「葬送基礎講座」とうたいながら、「葬送」「葬祭」「葬儀」について基本的なことを論じてこなかった。
「葬送」は死者を弔い葬ること総体を指す用語で、分野でいえば「葬儀」と「墓」全体を包摂する用語である。
「葬祭」は一部で「成人式」等の人生儀礼を「祭」として「葬」と分離する説もあるが、一般には葬儀とその後の四十九日、法事等を合わせた「葬祭」というジャンルを指す。
ここではもっとも一般的な「葬儀」という用語を切り口に説明しよう。
「葬儀」を広辞苑はどう説明しているか?
手元にある『広辞苑第4版』では
「死者をほうむる儀式。葬礼。葬式。」とある。
「葬礼」は
「死者を葬る儀式。葬式。」
「葬式」は
「死者を葬る儀式。葬儀。」とある。
こんなのは説明とはいえない。
まとめると「『葬儀』も『葬式』も『葬礼』も『死者を葬る儀式』という意味。」ということになってしまう。
世間では広辞苑が日本語辞典としては正確で正しいという俗信があるようだが、広辞苑に間違いはあるし、語義解説として無意味なものが多い。
語感としては、「葬礼」は日常使用されることはほとんどなく、「葬送儀礼」に対する人間の態度一般、儀礼総体を論ずる時に用いられることが多い。
「葬儀」と「葬式」はほとんど同じであるが、「葬儀」は書いたり、論じたりする時に用いられることが多く、「葬式」はより日常会話で用いられることが多い。
しかし広辞苑も肝心な点は押さえている。
「死者を葬る」儀式、とある。
人の死、死別という特別な出来事が発生したことによって営まれる儀式であることを理解しないで葬儀を論ずることはできない。
「葬儀」には大きく2つの用法がある。
「葬送儀礼」の短縮語としての「葬儀」
1つは「葬送儀礼」の短縮形である。
「葬送儀礼」とは死者が発生する前の看取りから始まり死亡後のさまざまなプロセスを踏み、火葬(埋葬)した後の儀礼に至るまで、およそ四十九日までの一連の本人の家族・関係者による営み、儀礼のことである。
しかし、看取り、安置、通夜、葬儀、火葬、四十九日という儀礼を外面にのみに注目しては全体的に理解しているとはいえない。
葬送儀礼においては、家族・関係者の心的内部で死別した死者のために行われる祈り、供養、内面で発生するけっして一律ではないグリーフ等の心的葛藤(怒りも含めて)や個別のさまざまな心的プロセス(それが身体におよぶこともしばしばだが)が併行しある事実をないがしろにすることはできない。
むしろ死別で発生する人間の内的なものが葬送儀礼を支える核心としてある。