葬儀事業を営んでいる方にとって「日本全国に葬儀社は何社ぐらいあるのか」は、把握しておきたいデータの1つです。
特に、独立開業や異業種からの新規参入を検討している方にとっては、市場状況の分析にあたって、なおさら気になるところでしょう。
しかし実際のところ、葬儀社を開業するにあたって、特別な資格や国からの許認可・届出などは必要ないため、葬儀社の全数は公的機関でも把握しきれていないのが実情です。
とはいえ目安となる数字だけでも知りたい・把握したいという方も多いかと存じます。
そういったニーズに応えるべく、本記事では各種データから推測される葬儀社数など、葬儀業界に関する数字情報をピックアップしてまとめました。
今後の葬儀事業運営にも役立つかと思いますので、ぜひ最後までご覧ください。
葬儀社数をさまざまなデータから分析
前述したように、葬儀社の開業自体はさほど難しくありませんが、長期的な事業継続は容易ではありません。
超高齢化社会を迎えた日本では、2040年にピークを迎えるとされる多死社会に向けて葬儀業界への新規参入が相次ぎ、業界内での競争が激化している状況です。
また、都市部を中心に葬儀の小規模化・簡素化が進んでおり、葬儀の施行件数自体は増加しているものの、葬儀単価は下落傾向にあるため、既存葬儀社でも収益確保に苦戦しているようです。
こうした状況下で葬儀事業を継続させるためには、積極的な情報収集が欠かせません。
その際に役立つ情報として、ここからは特に重要な数値データを紹介します。
経済産業省による調査データから推測される葬儀社数 6,892社
日本全国に存在する葬儀社の数に関するデータとしては、経済産業省が公表している『特定サービス産業実態調査報告書』が最も信頼性が高いと考えられます。
令和元年9月に公表された『平成30年 特定サービス産業実態調査報告書 冠婚葬祭業編』に記載された主なデータは以下の通りです。
■冠婚葬祭事業所数:9,092ヵ所
・本社:1,095ヵ所
・支社:3,951ヵ所
・単独事業所:4,036ヵ所
支社は本社に付随すると想定されるため、実質的な企業数としては、支社数から本社数を引いた2,856社に、単独事業所数4,036社を加えた6,892社と考えられます。
■従業員数
- 4人以下: 3,213ヵ所
- 5人~9人 :2,344ヵ所
- 10人~29人 :2,757ヵ所
- 30人~49人 :487ヵ所
- 50人~99人 :214ヵ所
- 100人以上:77ヵ所
上記データから、従業員数30名以下の事業所が大半を占めている状況が見て取れます。
■年間売上高
- 1千万円未満: 393拠点
- 1千万円以上3千万円未満: 960拠点
- 3千万円以上1億円未満 :2,307拠点
- 1億円以上10億円未満 :5,239拠点
- 10億円以上 :194拠点
企業情報データベースが収集する企業データから推測される葬儀社数 7,719社
葬儀社数についてネットで検索しても、現実に即したデータはなかなか見当たりません。
しかし、さまざまな業界の企業情報140万件以上をデータベース化している株式会社 Baseconnect様のデータであれば、他の情報に比べ信頼性は高いと思われます。
Baseconnect様が公開されている『葬儀業界の会社・企業一覧(全国)』には、7,719社が掲載されていました。(2023年3月30日時点)
しかしこの数字の中には、仏壇販売専門店なども含まれており、葬儀社だけを抽出したものではありません。
とはいえ、葬儀事業を営む仏壇販売店もあれば、逆に葬儀社が仏壇販売をおこなうケースも少なくないため、そもそも事業の境目自体が曖昧といえるでしょう。
そういった点を考慮すると、Baseconnect様のデータにある7,719社という数字は、実体にかなり近いと考えられます。
なおBaseconnect様が公開されているデータは、地域を指定して絞り込めますので、自社の周辺にある葬儀社情報のみを入手することも可能です。
出典:Baseconnect『葬儀業界の会社・企業一覧(全国)』
総合ユニコム社の調査データにより全国の葬儀会館数 9,616会館
『月刊フューネラルビジネス』の発行元である綜合ユニコムの調査によると、全国には少なくとも9,616か所の葬祭会館があるようです。
また全国の公共火葬場に併設された式場も308か所あるとのことで、合計では1万カ所以上となります。
冠婚葬祭互助会や大手葬儀社など、豊富な資金力をもつ企業が1社で100ヵ所以上の斎場を所有している一方、都市部では寺院に併設された優良な貸斎場が多くあるため、自社斎場をもたない葬儀社も少なくありません。
こういった事情から、葬祭ホール数データのみを根拠に全国の葬儀社数を推測するのは困難です。
