近年、葬儀が縮小化、簡略化されるようになった一方で、「大切な人に何を残していくか」という心の問題が注目されるようになってきているようです。
預貯金や現金・不動産といった物質的な部分の継承については、公正証書遺言など法的拘束力を持つ正式な遺言書が、その役目を果たします。
また、普段は口に出して伝えるのが照れくさいような家族への想いや、自身の死後に言い残したいメッセージなどを届けるツールとして、まず思いつくのがエンディングノートではないでしょうか。
そんな中、近年になって徐々に人気を集めつつあるのが、人生のエンディングに向けて作成するビデオメッセージサービスです。
遺された家族に生前の姿や声を届けるメッセージ動画の需要が高まりをみせている背景には、YouTubeなどのSNSの普及により、誰もが手軽に動画を撮れるようになった影響もあるのかもしれません。
最近では、通夜式や葬儀・告別式の演出として、式中にメッセージビデオを流すサービスを提供している葬儀社様も徐々に増えつつあるようです。
また、ご遺族様に向けたエンディングメッセージ関連のサービスを、葬儀のオプションとして検討されている葬儀社様もいらっしゃるかと思います。
そこで本記事では、終活におけるエンディングビデオメッセージについて考察するとともに、エンディングビデオメッセージサービスを提供する企業様を紹介します。
エンディングビデオメッセージは、相続争いを回避するなど、意外な役割もあります。ぜひ、最後までご覧ください。
エンディングビデオメッセージとは?
ご家族や友人など、大切な人に対し、動画を通じて自分の言葉を伝えるサービスです。終活ビデオ、遺言メッセージ、エンディングムービーなどさまざまな名前で呼ばれています。
それらのサービスは、「自分の死後、残された個人に宛てたメッセージ」というイメージがありますが、それ以外の用途としても使われるようです。
遺言書とエンディングビデオメッセージは役割が異なる
「遺言書」と「遺書」は、異なります。
遺言書は、亡くなった後のことを考えて、自身の遺産の分与方法などを記した書面です。法的に効力を持ち、法律に則った様式で残すことが必要です。
一方で、遺書は、自分の死後に向けて書き残すメッセージ、手紙などの私的文書のことを指します。法的な効力はありません。
2023年現在、動画による遺言に法的効力はありません。
そのため、動画で残されたエンディングビデオメッセージは、「遺書」という意味合いが強くなります。
エンディングビデオメッセージの主な用途としては4つ考えられます。
- 大切な人に贈るメッセージ:個人的な手紙やメッセージとして、ご家族や大切な人に自分の想いや言えなかったことを伝えることができます。
- 面と向かって言えないことを伝える:思い残して後悔しないために、生前にお詫びや感謝など、面と向かって言いにくいこともビデオメッセージであれば、伝えやすいかもしれません。
- 葬儀で自分で挨拶するためのツール:自分の葬儀で参列者に自分でお礼を伝えるために、生前にビデオメッセージを準備し、実際のお葬式で流す人もいます。
- 遺言書のフォロー:遺言書を残したものの、その内容で相続人がもめる可能性がある場合、その意図を自分の言葉で伝えるためにエンディングビデオメッセージを用意することもあるようです。
遺言書があるからもめることもある
相続対策として、「遺言書」を用意する人も多いかと思います。
しかし、遺言書があるからこそ、起きてしまう相続トラブルもあります。
遺言書の遺産分割に不満がある。
遺言書に記載された遺産分割に納得ができない場合、相続争いにつながることが考えられます。
特に法定相続人には「遺留分」として、法律上取得することが保証されている最低限の相続財産の取り分があります。それを侵害している場合、注意が必要です。
また、本来は遺言者の意思を実現するために、法律を熟知した公証人によって作成される公正証書遺言も、相続人全員が遺言書の内容を拒否することに合意した場合は、遺言書に従わないかたちでの財産分与も可能となります。
しかし、遺言書の意図を細やかに本人の言葉で説明する様子を、エンディングビデオメッセージで残しておけば、こういったトラブルの抑止につながる可能性もあります。
自筆証書遺言によるトラブル
本人が作成し、保管していた遺言書の内容に納得できない場合、本人の判断能力や偽造など遺言書に疑いを持つ人もいるかもしれません。ビデオメッセージにより、本人の言葉として説明することができます。
相続人が相続財産に思い入れがある
相続人にとって思い入れがある財産があった場合、遺言書により自分以外の人がその財産を相続することに不満を持つことがあります。
本人の言葉でその理由を説明されることにより、納得しやすくなります。
※2019年の民法改正で遺留分侵害額請求権が改正されました。
特定の相続人に特定の財産を取得させたいという被相続人の意思を尊重し、遺留分の請求権は、「財産そのもの」ではなく「金銭」を請求する権利に変更となりました。
