慢性的な人材不足といわれる葬儀業界では、会社の将来を担う人員確保に向けた採用活動が不可欠でしょう。
すでに多くの葬儀社様では、積極的に採用活動を実施されているようですが、難航しているケースも少なくないようです。
効率的に人員を確保するためには、同業他社の採用条件を把握したいところですが、従業員の待遇に関する情報を公開している葬儀社様はほとんどありません。
しかし株式上場を果たしている企業は情報公開の義務があるため、上場葬儀社様では従業員の平均年齢や平均年収を公開されています。
そこで本記事では、上場葬儀社7社が公開している情報をもとに、各社における従業員の待遇などについて紹介します。
さらなる採用活動の強化を検討されている葬儀社様にとっては、参考になる情報かと思いますので、ぜひ最後までご覧ください。
上場葬儀社7社の平均年齢と平均年収
株式上場を果たしている企業では、株主への情報開示の一環として、詳細な財務状況が記載された有価証券報告書を公開しています。
この有価証券報告書に掲載されている「従業員の平均年齢」や「従業員の平均年収」といった情報をまとめたのが、以下のグラフです。
株式会社 ニチリョク 第56期有価証券報告書(EDINET)
グラフを確認すると、燦HD様の平均年齢や平均年収が高い印象を受けるかもしれませんが、このあたりについては組織構造の事情が関係しています。
ここからは各社の状況について、詳細に確認していきます。
平安レイサービス様
平安レイサービス様の上記データは、正社員のみを対象にしていると考えられます。
このうち葬祭事業に従事している方は117名と、全体の約66%を占めていることから、平均年齢や年収の数値も、ある程度参考になると考えられます。
平安レイサービス様は神奈川県を中心に冠婚葬祭事業を展開しており、県内47カ所に「湘和会堂」「カルチャーBOND」名義で葬祭施設を展開しています。
葬祭事業における求人内容を確認すれば、採用に関する実情がみえてくるかもしれません。
公式ホームページで募集されている「葬祭ディレクター(中途採用)」の待遇は以下の通りです。
- 給与:月給23.5万 ~ 40万円+諸手当+賞与
- 年齢:18歳~59歳以下 要普通免許(AT限定OK)
- 勤務地:
- 小田原エリア・平塚・大磯エリア
- 秦野・伊勢原エリア
- 茅ヶ崎・寒川エリア
- 藤沢・鎌倉エリア
- 町田・相模原エリア
- 厚木・海老名・大和エリア
サン・ライフHD様
サン・ライフHD様では正社員だけでも502名が勤務されていますが、平均年齢や平均年収データの対象となっているのは管理部門のみとなっています。
これはサン・ライフHD様が、実際に業務を行う「株式会社サン・ライフ」を100%子会社化している純粋持株会社であるためです。
こういった事情から、上記のデータには「式典事業」に従事される方々の待遇は反映されていません。
葬祭事業における求人内容を確認すれば、採用に関する実情がみえてくるかもしれません。
公式ホームページで募集されている「セレモニースタッフ(中途採用:正社員)」の待遇は以下の通りです。
- 給与:月給 19万円 ~ 22万円 家族手当、会員募集手当、受注手当、施行手当等
- 勤務地:
- 海老名セレモニーホール
- 大和総合ホール
- ファミリーホール大和
- 八王子総合ホール
- 平塚斎場
- シティホール相模斎場など
ティア様
ティア様の場合、上記データの中にすべての正社員が含まれており、全従業員510名のうち葬祭事業従事者が380名と、約75%を占めています。
そのため実際に葬儀式場で勤務する方の待遇が、比較的正確に反映された数値といえそうです。
1997年創業の若い企業らしく、今回紹介している7社の中では平均年齢がもっとも低くなっています。
ティア様では愛知・岐阜・三重の東海3県を中心に葬祭ホールを展開されており、求人も当該地域がメインとなっているようです。
葬祭事業における求人内容を確認すれば、採用に関する実情がみえてくるかもしれません。
公式ホームページで募集されている「葬儀ディレクター(中途採用:正社員)」の待遇は以下の通りです。
- 給与:月給 215,500~233,500円
- 参考月収:278,354円〜301,604円(月給12ヶ月分+賞与3.5ヶ月分を含む)
- 年齢:45歳未満(※経験者の場合は年齢不問)
- 必須条件:普通自動車第一種免許(AT限定可)
- 勤務地:以下の直営会館
- 名古屋市
- 名古屋市近郊エリア
- 三重県
燦HD様
燦HD様は持株会社のため、上記データに含まれるのは持株会社の従業員のみで、連結会社に勤務する方の待遇は反映されていません。
そのため平均年齢・平均年収ともに、他社にくらべ大幅に高くなっています。
全681名のほとんどを占める連結会社従業員のデータが反映されていないため、葬儀式場に勤務する方の待遇を推測するための参考数値として利用するのは難しいでしょう。
葬祭事業における求人内容を確認すれば、採用に関する実情がみえてくるかもしれません。
公式ホームページで募集されている「葬儀ディレクター(中途採用:正社員)」の待遇は以下の通りです。
