広済堂ホールディングス(以下 広済堂HD)の売上・利益といった業績から、葬祭関連事業についての内容をまとめました。
葬祭関連事業といっても、グループ内にある東京博善社がおこなう火葬施設運営をおこなっており、こちらが主たる事業となっております。
しかし、昨今では葬儀・葬祭サービスの提供も始めているようで、近年では話題になっております。
理由としては、火葬施設の運営は自治体から委託される事業となり、公益性の高い内容となりますので該当地域における既存の葬儀社では不安が広がっている様子です。
そこで本記事では、広済堂HDの財務状況を分析するとともに、葬祭関連事業の動向を紹介します。
広済堂HD 2022年3月期 決算期の内容
広済堂HDは上場企業ですので、四半期ごとの決算短信と年1回の有価証券報告書開示が義務付けられています。
株主以外の方が関心を寄せることの少ない決算資料ですが、経営状態や財務状況に関する情報が詳細に記載されており、企業の内部事情を把握するうえでは欠かせない資料です。
ここからは広済堂HD決算資料を確認しながら、分析を進めていきたいと思います。
広済堂HDの決算数字
決算資料に掲載されている「貸借対照表(たいしゃくたいしょうひょう)」や「損益計算書(そんえきけいさんしょ)」を確認すれば、企業の財務状況がかなり正確に把握できます。
決算資料に記載されている数値のうち、主要な項目を以下に抽出してみました。
- 売上高:353億6千1百万円(前年同期比12.27%増加)
- 営業利益:37億2千9百万円(前年同期比84.88%増加)
- 経常利益:36億1千万円(前年同期比98.03%増加)
- 当期純利益:36億9百万円(前年同期比331.70%増加)
出典:広済堂ホールディングス 第58期(2021年4月1日~2022年4月1日)有価証券報告書
上記の数値を見る限り、広済堂ホールディングス全体の財務状況は、堅調に推移しているようです。
広済堂HDには22の子会社があり、それぞれ「情報」「人材」「葬祭」の事業種類別セグメントに分かれています。
このうち「葬祭」セグメントに含まれるのが、火葬施設を運営する東京博善と、葬祭事業である「株式会社広済堂ライフウェル」です。
*2023年1月現在では、燦HDとの合弁事業「グランセレモ東京」も葬祭事業の1つですが、創業時期が2022年4月1日のため今回の決算資料には含まれていません。
ここからは、広済堂HD内における「葬祭」事業の位置づけを確認すべく、セグメントごとの売上高・利益について分析します。
広済堂HDにおけるセグメントごとの売上高・利益
広済堂HDにおけるセグメントごとの売上高・利益を抽出し、まとめたのが下表です。
売上高については中核事業である印刷事業を含む「情報」セグメントが最多となっている一方、利益では「葬祭」セグメントの数値が際立っています。
それぞれのセグメントにおける利益率は以下の通りです。
- 情報:3億7千7百万円÷192億7千4百万円=1.96%
- 人材:3億4千1百万円÷77億9千3百万円=4.38%
- 葬祭:30億8千3百万円÷93億8千4百万円=32.85%
「葬祭」セグメントにおける利益率の高さが目を引きます。
次に広済堂HD全体における、各セグメントが占める売上高・利益の割合を示したのが、以下のグラフです。
「葬祭」セグメントの利益は、広済堂HD全体利益の81.1%を占める状況となっています。
上記の状況をみると、上場企業である広済堂HDが葬祭事業に力を入れるのは、当然といえるかもしれません。
広済堂HDの葬祭関連事業の動向
東京23区内の火葬事業を担ってきた東京博善と広済堂HDとのかかわりは、1985年5月に始まります。
東京博善と広済堂HDの関係性に関して、創業から現在までの流れは以下の通りです。
ここからは、広済堂HDのライフエンディング領域における動向を、時系列に沿って紹介します。
株式会社KOSAIDO Innovation Lab設立
2019年11月に発表された「経営改革ロードマップ2020」、および第4次中長期計画「廣済堂大改造計画 2020」の実現に向け、廣済堂グループの収益力強化に向けた戦略子会社として、2020年4月1日に設立されたのが「株式会社KOSAIDO Innovation Lab(略称:KOIL)」です。
「新規事業の創出」と「既存事業のイノベーション促進」の役割を担うべく設立されたKOILの業務には、葬祭関連事業の強化も含まれていました。
その後2021年1月には「廣済堂シニア・エンディングプラットフォーム構想」策定を発表しています。
またDX(Digital Transformation)の推進に向けて、葬儀業界からも人材を迎え入れています。
