全国に設置された消費生活センター、および国民生活センターには「葬儀」「お墓」関連の相談が数多く寄せられています。
特に葬儀については、2000年に年間164件だった相談件数は増加を続け、ここ数年は700件ほどで推移している状況です。
商品やサービスに不満を持った顧客のうち、実際に不満を申し立てる方は約4%といわれています。
であれば、わざわざ消費者センター・国民生活センターに連絡して相談を行う方は一握りで、実際には何倍もの方が不満を抱えていると考えられます。
参照:NPO法人 顧客ロイヤルティ協会「Goodmanの法則」
そういった点を考慮すると、葬儀・お墓について、国民生活センターに寄せられた消費者のリアルな声は、各葬祭事業者・墓石事業者様にとって問題解決のカギとなる重要な資料です。
そこで本記事では、国民生活センターの仕組みや役割、葬儀・お墓に関する相談内容について解説します。
実際の相談例も紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。
国民生活センター(PIO-NET)とは
国民生活センターは消費者庁が所管する独立行政法人で「独立行政法人国民生活センター法」にもとづき設置されています。
そして国民生活センターと全国各地の消費者生活センターを結びつけているのが、PIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)です。
また国民生活センターを設置する目的については、「独立行政法人 国民生活センター法」において以下のように記されています。
『国民生活の安定及び向上に寄与するため、総合的見地から国民生活に関する情報の提供及び調査研究を行うとともに、重要消費者紛争について法による解決のための手続を実施し、及びその利用を容易にすることを目的とする。』
出典:独立行政法人国民生活センター法(平成十四年法律第百二十三号)
また「消費者基本法 第25条」により、以下のように規定されています。
- 国民の消費生活に関する情報の収集及び提供
- 事業者と消費者との間に生じた苦情の処理のあっせん及び当該苦情に係る相談
- 事業者と消費者との間に生じた紛争の合意による解決
- 消費者からの苦情等に関する商品についての試験、検査等
- 役務についての調査研究等
- 消費者に対する啓発及び教育等 における中核的な機関として積極的な役割を果たす
国民生活センターの役割
国民生活センターの役割としては、以下の3つがあげられます。
- 行政機関及び事業者団体等への要望、情報提供
- 全国の消費生活センター等に対する支援
- 消費者に対する注意喚起
上記の役割を果たすべく、国民生活センターが行っている具体的な業務内容は、主に以下の7つです。
- 相談
- 相談情報の収集・分析・提供
- 商品テスト
- 広報・啓発
- 教育研修・資格制度
- 裁判外紛争解決手続(ADR)
- 適格消費者団体支援
今回の記事で取り上げるのは、このうちの「相談業務」において消費者から実際に寄せられた、葬儀・お墓に関する生の声です。
国民生活センターの仕組み
国民生活センターは消費者からの相談を受けるだけでなく、消費者が不利益を被ることのないよう、報道機関を通じて公表するなど注意喚起に活用しています。
また法律に抵触する可能性のある情報については、関係機関に情報提供を行って摘発や指導につなげているようです。
国民生活センターの仕組みを表したものが、以下の図になります。
出典:国民生活センターについて(令和4年8月 独立行政法人国民生活センター)
PIO-NETに寄せられた葬儀・お墓に関する消費者の声
ここからはPIO-NETに登録された、葬儀・お墓に関する相談について、実例をあげながら紹介いたします。
いつの時代の話かと感じるほどの内容ですが、今回紹介するのは2015年に登録された相談です。
葬儀・お墓についてPIO-NETに寄せられた相談件数
2019年から2021年にかけて、PIO-NETに登録された葬儀・お墓に関する相談数は以下の通りです。
この数字には、全国の消費者生活センターに寄せられた相談数は含まれていません。
出典:国民生活センター「PIO-NETに登録された相談件数の推移(墓・葬儀サービス)」
葬儀に関する相談件数は、過去3年間にわたって相談件数は増加を続けており、2021年には800件近くの相談が寄せられています。
