年には65歳以上の5人に1人が認知症となり、認知症患者数が約700万人を超えると推計されています。
もし、ご家族が認知症になり、意思能力を喪失したと判断された場合、資産凍結される可能性が高くなります。

資産が凍結された場合、金融資産の管理や不動産の売買はもちろん、本人の介護のために使う費用であっても、銀行預金から引き出すことも難しくなります。
そうなると本人の財産で介護費用を賄うためには、成年後見制度の法定後見を利用することが必要になります。

もちろん必要に応じて成年後見制度などを利用することは大切です。しかし、本人や家族にとってもっと最適な方法があることも考えられます。
本人が快適な生活を送り、ご家族の負担を軽減するためにも、元気なうちに万が一に備え制度をよく知り、準備しておくことが必要でしょう。

本記事では、財産管理の選択肢のひとつである「家族信託」について紹介しています。 成年後見制度の任意後見との違いについても触れていますので、ぜひ最後までご覧ください。

目次

家族信託の概要

財産

家族信託とは、民事信託(信託業法の免許を受けていない人が営利を目的とせずに引き受ける信託)のひとつです。
あらかじめ信頼できる家族や親族と信託契約を結ぶことで、財産の管理や運用、処分を任せることができます。認知機能が衰えた場合でも資産の凍結を回避することが可能です。

家族信託の仕組み

家族信託には、財産を預ける委託者、財産を管理する受託者、財産による利益を受ける権利を持つ受益者が存在します。多くの場合、委託者と受益者は同一人物になるようです。
具体的には、「財産権(財産から利益を受ける権利)」を親(受益者)が持ち、「財産を管理運用処分できる権利」を家族(受託者)に渡す契約になります。

家族信託

委託者(財産を信託する人)
財産を所有し、信託契約をすることで、その管理を受託者に依頼する人です。 

受託者(財産の管理・運用・処分をする人)
財産の「名義」を持つのが受託者です。信託財産は委託者の名義から受託者の名義に変更されます。
一方で、受託者は善管注意義務・忠実義務・分別管理義務など、さまざまな義務や責任を背負うことになります。
受託者は、必ずしも親族である必要はありません。

※主な受託者の義務

  • 善管注意義務=善良な管理者の注意をもって信託事務を処理しなければならない。
  • 忠実義務=受益者のために忠実に信託事務の処理をしなければならない。 
  • 分別管理義務=信託された財産と受託者の固有財産や他の信託財産は、分別して管理しなければならない。
  • 公平義務=受益者が2人以上いる場合、受益者に対し、公平に職務を行わなければならない。
  • 帳簿等の作成等、報告・保存の義務=信託財産に関する帳簿やその他の書類を作成、保存し、受益者に報告する義務がある。
  • 損失補填義務=受託者が任務を怠ったことにより信託財産に損失が生じた場合、損失填補責任や原状回復責任を負う。
  • 自己執行義務=原則として受託者自身が財産の管理・処分をしなければならない。やむを得ない場合は、第三者への委託が認められる。

参照:信託法 第三章 第二節「第二節 受託者の義務等」

受益者(財産管理による利益を得る人:委託者であることが多い)
財産権」を持ちます。
委託者と受益者が同一となるケースが多くなりますが、委託者以外の人や複数人に設定することも可能です。
受託者に対し、監視・監督を行います。受益者が監視・監督ができない場合は「信託監督人」を設置することも可能です。

家族信託の手続きの流れ

家族信託する場合、以下のような流れで手続きを進めます。

1.信託契約を締結する
信託する内容を話し合い、受託者と委託者で信託契約書を作成します。
公正証書にする義務はありませんが、必要に応じて公正証書にすることも検討されます。

2.信託口座の開設
信託専用の口座を開設します。
家族信託には、受託者個人の資産との明確に分別管理が可能な「信託口口座」もしくは、受託者の個人名義の口座である「信託専用口座」を使います。

3.信託登記を行う
不動産などの信託財産は、「信託登記」として受託者に名義変更します。
登記簿には、信託財産であること、受託者として所有権が移転されたことが明記されます。

4.信託財産の管理、運用の開始

任意後見と家族信託

介護

家族信託と比較されることが多いのが成年後見制度任意後見です。
ここでは、家族信託との違いを見ていきましょう。

任意後見とは?

