葬儀社の業績・利益を調べる場合、帝国データバンク(TDB)か、商工リサーチ(TSR)、はたまた日経テレコンで調べるのが一般的ですが、いずれも有料です。
ちょっと知りたい、ざっくり今すぐ把握したい、葬儀社の業績・利益の比較をしてみたい、そんな方に向けてまとめました。
今回は株式会社 あっぷるの現状について、貸借対照表をもとに分析いたします。
上場企業の決算資料ほど詳細ではありませんが、事業の大まかな状況はつかめますので、ぜひ最後までご覧ください。
株式会社 あっぷるの概要
「株式会社 あっぷる」は兵庫県姫路市に本社を置き、兵庫県内で介護事業を運営しています。
「株式会社 あっぷる」は、兵庫・大阪・和歌山で冠婚葬祭互助会事業を営業している「株式会社 117」のグループ会社です。
「株式会社 あっぷる」の前身は、1988年1月に設立された「株式会社 民間救急サービス」で、2007年2月に現在の社名へと変更されました。
グループ会社には、葬祭サービス事業をメインに冠婚葬祭互助会事業を営業している「株式会社 117」と「株式会社 117メンバーズ」があります。
また、婚礼サービス事業がメインの「株式会社 大和生研」も、グループ会社として営業中です。
「株式会社 あっぷる」は現在、兵庫県内に以下の介護事業を展開しています。
- 住宅改修サービス 3店舗
- 通所介護(デイサービス) 5店舗
- 訪問入浴介護 1店舗
- 訪問介護(ホームヘルプ) 6店舗
- 多機能型居宅介護 3店舗
- 福祉用具レンタル・販売 3店舗
- 居宅介護支援 4店舗
- 介護タクシー・移送サービス 1店舗
- 半日型デイサービスサポート 2店舗
- グループホーム 6店舗
- 介護付有料老人ホーム 1店舗
葬儀社の決算公告とは
決算公告はその会社が健全な経営を行っているかを確認できる計算書類となります。以下に、決算公告についての簡単な概要を記載しました。
株式会社は定時株主総会の後に貸借対照表を公告する義務があり、その行為を決算公告と言います。
公告の方法は全部で3つあります。
- 官報に掲載
- 日刊新聞紙に掲載
- 電子公告(会社のウェブサイトに掲載)
決算公告は義務的な側面が強いですが、取引先や銀行に情報の開示を行うことで、自社の透明性や健全性を見せることができるという重要な側面も持ち合わせております。
なぜ葬儀社は決算公告をおこなうのか?
葬儀社の大手あるいは長年 葬儀・葬祭事業を営む会社は冠婚葬祭互助会を運営するケースが多いです。
冠婚葬祭互助会とは冠婚葬祭などの行事に備えるために毎月一定の掛金を複数回の支払いで積み立てるサービスとなっております。互助会の会員になることで葬儀や婚礼で割引などの優遇があります。
冠婚葬祭互助会は経済産業大臣の認可を受けた事業者となります。
会員から掛金として支払われた前受金は割賦販売法によって積み立てられた前受金の2分の1を次の何らかの方法で保全することが義務付けられています。
- 法務局に供託する
- 経済産業省の指定する保証会社と供託委託契約を結ぶ
- 銀行や信託会社などの金融機関と供託委託契約を結ぶ
上記のいずれかの方法を選択する必要があります。
また、経済産業省は割賦販売法に基づき互助会事業の経営指導や立入検査等を行っています。
なお現在、冠婚葬祭互助会事業者として登録されている事業者は以下より確認することができます。
経済産業省 前払式特定取引業者(冠婚葬祭互助会)許可事業者一覧
上記のように、冠婚葬祭互助会では政府・行政の認可団体として運営している側面があり、義務である決算公告を発表する事業者が多い状況です。
あっぷるの貸借対照表

貸借対照表でまずチェックしたい箇所は純資産の部です。総資産に対する純資産の比率である「自己資本比率」が高いほど、その企業の経営状態は良好であると考えられます。
例えば自己資本比率が50%以上であれば、経営状態は良好とされています。自己資本比率が10%を下回っている場合は経営状態は良いとは言えません。
自己資本比率が低い場合は借入金などの負債が多いので資金繰りが厳しいと予測ができます。
一方で、自己資本比率が高い場合は返済義務を有しない資金を大量に抱えているので倒産リスクは低くなると考えられます。
自己資本比率は中長期的にその企業の安定性を確認できる指標ですが、自己資本比率は業種によって大きく異なります。
例えば固定資産(建物や土地や機械など)を多く抱えている業種(製造業や鉄道会社)は最低でも20%程度はあると安心です。
逆に流動資産(ソフトウェアや”のれん”など)を多く抱えている業種(IT企業や卸売業)は最低でも15%程度は欲しいところです。
のれん:その会社が持つ技術やブランドで、目には見えない価値の高い資産のこと
貸借対照表の左右(運用状況と調達状況)の合計額は必ず一致する
「資産」=「負債」+「純資産」という計算式が成り立つことから、
貸借対照表のことをバランスシート(Balance Sheet)またはビーエス (B/S) と呼ぶこともあります。
あっぷるの自己資本比率は41.21%
自己資本比率は下記に示す式で計算します。
「自己資本比率(%)= 純資産 ÷ 総資産 × 100」
上記式により算出されるあっぷるの自己資本比率は下記のとおりです。
7億8千3百万円 ÷ 19億0千0百万円 × 100 = 41.21%
2022年6月期におけるあっぷるの自己資本比率は41.21%となり、これは前年同期の36.50%から12.90%の増加となりました。
あっぷるの自己資本比率は、2018年6月期の45.07%から43.06%→32.22%→36.50%→41.21%と推移しており、コロナ禍以前の水準に近いところまで回復しています。
あっぷるの利益剰余金の推移
利益剰余金とは簡単に言うと会社の貯金のようなもので、その会社の生んだ利益を分配せずにコツコツと社内で貯めたお金です。正確な会計用語ではないですが利益剰余金のことを内部留保とも言います。
内部留保は恐らく聞き馴染みのある単語だと思います。利益剰余金は貸借対照表で言うところの純資産の部に記載があります。
内部留保(利益剰余金)が多くあればあるほど、金融危機などの影響で経営が赤字になった際に従業員の給与や固定費の支払いに活用できるため企業が生き残るための重要な資金源となります。
あっぷるの場合は以下のように推移しております。