エンディングビデオメッセージサービスを選ぶポイント
ひと口に動画でエンディングビデオメッセージを残すといっても、さまざまな方法があります。
スマートフォンやホームビデオを使い、自分で撮影することも可能です。
また、葬儀社様や映像制作会社様のほか、遺言書をサポートするツールとして、税理士様や司法書士様などの相続の専門家が携わっているサービスもあります。
押さえておきたいポイント
エンディングビデオメッセージサービスは、それぞれの企業が得意分野を生かした個性的なサービスを提供しています。
ポイントを押さえて、自分の要望に適したビデオメッセージを作成しましょう。
撮影
撮影は、スマホを使った自撮りや身近な人に撮影してもらう、もしくはカメラマンなど、プロによる撮影が主な選択肢になります。
ビデオの内容としては、自分自身でカメラに向かって語りかける方法、インタビュー形式で対話をしながら話をすすめるスタイルなどがあります。
編集
撮影したデータは、不要な部分をカットしたり、想い出の写真を挿入する、音楽を流す、クレジットなど文字を入れるなどの加工をします。
エンディングビデオメッセージサービスを利用した場合は、サービスを提供する企業が編集することが多いようです。加工の内容によってはオプションサービスになります。
保管
自分で作成する場合でも、エンディングビデオメッセージサービスを利用する場合でも、保管の方法を必ず確認するようにしましょう。
特に自分でエンディングビデオメッセージを作成し、スマホやパソコンに保存していた場合、端末の故障によりデータを失ってしまう可能性があります。必ずバックアップを取っておきましょう。
端末にロックをかけている場合は、託す人に何らかの形でパスワードが伝わるようにすることも大切です。
エンディングビデオメッセージサービスを利用する場合のデータの保管方法は、それぞれ異なります。企業側がデータとして保管するほか、DVDとして手元で保管することも多いようです。
贈る
せっかくエンディングビデオメッセージを用意しても、見つけてもらえなければ意味がありません。その存在を家族に伝えておく、わかりやすい場所に保管するなどの工夫が必要です。
また葬儀で流してほしいビデオメッセージの場合、見つかった時には葬儀が終わってたということがないよう、元気なうちにその旨を共有しておきましょう。
エンディングビデオメッセージのメリット
これまで紹介してきたこと以外にも、エンディングビデオメッセージには、「ビデオ」ならではのメリットがあります。
- 残された人が声や表情を感じることができる。
寂しくなり、ふと声を聞きたくなったときでも、ビデオとして残すことでいつでも声を聞くことが可能です。
お元気なときに撮影することが多いので、大切な人の心の中には、元気な姿が残っていきます。
- 文章よりも、繊細な想いが伝わる。
ビデオメッセージは、話す内容だけでなく、声のトーンや言葉、表情などさまざまな情報が詰まっています。ビデオメッセージだからこそ言葉にできない想いが伝わるのではないでしょうか。
- 自分の人生を振り返るきっかけになる。
エンディングビデオメッセージの作成をきっかけに、これまでのことを思い出したり、伝え忘れていた言葉や会いたい人を考えるなど、人生の棚卸(たなおろし)になります。
エンディングビデオメッセージのデメリット
- 法的な効力はない。
ビデオメッセージには法的な効力がありません。
そのため、ビデオメッセージだけで財産分与を伝えると、もめる火種になりかねません。相続に関することに言及する場合は、法的に有効な遺言書も残すことも考えたほうがいいかもしれません。
- 費用がかかる
エンディングビデオメッセージサービスを利用する場合、サービスによって相応の費用がかかります。事前に見積もりを取り、費用に納得した上で申し込むようにしましょう。
- 動画が苦手
若い世代は自撮りになれていますが、シニア世代は、スマホの操作が苦手、カメラに向かって話せない、編集ができないなどの悩みを抱える人も少なくないでしょう。
そういう場合は、企業が提供しているエンディングビデオメッセージサービスを利用してしまうのも手です。
エンディングビデオメッセージサービス7選
現在、多くの企業がエンディングビデオメッセージサービスを提供しています。サービス内容も多岐に渡りますので、自分の目的にあったサービスを選択しましょう。
ここでは、7社のエンディングビデオメッセージサービスを提供している企業を紹介します。
株式会社itakoto様「ITAKOTO」
ITAKOTOは、大事な人に言いたいこと、言いづらいことを残せる遺書動画サービスです。
お笑い芸人の田村淳さんが運営会社itakoto様の取締役会長を務めています。
アプリをダウンロードし、ガイドに従って動画を撮影します。発行された遺書URLを届けたい人に送ると、受け手は開封し、動画を見ることができます。
