小学館から日本の「死因究明制度」に関する問題点に焦点を当てた「異状死 日本人の5人に1人は死んだら警察の世話になる」が発売されました。監察医制度の有無によって自治体ごとに対応が変わる現状が、少しでも改善されるきっかけになると良いのですが。
両親ともに異状死扱いとなった著者の体験を切り口に「死因究明後進国ニッポン」の問題点を浮き彫りにする。
異状死の遺族になると、どれほど面倒なことが待ち受けているのか?
本書のタイトル「異状死」は当事者になるまであまり耳にすることのない言葉だ。「異状死」とは死因不明の異常死体のことを指すが、その範囲は殺人や死体遺棄にかぎらない。自宅など病院以外での死亡や持病以外の死因の場合は、基本的に「異状死」として警察の捜査や医師による検視を受けることになる。
ちなみに、日本では年間約145万人(2021年/厚生労働省統計)の死亡者のうち約3割が病院以外の場所で死亡し、警察扱いの遺体が約17万人いる。老人ホームや介護施設での看取りが増えていくなかで、「異状死」の数も確実に増加傾向にある。
5人に1人という数字は他人事ではないのに、「異状死」に関する情報は少なく、初めて遭遇した家族は困惑する。著者もそのひとりだ。
«「ご愁傷様です。これから警察が来ますので、ご家族の方は出かけずに待機していてください」
警察が来る? 何のために? 何も知識がなかった私はその意味がわからなかった。
父は七月の猛暑をきっかけに体調を崩し、それこそ植物が朽ちていくような亡くなり方をした。しかも自室のベッドで本人の望む通り、眠るがごとく静かに大往生を遂げたのだ。その証拠に、長患いの果てのやつれた表情とはまったく別の、平穏な微笑みを浮かべてあの世へ旅立った。それなのになぜ警察が? 犯罪や事件とは無関係なのに……。
すると「お父さんはイジョウ死扱いになります」ときた。
この時に初めて「イジョウ死」という言葉を耳にしたのだが、その瞬間、「異常」というふた文字が頭に浮かんだ。なぜそんな言い方をされなければならないのか? 母と私は思わず顔を見合わせた。»
(本文より)
異状死の変事を一度経験すれば、次からは慣れるというわけではない。父を亡くしてから10年後、著者の母も突然死による異状死扱いとなったが、父の時とは別種の異常事態がふりかかる。
«葬儀社からやってきた二人の男性スタッフは、棺を指定した位置に置くと、「早速ですが」と切り出して、目の前に何枚かの領収書と請求書を並べた。
「合計で十三万四六〇〇円です」
異状死扱いになると、検案や搬送その他の費用は全額遺族負担だと事情聴取の際に警察から聞いていたが、まさか十万円を超すとは思わなかった。しかも現金払いのみだという。私は慌てて眼鏡をかけてしっかり請求額を確かめた。»
本書では、著者の体験を入り口に、身の回りの人間が「異状死」となった場合、どんなことが起きるのか、「ニッポンの奇妙な死因究明制度」の問題点を浮き彫りにする。
さらに、自身や家族が「異状死扱い」されないためにはどうすればいいのか、法医学者や警察医、在宅看取りを行う医師たちを取材し、その対策も探る。
〈目次〉
はじめに
第1章 父が、母が、「イジョウ死」扱いに
第2章 異状死という日常
第3章 異状死の異常な金銭考察
第4章 異状死は減らせるか
第5章 施設でも起きる異状死
第6章 死因究明になぜ淡泊なのか
第7章 世論の高まりこそ大切
あとがき
参考史料一覧
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小学館新書
「異状死
日本人の5人に1人は死んだら警察の世話になる」
著/平野久美子
定価:990円(税込)
判型/頁:新書判/288頁
ISBN978-4-09-825437-8
小学館より発売中(9/29発売)
本書の紹介ページはこちらです↓↓↓
https://www.shogakukan.co.jp/books/09825437
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【著者プロフィール】
平野久美子(ひらの・くみこ)
東京都出身。学習院大学仏文科卒業。編集者を経て執筆活動へ。学生時代から世界各国を巡り、その体験を生かして多角的にアジアと日本の関係をテーマとしている。ジャンルにとらわれずユニークな視点と綿密な取材で多数の作品を発表。日本文藝家協会会員、一般社団法人「台湾世界遺産登録応援会」顧問。