成年後見制度のひとつである任意後見は、判断能力が低下するリスクに備え、あらかじめ本人が選んだ人と任意後見契約を結んでおく制度です。
後見が必要な時が来たら、本人や配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者などが家庭裁判所に申立てを行い、任意後見監督人が選任されることでその効力が生じます。

なお、成年後見制度には、法定後見もあります。
法定後見は、家庭裁判所に申立てることにより、成年後見人が選任され、後見、保佐、補助が開始されます。
後見人の選任は、家庭裁判所が行うことが一般的です。2023年現在、法定後見人のおよそ8割が専門家などの親族以外の後見人が選任されています。

法定後見は、後見人を自分の意志で指定できないため、ここでは比較から除外します。

家族信託と任意後見制度の違い

いざという時に備え、財産を託す人と契約し、準備をしておくという観点から家族信託と任意後見は非常に似ている制度といえます。両制度の違いを見ていきましょう。 

開始時期

任意後見は、判断能力が低下し、後見が必要な状態となった場合に任意後見契約の効力が生じます。言い方を変えると、高齢になり身体が弱っても意思能力に問題がなければ任意後見を始めることはできません。

一方で、家族信託は判断能力に関係なく、契約後はいつでも財産管理を開始することができます。

身上監護(しんじょうかんご)

任意後見人の仕事は、財産管理と身上監護です。
身上監護とは、本人の心身の状態や生活の状況に配慮して、生活や健康、療養等に関する法律行為を行うことです。施設に入所する際の手続きなどがこれに該当します。なお、実際の介護や食事のサポートなどは含まれていません。

一方で家族信託は、財産に限った契約になるので、身上監護はありません。

財産管理の範囲

成年後見制度は、財産の維持・管理を目的としており、任意後見の財産管理は、法律で認められた範囲内となります。
たとえば、財産を増やす目的であっても、積極的な投資や運用はできません。財産の処分にも合理的な理由が必要です。

家族信託の場合は、受託者の権限は契約することで自由に設定することができます。家族信託を利用すれば、後見人ではできないような積極的な財産活用を受託者に任せたり、財産を処分したりすることも可能です。
また、生前贈与など相続対策をすることもできます。

家庭裁判所の監督

任意後見人は、後見監督人の監督を受け、定期的な報告が必要です。後見監督人は、家庭裁判所に後見人の職務に関する報告を行います。不適切な行為があると認められると、解任される可能性もあります。
一方で家族信託は、 受益者に対する報告は必要ですが、家庭裁判所の介入はありません。

任意後見人は、身上監護がある一方で、財産管理の範囲が限られます。家族信託は、柔軟な財産管理ができますが、身上監護は含まれません。 

どちらも一長一短があり制度といえるでしょう。目的に応じて、上手に使い分けることが必要です。
なお、任意後見と家族信託は併用が可能です。迷った場合は、専門家に相談することも検討しましょう。 

家族信託のメリット

メリット

家族信託の特徴的なメリットをまとめました。

  • 本人の意思能力に関係なく、資産管理・運用ができる
  • 本人が選んだ信頼できる人に財産管理を任せることができる
  • 柔軟な資産管理が可能
  • 運用コストが安い:初期費用は必要ですが、成年後見制度と比較すると、運用コストは抑えられる傾向にあるようです。
  • 遺言の機能

委託者が家族信託であらかじめ継承する相手を決めておくことで、遺産分割協議が不要となります。

遺言があった場合でも、家族信託の内容が優先されます。
遺言は民法(一般法)に基づく制度で、家族信託は信託法(特別法)に基づきます。一般法よりも特別法が優先されるため、原則として家族信託の内容が優先されるのです。

なお、相続が発生した場合の信託財産の遺留分請求に関しては、明確な答えはありません。最近では、遺留分請求を逃れるために行った信託契約を無効とし、信託財産も遺留分侵害額請求の対象とする判決が出ています。
また、本人の死亡後も、故人の配偶者を受益者にするなど、信託契約を継続することが可能です。

受益者連続型信託
一次相続だけでなく、その先の複数世代にわたる相続について定めることが可能です。
受益者の交代回数に制限はありませんが、「30年ルール」と呼ばれる期間制限があります。信託契約が開始し、30年を経過した後に認められる受益者の交代は、1回限りとなります。

  • 共有不動産の管理をしやすい
    共有している不動産がある場合、売却や大規模な修繕は全員の同意が必要です。一人でも認知症になってしまうと、管理が難しくなります。そこで「受託者」を一人に設定し、「受益者」をほかの所有者に設定します。利益は受益者が受けることができ、売却や修繕などの判断は、受託者が一人で行うことができます。
  • 倒産隔離機能
    受託者が破産や債務を背負っても、信託財産は差し押さえの対象にはなりません。受益者が債務を負った場合は、「信託受益権」が債務者の差し押さえの対象になることがあります。 