公益社(近畿圏)
- 給与:基本給 205,000円以上*別途、保育所手当・通勤手当・超過勤務手当等支給
- 参考年収:330万円~450万円
- 必須条件:普通自動車運転免許(AT可)
- 勤務地:大阪府内事業所、兵庫県内事業所、奈良県内事業所の各式場
公益社(首都圏)
- 給与:基本給 230,000円以上*別途、保育所手当・通勤手当・超過勤務手当等支給
- 必須条件:普通自動車運転免許(AT可)
- 勤務地:首都圏(東京都 神奈川県)
葬仙
- 給与:固定給 200,000円以上*別途、超過勤務手当・宿直手当・待機手当等支給
- 必須条件:普通自動車運転免許(AT可)
- 勤務地:島根県:松江市・安来市
タルイ
- 給与:基本給 210,000円以上*別途、超過勤務手当・通勤手当等支給
- 参考年収:380万~(基本給21万円、残業月平均30時間、標準賞与の場合)
- 必須条件:普通自動車運転免許(AT可)
- 勤務地:兵庫県明石市 タルイ各会館
きずなHD様
きずなHD様は、グループ会社「株式会社 家族葬のファミーユ」「株式会社 花駒」「株式会社 備前屋」を傘下に持つ純粋持株会社です。
そのため公開されているデータも、きずなHDに勤務している方のみが対象となっており、連結会社従業員は含まれていません。
連結会社の中核である「株式会社 家族葬のファミーユ」では東京都に本社を置いているほか、北海道・千葉県・愛知県・熊本県・宮崎県に支社を設けています。
各地域で賃金相場も異なるため、支社ごとに年収も異なるようです。
葬祭事業における求人内容を確認すれば、採用に関する実情がみえてくるかもしれません。
公式ホームページで募集されている「葬儀ディレクター(未経験中途採用:正社員)」の待遇は以下の通りです。
北海道支社
- 給与
- 研修期間:月給227,000円~239,000円
- 独り立ち後:月給254,000円~500,000円以上
- モデル年収
- 研修期間:341万円~359万円
- 独り立ち後:337万円~455万円以上
- 必須条件:普通自動車運転免許(AT可)・基本的なPCスキル(Excel、Word)
- 勤務地:札幌市内の各ホール
愛知支社
- 給与:月給272,000円以上*固定残業手当30時間分49,000円以上を含む
- モデル年収
- 入社1年目:359万円(月収27.2万円+賞与2回)
- 入社3年目:467万円(月収36.2万円+賞与2回)
- 必須条件:普通自動車運転免許(AT可)・基本的なPCスキル(Excel、Word)
- 勤務地:以下地域の各ホール
- 刈谷市
- 大府市
- 東海市
- 半田市
- 阿久比町
- 東浦町
熊本支社
- 給与
- 研修6ヶ月間:月給238,000円以上
- 研修後(独り立ち後)月給254,000円~月給600,000円以上
- モデル年収
- 研修期間:319万円~324万円(月収23.9万円~24.3万円+賞与2回)
- 研修後(独り立ち):338万円~700万円以上可能(月収25.5万円以上+賞与2回)
- 必須条件:普通自動車運転免許(AT可)・基本的なPCスキル(Excel、Word)
- 勤務地:熊本市内の各ホール
ニチリョク様
ニチリョク様は事業部制をとっていることから、すべての正社員が平均年齢や平均年収データの対象となっています。
ただし葬祭事業に従事しているのは、全97名のうち37名と約38%にとどまりますので、葬儀社様の参考データとしては不十分かもしれません。
葬祭事業における求人内容を確認すれば、採用に関する実情がみえてくるかもしれません。
公式ホームページで募集されている「葬儀ディレクター(未経験中途採用:正社員)」の待遇は以下の通りです。
- 給与:月給230,000円~300,000円(経験による)
- 必須条件:普通自動車運転免許
- 勤務地:東京都または神奈川県
こころネット様
こころネット様は純粋持ち株会社のため、上記データに含まれているのは持株会社に勤務している方のみが対象です。
「たまのや」名義で展開している葬祭事業従事者の待遇は反映されていないため、平均年齢・平均年収のいずれについても、参考とするには不十分といえるでしょう。
葬祭事業における求人内容を確認すれば、採用に関する実情がみえてくるかもしれません。
公式ホームページで募集されている「葬儀ディレクター(新卒:正社員)」の待遇は以下の通りです。(*こころネット様では、現在のところ中途採用は行っていないようです)
- 給与
- 大学院・大卒 200,000円
- 短大・専門卒 175,000円
- 勤務地
- 福島市
- 郡山市
- 会津若松市
- 伊達市
- いわき市および周辺地域
葬儀業界における採用活動の重要性
葬儀という極めて厳粛な儀式を取り扱う葬祭事業では、現場で働く方の力量が顧客満足度を大きく左右します。
現在では、オンライン会葬やメタバースでの葬儀に取り組んでいる企業もありますが、葬送文化として定着するかどうか、現時点では未知数といった状況です。
こういった事情から、デジタル化やAI技術の発展により効率化できる範囲も、バックオフィス業務など一部に限定される可能性が高いでしょう。