しかし行政データから導き出された6,892社という数字、およびBaseconnect様のデータにある7,719社という数字は、葬祭ホール数データと照らし合わせても矛盾は感じられません。
このことから、日本全国に存在する葬儀社数は、おおむね7,000社前後と考えても大きなズレは無いものと思われます。
正確な葬儀社数が把握できない要因
前述したように、冠婚葬祭互助会事業は経済産業省の認可事業ですので、事業者数も行政側で正確に把握しています。
しかし専門葬儀社については、開業にあたって許認可や届出が必要ないため、正確な実数の把握は出来ていません。
こうした状況による弊害も出始めていることから、葬儀業への届出制導入を求める動きも出始めているようです。
全日本葬祭業協同組合連合会からの提言を受け、すでに国会でも取り上げられています。
出典:ニッポン消費者新聞『葬儀業界に届出制度を 初の国会質疑 法規制なくトラブル発生』
近年の葬儀ポータルサイトによる景品表示法違反や、新型コロナウイルス感染症で亡くなった方に対する高額請求など、消費者トラブルも増加していることから、佐藤英道副 厚生労働大臣も「まずは、国内外の実態調査に取り組んでいく」と答弁しています。
今後、もし葬儀業に届出制が導入されれば、全国の葬儀社数も正確に把握されるでしょう。
葬儀事業関連の主要業界団体と加盟社数
葬儀業界には複数の業界団体が存在しますが、そのうち「全日本葬祭業協同組合連合会 (全葬連)」「全日本冠婚葬祭互助協会(全互協)」「全日本冠婚葬祭互助支援協会(全冠協)」が代表的です。
多くの葬祭企業が加盟している上記3団体は、行政と加盟企業をつなぐ存在としても機能しており、大規模災害発生時などは中心的な役割を果たしています。
全日本葬祭業協同組合連合会 (全葬連)
全国の専門葬儀社のうち1,262社(令和5年3月現在)が加盟する「全日本葬祭業協同組合連合会 (全葬連)」は、経済産業大臣の認可を受けた日本最大の葬祭専門事業者団体です。
記憶に新しいところでは、厚生労働省の『新型コロナウイルス感染拡大防止ガイドライン』の作成にも協力しています。
昭和31年(1956年)11月19日に創立された同団体の会長は、神奈川県の株式会社 さがみ葬祭 代表の石井 時明氏が務めています。
全日本冠婚葬祭互助協会(全互協)
全国に約240社ほど存在するとされる冠婚葬祭互助会のうち、206社(2022年10月現在)が加盟しているのが「全日本冠婚葬祭互助協会(全互協)」です。
近年では、厚生労働省の『新型コロナウイルス感染拡大防止ガイドライン』の作成にも協力しています。
昭和48年(1973年)に設立された同団体の会長は、株式会社 メモワール 代表の渡邊 正典氏が務めています。
全日本冠婚葬祭互助支援協会(全冠協)
全日本冠婚葬祭互助支援協会(全冠協)の加盟企業は55社と全互協に比べ少ないですが、会員企業の多くを大手冠婚葬祭互助会が占めています。
冠婚葬祭に関する儀式の研究・教育や市場動向の分析など、冠婚葬祭互助業界全体をリードする役割を果たしているようです。
平成26年(2014年)6月4日に設立された同団体では、名誉会長を株式会社 セレマ 代表の齋藤 秀市氏、会長・代表理事を株式会社 ベルコの代表 齋藤 斎氏が務めています。
また全互協会長の渡邊 正典氏は、全冠協の副会長・理事も兼任しています。
冠婚葬祭互助会について
冠婚葬祭互助会の前受金保全や経営支援などをおこなう「互助会保証株式会社」によると、全国には約240社(2021年時点)の冠婚葬祭互助会が存在するとされています。
また、前受金残高ベースで全国に存在する互助会の約98%を占めるされる「一般社団法人全日本冠婚葬祭互助協会」には、2022年10月現在で206社が加盟しているようです。
下のグラフは冠婚葬祭互助会に関する数値を表していますが、互助会事業者数は1986年をピークに年々減少を続けていることがお分かりいただけるかと思います。
そのような状況下においても、前受金残高は増加を続けていましたが、2022年をピークに減少に転じました。
まとめ
今回は葬儀業界に関係する主要な数字や、葬儀事業を取り扱っている事業者の種類を中心に紹介しました。
現在の葬儀業界は、決してブルーオーシャンと呼べるような状況ではないことが、ご理解いただけたかと存じます。
実際のところ、葬儀業界は多種多様な企業が複雑に入り組んだ状態で構成されており、全体像を把握するのは困難な状態です。
しかし近年では企業の情報開示も進みつつあり、以前に比べて情報は入手しやすくなっていますので、正確な葬儀社数が把握される日も遠くないかもしれません。
本記事の内容が、葬儀事業を展開されている、あるいは独立開業や新規参入を検討されている方の、葬儀業界の現状把握や市場分析に役立てば幸いです。