葬儀社が守るべき個人情報|プライバシマークの意味や取得方法について事例を交えて解説

プライバシーマーク

葬儀業界は、個人情報の取り扱いが多い業種のひとつです。故人様が亡くなられた事実はもちろん、死因やご家族様の情報、喪主、通夜・葬儀、住所、連絡先のほか、供花や供物を注文される方のお名前、連絡先など、取り扱う個人情報は、多岐にわたります。
かつては、仏壇、墓石、返礼品などを取り扱う業者が営業目的で情報を入手し、不快な思いをされたご遺族様がいたという話も耳にします。

最近は、プライバシーマーク制度や個人情報保護法の施行により、葬儀社様もお客様も個人情報の取り扱いに対する意識が高まっているようです。
とはいえ、どう対応すべきか分からないという葬儀社様も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、葬儀業界ならではの個人情報管理の難しさとともに、プライバシーマーク取得の有用性や個人情報の管理、業界の取り組みについて考えていきます。

目次

葬儀業界における個人情報の特徴

個人情報

葬儀業界でも、全日本葬祭業協同組合連合会 (全葬連)一般社団法人全日本冠婚葬祭互助協会(全互協)などの業界団体が中心になり、個人情報保護への対応を進めているようですが、すべての葬祭関連事業者に徹底されるまでには、もう少し時間が必要かもしれません。
とはいえ、個人情報管理の重要性については、今すぐにでも認識しておく必要があります。

個人情報管理の必要性

葬儀業界には、個人事業主が多いという特徴があります。また、他業種からの新規参入も多く、葬儀業界ならではの個人情報に関する意識の向上が進みにくいというのが現実です。

お客様から個人情報をお預かりする場面では、葬儀を依頼するご遺族様は、大切な人を失ったばかりで、個人情報の管理まで意識が回らないことが少なくありません。
葬儀社様側が個人情報の管理について必要なことや意志を確認し、リードすることで、ご遺族様が安心して葬儀を執り行うことにつながります。

地域によっては、外部の人から葬儀・告別式に関する問い合わせがあった場合は、それに応じてお伝えしてきたことというも多かったかもしれません。
しかし、家族葬などの小規模葬の増加や亡くなったこと自体を伏せておきたいなど、さまざまな事情により、ご遺族様の意志を確認し、通夜・葬儀自体の情報を管理することも必要になっています。

個人情報漏洩のリスク

もし、個人情報の漏洩が発覚した場合、ご遺族様や関係者のみなさまを不快にさせたり、不安を感じさせるばかりでなく、情報が犯罪に利用されることがないとも言い切れません。
また、葬儀社様にとっても、社会的な信用が失墜し、大きなイメージダウンになるでしょう。

さらに当事者の方に対する補償のほか、情報管理システムの見直しなど、経済的な損失が起こります。そうならないためにも、個人情報の取り扱いに関する意識を高め、知識を身に付けておくことは欠かせません。

個人情報の漏洩の予防はもちろん、もし個人情報の漏洩がおきた場合でも、早期に気づくことができる体制を構築しておくことで迅速な対応が可能になります。

個人情報保護法とプライバシーマーク

セキュリティ

個人情報保護に関して、「個人情報保護法」とともに「プライバシーマーク制度」があります。

この2つの違いについてみていきましょう。

個人情報保護法

「個人情報保護法(個人情報の保護に関する法律)」とは、個人情報の有用性に配慮しながら、個人の権利や利益を守ることを目的とした法律です。
国や地方自治体のほか、個人情報を扱う全ての事業者や組織が守るべき法律であり、平成15年(2003年)5月に制定され、平成17年(2005年)4月に全面施行されました。

3年を目途に個人情報保護法の検討が行われ、これまでに3回、大きな改正が行われています。

参照:個人情報の保護に関する法律

個人情報保護法における個人情報該当事項

個人情報保護法における個人情報とは、特定の個人を識別できる情報で、氏名生年月日住所電話番号顔写真などが該当します。
個別の情報では識別ができなくても、他の情報と組み合わせることで特定の個人を識別できる場合は、個人情報に該当します。
そのほか、個人情報には「個人識別符号(顔認証データ、声紋、マイナンバー、運転免許証番号など)」も含まれます。

また、その情報が漏洩することで、本人が不当な差別や偏見などの不利益を被る可能性がある「要配慮個人情報」情報は、特に注意が必要です。
人種社会的身分病歴前科犯罪被害などの本人に偏見や不利益が起こる可能性がある情報が該当します。

個人情報保護法で保護の対象になるのは、生存する個人の情報になります。つまり、故人様に関する情報は保護の対象ではありません。
ただし、故人様に関する情報であっても生存するご遺族様などに関連する情報である場合は、ご遺族様の個人情報となります。