また、アプリを使ったサービスのほか、「ITAKOTO Premium」として、こだわりぬいた演出のオーダーメイド遺書動画制作も提供しているようです。
会社概要 | ・〒170-0012 東京都豊島区上池袋2-2-5 3階 ・設立 令和1年11月1日 |
事業概要・取扱内容 | ・ICTサービス・プラットフォーム事業 |
特徴・強み | ・ガイドに従い操作することで、簡単に動画撮影ができる。 ・遺書URLを送ることで受け手にシェアすることができる。 ・有料プランは、3分間の動画を高画質、保存期間無制限で利用できる。遺書数はプランにより異なる。 ・万が一、事業継続不可になった場合は、動画ダウンロードにより受け取り可能。 |
公式サイト | https://itakoto.life/ |
株式会社パズルリング様「lastmessage」
メッセージ送信機能のほか、生存確認や寄付、友だち作りなど、さまざまな機能を持つのがlastmessageです。
アカウントを作ることで利用できます。
宛先を登録し、「ラストメッセージ」を作成、保管します。人生の最期(終焉日が確定したとき)に発動する仕組みになっています。
ラストメッセージには、秘密ボックスが添付でき、保険証券やパスワード、フォト(写真)、ビデオメッセージなど5MBまで設定することが可能です。
会社概要 | ・〒106-0032東京都港区六本木2-1-11-201 ・設立 2014年9月 |
事業概要・取扱内容 | ・企業向けシステムソリューションサービス ・エンターテインメント&コミュニティサービス開発 |
特徴・強み | ・終焉日が確定したときに登録したラストメッセージが発動する。 ・メッセージに秘密ボックス(ストレージ機能)を添付し、保険証券、パスワードなどの個人情報を伝え られるほか、アルバムなどのデジタル保管庫としても使用できる。 ・メッセージに写真、ボイスメッセージ、ビデオメッセージなどを添付できる。 ・宛先は複数作成でき、グループや個人ごとに異なるメッセージを作成できる。 ・いつでも加筆・修正可能。 ・日常的にID、パスワードの管理ができる。終焉日確定によりラストメッセージに添付ができるほか、有 料で削除代行も可能。 ・定期的なログインがない場合、アラートが通知される。ログインがない場合は、終焉日確定プロセス に移る。 ・500以上の団体を対象に、カンタン寄付ができる。 ・遺言・相談ツールにより、無料診断ができる。 ・格安で公正証書遺言格安での原案を作成することができる。 ・「ライフレ!」で、やりたいことから友だちをつくることができる。 ・「オヤコの聞取りメモ」により、聞きにくいけど大切なことをリスト化し、親に送信したり、家族で 共有できる。 |
公式サイト | https://www.lastmessage.rip/ |
タイトル | 遺言の新時代 DIAITAL YUIGON |
株式会社Happyサポート様「メモリアルビデオレター」
メモリアルビデオレターは、DVDやBlu-rayで作成するビデオレターです。
プランによって自撮り撮影のほか、カメラマンによる撮影やインタビュー形式などさまざまなスタイルがあります。出張撮影も可能です。
会社概要 | ・東京都千代田区六番町3番地11テシコ六番町ビル3階 ・設立 平成31年4月3日 |
事業概要・取扱内容 | メモリアルビデオレターの企画、制作、販売/終活に向けた支援 |
特徴・強み | ・DVD又はBlu-rayによるビデオレター。 ・ビデオレターと遺言をセットにすることで、遺言の意図が伝わりやすくなる。 ・事前にヒヤリングがあるので、伝えたいこと、プランや撮影場所など準備して撮影ができる。 ・プランにより、カメラマンによる撮影、質問形式か自身で話すかなどの選択、編集オプションの選択が できる。 ・出張撮影、字幕表示、プロによるメイクなどのオプションがある。 |
公式サイト | https://happysupport-memorial-video.com/ |
タイトル | あなたの想いを繋ぎませんか?メモリアルビデオレター |
株式会社やすらぎグループ様「MISUBIエンディングムービー」
株式会社やすらぎグループのメモリアル事業として、終活をサポートする「MUSUBI」が提供するサービスがエンディングムービーです。
プロのカメラマンによる撮影・編集が行われ、長期保存用光ディスク(DVD)として作成されます。
MISUBIでは、エンディングムービーのほか、写真動画で想いを届ける「フォトムービー」、家族に伝え残すオリジナル冊子「家族史」などのサービスも提供しています。
また、イーメッセージグループ株式会社との業務提携により、メッセージ配送サービス部門を設置し、託した手紙やDVDを未来の大切な人に届けるサービスも行っています。
会社概要 | ・〒541-0045 大阪府大阪市中央区道修町3-3-11 旭光道修町ビル6階 ・設立 2015年12月 |
事業概要・取扱内容 | ・ナチュラルウォーター事業・メモリアル事業 ・海外プロジェクト推進事業 |