これには、新型コロナで亡くなったケースにおける、葬儀社の対応も影響している可能性が高そうです。
続いては、葬儀に関する相談内容の内訳をみていきたいと思います。
コチラについては、国民生活センターの報道発表資料国民生活センター「大切な葬儀で料金トラブル発生!-後悔しない葬儀にするために知っておきたいこと-」を参考にしています。
相談内容 | 相談件数 |
高価格・料金 | 205 |
説明不足 | 196 |
契約 | 134 |
見積り | 121 |
契約書・書面(全般) | 103 |
解約(全般) | 88 |
返金 | 88 |
他の接客対応 | 86 |
相談内容の上位を「高価格・料金」と「説明不足」が占めていますが、両者には密接な関係があります。
葬儀業界に長く身を置いている方にとって、葬儀費用が100万円を超えるのは当然と感じるかもしれません。
しかし一般消費者は喪主経験がない方がほとんどで、費用相場に関する知識がないため、適正価格であったとしても高額に感じる方が多いようです。
こういった認識の齟齬を埋めるためには、葬儀社側からの丁寧な説明が必要ですが、上記の結果をみると決して十分とはいえないようです。
一般消費者が葬儀業界に対して抱く「不透明」なイメージの元凶は、このあたりにあるのかもしれません。
PIO-NETに登録された相談実例
ここからは、実際に国民生活センターに寄せられた相談の実例を紹介していきます。
客観的にみれば葬儀社として非常識な対応ですが、こういった事例は少なからず発生しているのが実情です。
希望と異なる葬儀での高額請求
【事例1】義父が急死し、慌てて選んだ葬儀社から希望とは異なる契約を強く勧められた
施設に入所していた義父が突然呼吸停止し、病院に搬送されたがそのまま亡くなった。
病院か ら 2 時間以内に遺体を引き取るように言われ、どうしたらよいかわからず困っていたところ、電話帳を渡され自分で葬儀社を選んで連絡するよう言われた。
電話帳を開いて、最初に目の留まっ た大きな広告を出している葬儀社に連絡し、葬儀社の安置室に遺体を運んでもらった。遺体が安置されるとすぐに、葬儀社の担当者から葬儀のプランを考えなければいけないと言われ、悲しん でいる暇はないと気を取り直して話を聞いた。
「お金がないので家族葬でお願いしたい」と伝える と、「家族葬と言っても様々な追加料金が発生するので、結果的に一般葬と同じになりますよ」と 一般葬の契約を強く勧められた。何度も家族葬の希望を伝えたが、同じ説明を繰り返され、延々6 時間もやり取りし、最後には精神的な疲れもあり根負けして約 150 万円の一般葬の契約をしてし まった。
出典:国民生活センター「大切な葬儀で料金トラブル発生!-後悔しない葬儀にするために知っておきたいこと-」
葬儀は終わったが、お金がなく支払うことができない。どうしたらいいか。
(2015年9月受付、60歳代、女性、給与生活者、青森県)
この事例の問題点は、葬儀社の担当者が利用者の意向を汲み取る努力を怠り、自社の勝手な都合だけを押し通した点でしょう。
良心的な葬儀社様にとってはあり得ない対応でしょうが、残念ながら同様の事例は少なくないようです。
見積もりを出さない葬儀社
【事例2】葬儀の見積書がもらえず、請求も高額だと思う
母親が亡くなったので、市民葬儀を行っているという葬儀社に葬儀の依頼をしたが、葬儀社が見積書を持ってこなかった。
催促をすると、「後で請求書と一緒に渡す」と言われた。その後、斎場があるのでこの葬儀社を選んだのに、斎場は埃(ほこり)まみれの倉庫のような部屋で、祭壇もボロボロであった。
葬儀後に請求書が届いたが、市民葬儀で 100 万円を請求され高額だと思った。
出典:国民生活センター「大切な葬儀で料金トラブル発生!-後悔しない葬儀にするために知っておきたいこと-」
請求項目についても不審に思ったので、葬儀社に説明を求めたが、納得のいく説明がない。
(2015年4月受付、60歳代、女性、自営業、東京都)
この事例における最大の問題点は、見積書の提示を求められているにもかかわらず、提示しなかった点でしょう。
見積書の記載内容が不十分というケースは今でも時折耳にしますが、見積書を「後で請求書と一緒に渡す」では意味がありません。
葬儀業界に身を置いている方からすれば、この相談者が何故そのまま依頼したのか理解できないかもしれませんが、家族を亡くしたばかりの方が冷静な判断を下すのは困難です。