あっぷるの2022年6月期における利益剰余金は7億5千3百万円となっており、前年同期と比べて3百万円(0.4%)の増加です。
2019年6月期は数値が落ち込みましたが、これは資金を取り崩す状況が生じた可能性がありそうです。
その後は増加傾向で推移しており、今期では2018年6月期の水準まで回復しました。
利益剰余金は会社経営における不測の事態に充てる資金の一面をもっており、会社の貯金ともいえます。
あっぷるの利益剰余金は、会社経営の財務的な脅威に対する備えとして、十分に機能するでしょう。
あっぷるの損益計算書
損益計算書とは、企業が1年間の経営状況を把握するために作成される資料で、P/L(profit and loss statement)とも呼ばれます。
企業に入ってくるお金(収益)と、出ていくお金(経費)をまとめたもので、最終的な利益が確認できる資料です。
損益計算書

あっぷるの2022年6月期の数値は、売上高・総利益が過去5年間において、前年同期に続く2番目の値となっています。
2021年同様、新型コロナの影響と考えられる数値の落ち込みなどがみられず、経営が堅調に推移している印象です。
純利益の数値が低くなっていますが、特別損失が計上されており、これはコロナ禍で感染症対策の費用等を計上したことなどが考えられます。
特別損失は本来の事業活動の状況が悪化しているわけではないため、先に触れたように経営は堅調といえるでしょう。
売上金額の推移

あっぷるの2022年6月期における売上高は20億3千7百万円となり、前年同期の21億0千4百万円から6千7百万円(3.18%)の減少となりました。
コロナ禍にあっても過去最高の売上となった、2020年6月期と比べて減少したものの、売上高の水準は過去2番目の数値であり、堅調に推移した印象です。
コロナ禍以前の水準よりも売上が増加し、なおかつコロナ禍にあっても数値を落とさず推移したことは、経営努力が結果に表れたものと考えられます。
営業利益の推移
営業利益とは、主な営業活動で得られた「売上総利益」から「販売費および一般管理費」を差し引いたもので、1年間の本業における利益を表す数字です。
葬儀業界でいえば、葬儀施行や葬儀付帯業務などによる利益が、営業利益にあたります。

あっぷるの2022年6月期における営業利益は2千5百万円となり、前年同期と比べると2千1百万円(45.65%)の減少となりました。
過去5期を通して今期の利益は低くなりましたが、損益計算書をみても売上高は2番目に高い数値であることや、原価や販売費及び一般管理費などの数値が特別増加したわけではないなど、大きく損なうポイントはない印象です。
経常利益の推移
経常利益は、企業が1年間で得たすべての利益を表す数字で、「営業利益」+「営業外収益」-「営業外費用」で算出されます。
ここでいう「営業外収益」とは、主な業務以外の収益(金融商品・株・為替などの取引で発生した利益)を指します。

あっぷるの2022年6月期における経常利益は4千4百万円となり、前年同期と比べて3千4百万円(43.59%)の減少でした。
コロナ禍にあっても、過去5期を通じて最高の利益を計上した前年同期からは減少しましたが、2020年6月期と遜色ない数値で、今後の堅調な推移に期待が持てます。
株式会社 あっぷるのまとめ
今回は株式会社 あっぷるの決算公告をもとに分析をおこないました。
介護事業は医療事業とともに、新型コロナの影響を大きく受けた業界です。
しかしながらあっぷるでは、新型コロナの影響を抑えつつ堅調な経営ができた印象です。
経済状況がコロナ禍以前に戻りつつあるとしても、医療・介護領域にとっては「感染症」という観点から、コロナ禍以前の状況に戻るには、かなりの時間を要するものと見られます。
日常生活や経済状況の先行きとは別の位置づけで、医療・介護領域も先行きが不透明な状況です。
引き続きあっぷるの決算公告に注目していきたいと思います。
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