特徴・強み | ・カメラマン、メイクなどプロにこだわった技術による高品質な映像。 ・複数台のカメラやドローンを使用。 ・寿命が100年と言われる長期保存用光ディスク(DVD)に映像を記録。 |
公式サイト | https://yasuragi-g.co.jp/business/memorial/ending_movie/ |
タイトル | あなたの人生を結び、繋ぐ 自分史+メッセージ動画 |
株式会社結ごと様「結ごと(ゆいごと)」
遺言の作成と合わせて、書面だけでは伝えられない想いを残すためにメッセージ動画を作るサービスを提案しているのが結ごとです。
申し込み後、「結いごとID・パスワード通知書」などが届きます。それに則り、アプリで動画を撮影し、データを送ります。
その後、編集したDVDが入った「結ごとセット」が納品されます。
アプリによる自撮りの ほか、プロのカメラマンによる撮影や遺言書作成がセットになったプランもあるようです。
会社概要 | ・東京都国分寺市本町2-12-2 大樹生命国分寺ビル7F |
特徴・強み | ・遺言書では伝えきれない思いを伝えられる。 ・スマホが苦手な人には、専属担当者による案内がある。またスマホを借りることも可能。 ・遺言作成や相続手続などフルサポートできる。 |
公式サイト | https://yui-goto.com/ |
タイトル | もしもあなたの想いが伝わらないまま先立つとしたら…どうしますか? 伝えたい想いを「そのまま」遺すたった1つの方法 |
株式会社アンテリジャン様「生前ビデオ 天国からのメッセージ」
アンテリジャン様は、もともと自分史ビデオを制作する会社だったようです。
余命宣告をされた方を対象に自分の葬儀や偲ぶ会で上映するお別れの挨拶を撮影するサービスを提供しています。
動画は限定公開でYouTubeにアップされ、その動画の存在を知る人だけが見ることが可能です。
動画のQRコードが入った「約束カード」が発行されます。そのカードを渡すことにより、動画を託すことができます。
会社概要 | ・〒530-0001 大阪市北区梅田1-1 大阪駅前第3ビル17階 ・設立 1999年12月 |
特徴・強み | ・余命宣告をされた人を対象とした、自分の葬儀や偲ぶ会で上映するお別れの挨拶を撮影するサービス ・専用のメモリースタジオで撮影できる。 ・プロンプター(原稿をモニターに映す装置)やビデオ2台を備えているため、スムーズな撮影、編集が可能。 |
公式サイト | https://www.message.intelligentv.co.jp/ |
タイトル | 「また、お会いしましょうね」 |
株式会社グランツ様「つたえびと」
つたえびとを運営するグランツ様は、テレビ番組制作を主体とする企業であり、本業ならではの映像演出が期待できます。
「遺言メッセージ」のほか、葬儀の参列者へ感謝の気持ちを伝える「葬儀メッセージ」、残された人に感謝の気持ちを伝える「ありがとうメッセージ」など、さまざまな映像によるサービスを提供しています。
会社概要 | ・〒151-0051 東京都渋谷区千 駄ヶ谷三丁目2−4 ミッテウメハラB1F ・設立 平成18年10月18日 |
事業概要・取扱内容 | ・企画・演出、映像制作業務テレビ番組、CM、企業VP、音楽PV、映画等の企画 ・演出や映像制作業務を承っております。 ・映像制作スタッフの派遣業務映像制作現場で、人手が足りない会社様に、弊社のスタッフを派遣しており ます。 ・イベント・芸能興行の企画 ・運営業務イベント、芸能興行などの、企画から準備、当日の運営と片付けまで、トータルで承る事がで きます。 |
特徴・強み | ・テレビ番組の制作を主体に行っている企業だから可能な映像演出。 ・データ化された映像データは2拠点に保存し、天災や人災にも対応。 ・オプションにより、映像に沿った遺言書の作成ができる。 ・弁護士事務所が顧問。 |
公式サイト | https://tsutaebito.co.jp/index.html |
タイトル | 伝えきれないを想いを届けます |
まとめ
本記事では、エンディングビデオメッセージサービスについて紹介しました。
エンディングビデオメッセージは、文字では伝えられない想いを自分の声、姿、表情で伝えることができるツールです。
残された人にとっては、いつでも会うことができ、ご本人にとっても自分の想いを伝えられることで、安心して旅立つことにつながるのではないでしょうか。
また、相続でトラブルが発生することが懸念される場合も、その意図を自分の声で伝えることが解決への有効な手段になるかもしれません。
近年の葬儀規模縮小や簡素化による葬儀施行単価の減少への対策として、各葬儀社様でも多種多様なサービスを提供し始めています。
その一つとして、エンディングメッセージは有効な選択肢になる可能性もありますので、各社が提供するサービス内容や対応範囲などの把握に、本記事を役立てていただければ幸いです。