参列者数などが不明のため、請求金額の妥当性については判断できませんが、「人の弱みに付け込んだ」といわれても仕方ないような事例といえるでしょう。
説明が不十分で見積書に金額の記載がない
【事例3】追加サービスを了承したら請求額が高額である
入院中の父が突然死亡し、病院から遺体搬送を促され、葬儀社を紹介された。
葬儀社に「住んでいる集合住宅のエレベーターにストレッチャーが入らないので搬送費用は高くなるが、葬儀を契約すれば葬儀費用を 80 万円にする」と説明されたので、契約をした。葬儀の打ち合わせで家族葬を希望していると伝えたが、葬儀社からは司会や通夜ぶるまい等の追加サービスについて説明されたものの、おろおろして総額もわからないままに了承した。
見積書を渡されたが、金額が記載されていなかった。葬儀後、約 150 万円の請求をされたが、説明されていない項目の記載もあり納得できない。
出典:国民生活センター「大切な葬儀で料金トラブル発生!-後悔しない葬儀にするために知っておきたいこと-」
(2015年7月受付、40歳代、男性、給与生活者、東京都)
この事例では、金額が記載されていない見積書を渡されたとのことですが、これは見積書としての意味をなしていません。
葬儀規模が明示されていないので、請求額の150万円が妥当な金額かは不明ですが、納得してもらえなくても当然でしょう。
この事例における葬儀社の担当者は、必要な説明を行ったという認識かもしれませんが、明らかに説明が不十分です。
お墓の引っ越しで高額な離壇料の請求
【事例1】
自宅から遠く、自分も入るつもりはないので、墓じまいを寺に申し出たところ、300万円ほどの高額な離檀料を要求され困惑している。払えないと言うとローンを組めると言われた。(80歳代 女性)
【事例2】
跡継ぎがいないのでお寺に離檀したいと相談したところ、過去帳に8人の名前が載っているので、700万円かかると言われた。不当に高いと思う。(70歳代 女性)
上記の事例は、いずれも寺院からの離壇の際に、高額な離壇料を要求されたというものです。
にわかには信じがたいですが、実際に国民生活センターへの相談がなされている以上は、事実であると思われます。
ほとんどの寺院では、こういった要求を行うことは無いようですが、檀家の減少が顕著な寺院では起こりうるのかもしれません。
法律的には払う必要のない費用ですが、寺院の承諾を得ずに「墓じまい」は行えないため、現状では話し合いで解決するケースが多いようです。
出典:国民生活センター「墓じまい 離檀料に関するトラブルに注意」
葬儀社・墓石販売業者側ができること
ここまで国民生活センターに寄せられた消費者の声を紹介してきましたが、基本的に消費者側の一方的な主張だけです。
家族を亡くしたばかりの遺族は精神的に不安定な状態に陥りやすく、事業者側が行った説明を理解出来ていないケースも少なくありません。
こういったケースでは、事業者側にとっては言いがかりに近いようなクレームが、国民生活センターに寄せられる可能性もあります。
国民生活センターは消費者に問題解決のアドバイスを行いますが、消費者と事業者間の話し合いで解決できない場合は、和解の仲介や仲裁に発展するケースもあります。
そうなった場合に、葬儀社・墓石販売業者側が正当性を主張するためには、証拠となる書面が必要です。
今回紹介した事例でも「見積書を出さない」「見積書に金額の記載がない」というケースがありました。
こうした対応をとった場合、事業者側が「契約させるために意図的に隠した」と判断されても反論のしようがありません。
こういった点を考慮すれば、事業者側が正当性を主張するためにも、消費者に適切な説明を行った証拠として、見積書を含めた書類の作成と保存は不可欠でしょう。
葬儀施行後の消費者トラブル防止にもつながりますので、詳細な見積書を提示したうえでの丁寧な説明をおすすめします。
PIO-NETのデータからみた葬儀業界の問題点
国民生活センターには、葬儀に関する相談が毎年700件ほど寄せられますが、その多くは4つのカテゴリーに集約されます。
ここからはPIO-NETに登録された事例をもとに、現在の葬儀業界における問題点について考えてみたいと思います。
契約および解約について
葬儀に関する相談で多いのが「しつこい勧誘で契約させられた」「解約に応じてもらえない」といった声です。
さらに冠婚葬祭互助会については、高額な解約金が原因で裁判にまで発展したケースも発生しています。