KOILにディパーチャーズ・ジャパン代表 木村光希氏が参画
KOILにおける「廣済堂シニア・エンディングプラットフォーム構想」の一環として、一般社団法人日本納棺士技能協会 代表理事である木村 光希氏を顧問就任を、2021年2月に発表しました。
東京博善が運営する火葬施設での、「納棺儀式サービス」提供に向けた動きと考えられます。
発表自体は2021年2月4日におこなわれていますが、すでに木村氏の顧問就任後だったようですので、実際の就任時期は2021年1月中の可能性が高そうです。
実際に、東京博善のご遺体安置施設「お花茶屋会館」では、他の火葬施設に先駆けて、2021年1月から「納棺儀式サービス」の提供を開始し。ています
「葬送オンライン」の試験運用開始
2021年3月26日に、葬儀社向けのオンライン葬儀プラットフォーム「スマート葬儀」を提供する「ライフエンディングテクノロジーズ」とKOILとの業務提携契約が締結されました。
また同日付で、東京博善の町屋斎場において、オンライン葬儀サービス「葬送オンライン」の試験運用が開始されています。
「納棺の儀」サービスの提供開始
2021年5月22日より、東京博善が運営する6か所の火葬施設すべてで、シャワー湯灌や着替え・メイクなどの「納棺の儀」サービスの提供が開始されました。
基本的には各火葬施設の斎場を利用される方、あるいは安置施設を利用される方向けのサービスのようです。
「お花茶屋会館」には「お別れ室」が用意されているので、着替えの際にもにご遺族が立ち会えましたが、町屋斎場、落合斎場、代々幡斎場、桐ヶ谷斎場では「お別れ室」が用意されていないため、立会不可とされています。(メイクの立ち合いは可能)
参照:東京博善 納棺サービス内容の変更及び対象斎場拡大のご案内
株式会社広済堂ライフウェル設立
廣済堂グループ全体の収益力強化を目的として設立されたKOILですが、エンディング関連事業以外の業務を本部事業戦略室に移管されました。
この組織改編に伴い、2021年6月1日から社名を「広済堂ライフウェル」に変更し、活動範囲を新規エンディング事業の開発、および葬祭既存事業の拡大に特化させたようです。
参照:広済堂ライフウェル
株式会社グランセレモ東京設立
公益社などの葬儀社を傘下に持つ「燦ホールディングス」との合弁事業として、2022年4月1日に「グランセレモ東京」が設立されました。
基本的には、東京博善が運営する火葬施設に併設された斎場において、葬祭サービスを提供するようです。
広済堂ライフウェルが提供する低価格帯葬儀プラン「東京博善のお葬式」についても、葬儀施行会社として「グランセレモ東京」が記載されています。
とはいえ「グランセレモ東京」でも独自の葬儀プランを設定しており、より高品質な葬祭サービスを提供することで、異なるターゲット層を想定した棲み分けがなされているようです。
エンディング産業展の事業譲渡を受ける
葬祭業界の大規模展示会の1つである「エンディング産業展」ですが、運営会社であるTSO Internationalと東京博善との間で、2022年10月3日に事業譲渡契約が締結されました。
今後は広済堂HDの子会社である東京博善が主催者となりますが、TSO Internationalも共催・運営サポートという形式で運営されるようです。
これまでは出展企業との利害関係がないTSO Internationalが運営していましたが、主催者が東京博善となることで、どういった変化が生じるのか注目されるところです。
ハウスボートクラブとの業務提携契約締結
海洋散骨サービスを中核事業とするハウスボートクラブと東京博善との間で、2022年12月5日に業務提携契約が交わされました。
東京博善の火葬施設を利用された方のうち、海洋散骨サービスの利用希望者に対し「海の上で偲ぶ機会」を提案するとのことです。
ハウスボートクラブは、葬儀ポータルサイト「いい葬儀」などを運営する鎌倉新書の子会社ですので、葬祭関連の上場企業がつながりをもつかたちとなります。
まとめ
今回は広済堂HDの財務状況分析、および葬祭関連事業における動向について解説しました。
広済堂HDの利益において、葬祭事業が8割以上を占める状況が、お分かりいただけたかと思います。
広済堂HD自体は営利を目的とした民間企業ですので、利益を追求するのは当然の権利でしょう。
収益の主軸となる葬祭事業に注力するのも、経営判断としては十分に理解できます。
しかし東京博善が運営している火葬事業は非常に公益性が高いため、永続性と非営利性の確保が求められています。
本来は公営とすべき火葬事業を民間企業に委託する以上、管理・監督責任は行政側にありますので、問題解決に向けて適切な対応が不可欠でしょう。