なお、鳥取県のように故人様であっても個人情報を保護することを個人情報保護条例で明記している自治体もあります。

参照:鳥取県個人情報保護条例

プライバシーマーク制度

プライバシーマーク制度は、個人情報保護体制の基準への適合性を評価する第三者認証制度です。
日本産業規格「JIS Q 15001個人情報保護マネジメントシステム-要求事項」に準拠した「プライバシーマークにおける個人情報保護マネジメントシステム構築・運用指針」に基づいて、適切な個人情報保護措置を整えている事業者等を評価しています。

プライバシーマークを取得するためには、プライバシーマーク指定審査機関(審査機関)から審査を受け、一般財団法人日本情報経済社会推進協会 (JIPDEC) から付与を受けることが必要です。

プライバシーマークが認定されると、店頭、契約約款、説明書、宣伝・広告用資料、封筒・便箋、名刺、ホームページなどで、登録番号が入ったプライバシーマークを表示することができます。

現在、登録事業者は17,000社(2023年7月現在)を超えています。

登録事業者の多くがサービス業であり、うち葬儀社を含むカテゴリーである「その他の生活関連サービス業」は、136社(2023年3月31日現在)となっています。

プライバシーマークの申請方法

プライバシーマークを取得するためには、個人情報保護マネジメントシステムの構築と運用状況が、プライバシーマーク指定審査機関(JIPDECを含む)の審査基準に適合していなければなりません。
また申請するためには以下の条件を満たしている必要があります。

プライバシーマーク付与適格性審査を申請できる事業者
プライバシーマーク付与適格性審査を申請できる事業者は、国内に活動拠点を持つ事業者です。
また、プライバシーマーク付与は法人単位となります。
その上、少なくとも以下の条件を満たしている必要があります。
ただし、医療法人等、および学校法人等については一部例外(注1)があります。

  1. 「個人情報保護マネジメントシステム—要求事項(JIS Q 15001)」に基づいた「プライバシーマークにおける個人情報保護マネジメントシステム構築・運用指針(構築・運用指針)」に即し、個人情報保護マネジメントシステム(PMS)を定めていること。
  2. 個人情報保護マネジメントシステム(PMS)に基づき実施可能な体制が整備されて個人情報の適切な取扱いが行なわれていること。
  3.  PMSの運営体制として、社会保険・労働保険に加入した正社員、または登記上の役員(監査役を除く)の従業者が2名以上いること(JIS Q 15001に基づいた構築・運用指針に即しPMSを構築するためには、個人情報保護管理者、個人情報保護監査責任者の任を負うものが、1名ずつ必要であるため)
出典:一般財団法人日本情報経済社会推進協会「申請手続き」

こうした条件を自社だけで満たすのが困難な場合は、コンサルティング会社のサポートを利用したほうが、負担が少なくなる場合もあります。

プライバシーマーク取得のメリット

プライバシーマークを取得することで、企業として個人情報の保護対策を整備していることが明確になります。

  • サービスを利用するお客様の安心につながる
  • 信頼性が高い企業のアピールとなる
  • 企業内の個人情報取り扱いに関する意識が高まる

プライバシーマーク取得のデメリット

  • プライバシーマーク制度・個人情報に関する知識が必要
  • プライバシーマークを取得するための審査がある
  • マニュアルや規程を作成、個人情報を管理する環境の整備など、手間がかかる
  • プライバシーマークを維持するための更新が必要
  • プライバシーマーク取得、更新には費用がかかる
  • 社内に知識がある人がいない場合は、外部企業のサポートが必要になる

プライバシーマークと個人情報保護法の違い

プライバシーマークは、個人情報保護法よりも詳細に厳しい内容になっています。一例として 「個人情報保護方針の作成」を見てみましょう。

個人情報保護法では、基本方針をつくる必要があることは定められているものの、記載内容については指定されていません。
一方、プライバシーマークは、定められた内容を含む個人情報保護方針をつくることが必要です。従業員向けと社外向けの個人情報保護方針が必要となります。(同一の個人情報保護方針でも可)

特に葬儀に携わる上で知っておきたいのが、故人様に関わる情報の取り扱いです。
死亡した方の情報を個人情報に含めるかという定義が個人情報保護法とプライバシーマークで異なります。

個人情報保護法ではご遺族様などに関連する情報をのぞき、基本的に故人様の情報は保護されません。一方で、プライバシーマークでは、故人様の情報も保護されます。(歴史上の人物などはのぞく)

葬儀業界の個人情報に関する取り組み

葬儀社

葬儀業界では、プライバシーマークを取得し、より個人情報に配慮した上で業務を行う葬儀社様が増えています。

プライバシーマーク指定検査機関

一般社団法人全日本冠婚葬祭互助協会(全互協)は、プライバシーマーク指定検査機関として、日本情報経済社会推進協会から、指定されています。

会員企業からのプライバシーマーク付与適格性審査の申請の受付のほか、付与適格性審査の申請の審査、付与適格決定の可否の決定(認定)、適格決定を受けた会員の指導、監督、個人情報保護の推進のための環境整備のサポートなどを行っています。
全互協では、これまでに54社にプライバシーマーク付与の適格決定をしています。(2023年7月現在)