家族信託のデメリット

デメリット
  • 初期費用がかかる
    成年後見制度と比較すると、運用コストは抑えられる傾向にあるようです。
    専門家による信託契約や名義変更、企業が提供するサービスを利用する場合には、費用がかかります。
  • 身上監護ができない
    親が施設に入居する際、家族信託では受託者であっても代理人として入居契約をすることができません。
  • 親族間の不公平感
    兄弟のうちの一人が受託者になり、財産に対する権限を持つことで他の兄弟が不満を持つ場合があります。
    信託契約を結ぶ前に、家族で話し合い、理解を得ておくことが必要です。

家族信託を取り扱う企業

家族信託を検討する際、相談先としては司法書士などの専門家をイメージするかもしれませんが、現在では家族信託サービスに特化して事業を展開している企業もあります。
こういった企業が提案しているサービスの料金は、より多くの方が今よりも手軽に家族信託を利用できるよう、専門家に依頼する場合にくらべて安価に設定されているようです。

トリニティ・テクノロジー株式会社様|スマート家族信託

トリニティ・テクノロジー
出典:トリニティ・テクノロジー株式会社

トリニティ・テクノロジー様は、家族信託に特化した企業です。司法書士のほか、保険、不動産、相続などに関する専門家も所属しており、相続対策や資産承継などのサポートも行っています。

銀行とのAPI連携や、レシートの自動読み込み機能などを持つ家族信託専用のアプリにより、帳簿や報告書を自動生成や家族に財産状況を共有することも可能です。

会社概要・東京本社:〒105-0004 東京都港区新橋2-1-1 山口ビルディング1階・設立:2020年10⽉30⽇
事業内容認知症による資産凍結から家族を守る「スマート家族信託」家族信託・相続などの専門家コミュニティ
「TRINITY LABO.」相続手続きサービス「スマホde相続」おひとりの高齢者に家族の代わりにずっと寄り添う
「おひさぽ」
特徴・強み・司法書士が立ち上げた最新の家族信託サービス・安価な価格設定・顧客の状況に沿った最適な家族信託を
オーダーメイドで提案・保険や不動産などの専門家によるサポートがある・アフターフォローがある・日本
初の信託専用アプリを提供しており、家族にも財産状況の共有が可能
公式サイトhttps://sma-shin.com/
タイトル認知症による「資産凍結」から家族を守る

株式会社ファミトラ様|ファミトラ

ファミトラ
出典:株式会社ファミトラ

ファミトラ様は、「家族信託を、あたりまえに。」というビジョンを掲げ、事業の開発・運営を行っています。
家族信託の認知度を上げ、老後の財産管理のひとつとして広げていくことを目標としているとのことです。

ファミトラには、それぞれの希望に沿った家族信託組成プランの提案から信託契約を締結までをサポートする「家族信託組成サポートサービス」、信託監督人として、家族信託の開始後の運営をサポートをする「信託監督人サービス」の2つのサービスがあります。

会社概要・〒106-0032 東京都港区六本木7-18-18 住友不動産六本木通ビル2Fincube内
事業内容民事信託(家族信託)のマーケティング・コンサルティング事業「ファミトラ」の運営
特徴・強み・信託DXによる効率化で、低価格化を実現・LINEによるやりとりで、気軽に質問ができる・大企業との提携や出資
による安心感がある・全国の専門家による「チームファミトラ」でワンストップの支援が受けられる・「人生100年
時代のコンシェルジュ」として家族信託締結後も継続的なサポートが受けられる
公式サイトhttps://www.famitra.jp/
タイトルあなたの親の資産減らさない。凍結させない。揉めさせない。

まとめ

本記事では、家族信託についてまとめました。

家族信託は、家族の認知症など判断能力が衰えた場合の対策として有効な手段ではあるものの、「万能」とも言えないようです。
まずは、成年後見人など関係する制度を知った上で、それぞれの状況に合わせた方法を選択することが必要になります。必要に応じて、任意後見などと併用することも検討の余地がありそうです。

いずれにせよ、早めの対策を打っておくことがご本人の安心で快適な生活になり、それを支えるご家族の負担を減らすことにつながります。

終活をされているお客様と接することが多い葬儀社様にとっては、知っておいて損はない知識のひとつではないでしょうか。

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