葬祭業は「成長産業」か?
「葬祭業は成長産業」という神話が一時、一部の経済雑誌で囃し立てられたことがある。
高齢化が進み、死亡数が増加していることを根拠にしたものである。
戦後長く年間死亡数は60~70万人台であった。しかし、高齢化が進むことにより、
1990(平成2)年に80万人台に突入、
1995(平成7)年には90万人台に、
2003(平成15)年には100万人台に、
2007(平成19)年に110万人台に、
2011(平成23)年に120万人台に、
2016(平成28)年には130万人台となった。
2018(平成30)年は確定数ではなく推計値だが136万9千人となっている。
社会保障・人口問題研究所「将来推計人口」(平成29)によれば2030年には160万人を超えると推計されている。
ただ死亡数の増加をもってだけで葬儀業を成長産業とする見方は少ない。
1995(平成7)年に始まり、2008(平成20)年のリーマン・ショックによって加速された葬儀の個人化、低価格化の大波が、他の産業同様に、葬儀の世界を襲ったからである。
経産省「特定サービス産業動態統計調査」
葬儀業のマーケット規模は1兆5千億円前後から2兆5千億円という大きな幅をもって推定されているが、それを検証する。
推定根拠として必ず登場するのが、経産省「特定サービス産業動態統計調査」。
15.葬儀業(Funeral Services)
15表 葬儀業の売上高、取扱件数、事業所数及び従業員数(売上高は百万円、その他は数)
年 | 売上高(百万円) | 取扱件数 | 事業所数 |
2016(平28)年 | 599,610 | 420,585 | 2,291 |
2017(平29)年 | 611,248 | 435,001 | 2,361 |
2018(平30)年 | 604,400 | 439,866 | 2,417 |
※従業者数は省略
注意すべきは調査事業所数が年によって変わっていること(厳密には月で異なる)。
そのため年合計値で年と年の比較はできない。
ここから導き出される有効な数字は売上高を取扱件数で割り1件当りの売上高を推計すること。この結果が以下。
年 | 売上高(百万円) | 取扱件数 | 1件当り |
2016(平28)年 | 599,610 | 420,585 | 1,425,657円 |
2017(平29)年 | 611,248 | 435,001 | 1,405,165円 |
2018(平30)年 | 604,400 | 439,866 | 1,374,055円 |
ここから出る有意な数字は16年から18年にかけて葬儀料の1件当りの売上高が毎年低下している傾向にあること。
調査企業は全数調査ではなく、業界内で比較的に大規模なところを中心に抽出していることに注意する必要がある。つまりこの1件当りの売上高は高めになっている。
よく見る誤りが、ここで導き出された1件当りの売上高にその年の死亡数を乗じて総売上高を推計するもの。仮にこの方式で推計するとこうなる。
年 | 1件当り | 死亡数 | 総売上高 |
2016(平28)年 | 1,425,657円 | 1,307,748 | 1兆8644億円 |
2017(平29)年 | 1,405,165円 | 1,340,397 | 1兆8835億円 |
2018(平30)年 | 1,374,055円 | 1,369,000 | 1兆8811億円 |
※死亡数は人口動態総覧より、2018年は推計。
これが「1兆8千億円市場」という大方の推計根拠である。
※葬儀単価は企業規模が大きいほど高く、小さいほど低い傾向にある。大手では1件当りの売上高が160万円程度となるところもあるが、小さい企業ではやっと80万円という例も少なくない。