葬祭事業者は営利企業ですので、営業担当が勧誘を行うのは正常な企業活動ですが、消費者の中には迷惑に感じる方も多いでしょう。
そういった方に対して執拗に契約を迫る行為は、企業にとってイメージダウンにつながりやすく、トラブルの原因にもなります。
またPIO-NETに登録された相談の中には、葬儀社の営業担当者が消費者に契約を結ばせるために、虚偽の説明を行ったというケースもあるようです。
虚偽説明(不実告知)を行った場合、消費者庁による指導・行政処分の対象になることもあります。
これまでの葬儀業界で行われてきた営業方法の中には、現時点で触法行為にあたるものもあり、企業として従業員の営業活動を見直す必要がありそうです。
価格・料金について
国民生活センターに寄せられた価格や料金に関する相談の多くは、請求金額が想定よりも高いというものです。
しかし相談内容をよくみてみると、葬儀社・利用者間における認識の齟齬が原因と思われる事例が少なくありません。
葬儀にかかる金額は葬儀本体の費用だけでなく、会食や返礼品などの変動費用や僧侶へのお布施が別途必要になります。
そのため葬儀費用50万円のプランを利用したとしても、総額が100万円を超えるケースが珍しくありません。
こういった事情は、葬儀業界では当たり前のことですが、一般消費者にとって理解しにくい点となります。
また契約を急ぐあまり、低めの見積もりを提示している事例も散見されることから、営業担当者の教育が不十分なケースも多いようです。
業界内の常識は一般常識ではない点に注意をはらい、利用者が理解できるよう丁寧な説明を心掛ける必要があります。
販売方法について
国民生活センターに寄せられた声の中には「病院で亡くなった方のご遺体について、搬送準備を勝手に始めた葬儀社がいた」といった事例があります。
かつては病院に常駐している葬儀社従業員が、こうした振る舞いをすることもあったようですが、未だに存在しているとは驚きです。
ここまでではないにしても、葬儀社の勧誘方法が強引といった声は、今でも多く寄せられているようです。
また「事前の説明と実際の葬儀施行内容が異なる」といったケースも、少なからず発生しています。
葬儀終了後に「間違いでした」と説明しても、納得する利用者はいないでしょう。
葬儀の打ち合わせに際しては、詳細に確認しながら進める真摯な姿勢が求められます。
問題を放置した場合に起きること
消費者が商品やサービスに不満を感じた場合、周囲の10人に伝えるといわれています。
しかしSNSの浸透により個人の発信力が強くなった現在では、さらに多くの人に伝わる可能性が高いでしょう。
また悪い口コミが企業イメージに与える影響は、良い口コミに比べて2倍以上ともいわれています。
こういった点を考慮すれば、問題を放置した場合に企業イメージの棄損は免れないでしょう。
商品やサービスに不満を感じた消費者の行動は、事業者の対応次第で徐々に強いものになると考えられます。
具体的には、下図のようにエスカレートすることが想定されますが、国民生活センターへの相談は法的措置の一歩手前の状況です。
事故の発生についての経験則「ハインリッヒの法則」では、1件の重大事故が発生するまでに29件の軽微な事故が発生しており、さらに300件のヒヤリハット事象が隠れているとされています。
これはクレームにも通じるもので、1件のクレームの陰には消費者の不満が隠れていると認識すべきでしょう。
もし自社にクレームが入った場合、たった1件と捉えるのではなく、重大な問題として受け止めることが大切です。
軽く考えて問題を放置すれば、最悪の事態にもなりかねませんので、見落とさないよう留意する必要があります。
まとめ
今回は国民生活センターに寄せられた消費者の声を参考に、葬儀業界の問題について分析しました。
今回紹介した事例は、年間数百件寄せられる相談のほんの一部ですが、似たような話を聞いたことがあるという方もいらっしゃるでしょう。
1つの業界に長く身を置いていると、客観的に物事を見るのが難しくなります。
しかし消費者の生の声を確認することで「自分のいる世界が外部からどう見えているのか」について、認識を改めることも可能です。
また消費者の視点に立って、自社の運営状況を見直すことで、問題点が浮き彫りになる可能性もあります。
葬研では現在、国民生活センターに寄せられた最新の相談事例を取り寄せ、カテゴリーごとにまとめています。
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