少子高齢化の影響から、今後さらに人材確保は難しくなると予想されているため、早めの採用活動強化が求められます。
葬儀業界における人材確保の難しさ
葬儀業界も含めたサービス業は、他業種に比べ人材も流動性が高いといわれています。
同業他社に転職しても、積み重ねた経験や知識を活かせる点が大きな要因で、この傾向は特に葬儀業界で顕著です。
葬儀社従業員は職人的な面も持ち合わせているため、特別な資格がなくとも知識や経験が豊富な方が重用される傾向にあります。
優秀な人材の確保に向けて、葬儀業界向けのヘッドハンティングサービスも、10年以上前から稼働しているようです。
参照:サーチファーム・ジャパン株式会社 葬儀セレモニースタッフ エキスパートエグゼクティブサーチ
データから気付いた方も多いかと思いますが、勤続年数を確認すると7~12年と各社とも短めです。
葬儀業界全体でみても平均勤続年数は9.4年となっており、全産業平均の11.9年を大きく下回っています。
現時点で管理職に就いている40代・50代にくらべ、個人の権利意識が高い若年層は、より好条件を提示する企業への転職にも抵抗が無くなりつつあるようです。
優秀な人材の流出を防ぐためには、各従業員のスキルに見合った待遇が、これまで以上に重要になると考えられます。
葬儀業界における雇用条件設定のポイント
葬儀業界では新卒採用にこだわらず、中途採用にも力を入れているケースが少なくありません。
良い人材を確保するためには雇用条件が大きなポイントとなりますので、自社に適した条件設定が重要となります。
勤務地域
ここまで紹介してきた各社の求人情報をまとめたものが、以下の一覧表です。
上記のうち、広域で事業展開されている燦HD様・きずなHD様の求人を確認すると、同業務であっても地域によって給与が異なります。
日本では都道府県ごとに最低賃金(時給)が設定されており、東京都(1,072円)・神奈川県(1,071円)・大阪府(1,023円)などは1,000円以上です。
しかし地方に目を移してみると、東北地方(青森県・秋田県)や四国地方(愛媛県・高知県)、九州(福岡県を除く)・沖縄地方では853円となっており、地域差が顕著となっています。
こういった事情が、葬儀業界の年収にも反映されていると考えられます。
葬儀社様の採用活動にあたっては、近隣葬儀社における賃金相場の把握が不可欠といえるでしょう。
働き方
人の死に関わるという業務の特殊性から、葬祭事業は基本的に365日24時間の対応を求められます。
そのため勤務体制も各葬儀社様で異なりますが、正社員に対しては週1~2回ほどの当直勤務を求めるケースも少なくありません。
また夜間対応専門スタッフを置いている葬儀社様も多く、深夜手当や残業手当などが収入を大きく左右します。
家庭の事情などの理由から、日中しか勤務できない方の年収と、当直勤務や残業を多くこなす方の年収では、2倍近い収入差があることも珍しくないようです。
葬儀業界は働き方次第で高収入が期待できる点が、魅力の1つといえるかもしれません。
しかし現在では個人の価値観も多様化し、高収入よりも自由時間の確保を優先する方も一定数存在するようです。
こういった点を考慮すると、多彩な働き方を用意するのも、人員確保の重要なポイントとなりそうです。
資格などのスキル
近年では葬祭関連資格も数多く誕生しており、葬儀社従業員のキャリアアップにつながる資格も少なくありません。
代表的な資格としては、厚生労働省公認資格の「葬祭ディレクター」があり、各式場に複数人を配置している葬儀社様も増加傾向にあります。
また民間資格ではあるものの、納棺の儀を担当する「納棺士」資格や、エンバーミングを行う「遺体衛生保全士」資格などの需要も高まりつつあるようです。
「納棺師」や「遺体衛生保全士」を社内に在籍させることで、オプションサービスの内製化による収益向上も期待できます。
実際に燦HD様のグループ企業「公益社」様では、すでに「エンバーミング」の内製化を進められており、専門職として求人も出されているようです。
企業としての魅力向上に貢献している資格取得者に対しては、企業側も好待遇で応えるべきでしょう。
まとめ
今回は上場葬儀社様が公開されている情報をもとに、葬儀業界における従業員の待遇、および採用活動の重要性について解説しました。
各社のデータや求人情報を確認すると、極端な好条件ではないものの、平均以上の待遇は用意している印象です。
積極的な採用活動を行うためには一定の費用が必要となりますが、中小葬儀社様にとっては決して軽くない負担となるでしょう。
しかし中小企業の採用活動に対しては、複数の助成金制度も用意されています。
地方の葬儀社様であれば、Uターン・Iターン人材の雇用に対する行政の補助制度もありますので、活用を検討してみてはいかがでしょうか。
葬研の姉妹サイト「葬儀屋.jp」では、葬儀社様の採用活動支援も行っております。
補助金制度の相談にも対応しておりますので、お気軽にお問い合わせください。
★葬儀屋.jpお問い合わせフォーム:https://sougiya.jp/contact/