プライバシーマークの付与認定を受けている企業

プライバシーマークを取得している葬儀社様としては、総合葬祭サービスのメモリアルアートの大野屋や専門葬儀社最大手である「株式会社 公益社」を中核とする燦ホールディングス株式会社などがあげられます。
両社は、一般財団法人日本情報経済社会推進協会よりプライバシーマークの付与認定を受けています。

ホームページ上に個人情報保護方針や個人情報の取扱いについて提示しており、個人情報保護管理者、利用目的、個人情報の取扱いに対する苦情・相談窓口についても明確に示しています。
また両社では、定期的に全従業員を対象とした社内研修を実施し、個人情報保護の徹底を図っているようです。

葬儀社様が行っている個人情報保護対策の具体例

安心

経済産業省では、個人情報保護対策に関し、特徴的な取組を行っている事業者(50社)を対象にヒアリング調査を行い、効果的・効率的な取組の具体例をまとめた平成25年度「個人情報の適正な保護に関する取組実践事例調査」報告書を公表しています。

冠婚葬祭業として2社が「平成21年度フォローアップ結果」に含まれており、いずれもプライバシーマーク取得事業者です。
そこで公表されている取り組みの一部を紹介します。

事例1:その他サービス業(冠婚葬祭) V 社

事業内容:冠婚葬祭等企画・運営等
従業員数:70名

  • 社内組織として仏壇や生花の販売部署があり、顧客の要望により紹介する場合があるため、個人情報は取り扱わざるを得ないが、外部への提供は一切していない。
  • 葬儀では、近隣の人や親戚などから葬儀社へ葬儀の日程、死因等について直接問合せがあるため、施主と情報公開の有無を決め、同意書に署名をもらっている。情報公開についての同意がない場合は、問合せには応じない。
  • 施主からの情報は、特定の記入用紙に記載し、入力して本社のサーバに保管する。サーバは鍵つきの部屋に保管し、入退室記録をつけている。サーバへのログインのパスワードは毎月変更している。
  • 従業者の個人情報への認識を最重要課題として意識改革の教育を実践。これまでは問合せに対しては常に回答するのが親切な対応であったが、個人情報保護上は、回答の可・不可は顧客に応じて異なる
  • 外部委託先に関しては、取扱情報・事業者規模に応じたチェックリストの作成、立ち入り検査を実施する。個人情報保護に関する覚書も交わしている。 

事例2:その他サービス業(冠婚葬祭) U社

事業内容:冠婚葬祭等企画・運営、冠婚葬祭互助会運営事業
従業員数:約200名

  • 委託を行う事業者には、生花、供物、写真業者などがあり、それぞれに故人の名前や住所、連絡先等を教えることが必要となる。特に司会業は、話をすることにより多くの個人情報を持つ可能性があり、派遣元の法人に加え、個人でも確約書を書いてもらう。
  • 関連する者からの問い合わせが頻繁にあるが、葬儀の場合、「死因が特殊で会葬者にわからないようにしてほしい」などの依頼もある。式の運営を行うスタッフ等の間では共有が必要であり、従業者の意識を高く維持しなければならない。家族にも教えることができない情報を保有していることもあり、連絡等は慎重に行う必要がある。
  • 会員制度(互助会)を維持・運営しているので、継続的な個人情報の保有が求められる。
  • 第三者には個人情報を提供していない。仏壇や墓石等などがない顧客については、仏壇や墓石屋等に顧客情報を提供するのではなく、顧客に対して業者を紹介することで直接業者と商談してもらっている
  • 業界特性として顧客からの問い合わせが非常に多い。原則的として、すべてコールバックにより本人確認を行うようにしている

 参考:経済産業省 平成25年度「個人情報の適正な保護に関する取組実践事例調査」報告書 平成21年度フォローアップ結果

まとめ

本記事では個人情報保護法とプライバシーマーク制度の違いとともに、プライバシーマークを取得するメリットについて紹介しました。
葬儀業界における個人情報の取り扱いの難しさについてご理解いただけたと思います。

ご遺族様は、故人様がお亡くなり、通夜・葬儀という慌ただしく、精神的にも余裕がない状況で個人情報を提供することになります。
一目で個人情報対策を行っている葬儀社であることが判断できるプライバシーマークは、大きな安心につながるのではないでしょうか。

葬儀社様で働く方にとっても、プライバシーマークを取得し、会社の方針や守るべき情報が明確になっていることは、非常に重要だといえます。

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