国内で営まれる葬儀の8割前後が仏式で執り行われているようですが、宗派ごとに葬送に対する考え方や葬儀の内容も異なります。
しかし、それぞれの違いについて詳しく把握している方は、葬儀社に勤務されている方であっても、少ないのではないでしょうか。
葬儀関連事業に従事する関係者の皆様におかれましては、日本の宗教文化を理解することで、宗教・宗派ごとの葬祭に関する専門知識を高める一助となるでしょう。
この記事では、その多様な宗派の中から日蓮門下9宗派をご紹介いたします。
ぜひ最後までご覧ください。
日蓮系9宗派の概要と傾向
日蓮宗は大乗仏教の宗派に属し、題目を唱えることで生前に悟りを開くことができるという教えがあり「唱題成仏」と言われています。
日蓮聖人(にちれんしょうにん)により鎌倉時代に開かれ、ご本尊様は「久遠実成(くおんじつじょう)の釈迦如来」です。
おまつりするときは「大曼荼羅(だいまんだら)」と呼ばれる、日蓮聖人が「法華経」の教えを文字に書き記した掛け軸を正面にまつります。
総本山は山梨県の身延山 久遠寺で、日蓮宗の寺院は全国に約5,300あります。
「妙法蓮華経(法華経(ほけきょう)」をおもな経典とし、もとはサンスクリット語で書かれていました。
唱える題目は「南無妙法蓮華経(なむみょうほうれんげきょう)」で、「法華経に帰依する」という意味です
日蓮宗では「南無妙法蓮華経」を何度も唱えることを最も重要だとしています。
故人が「霊山浄土(りょうぜんじょうど)」で「釈迦牟尼仏」により成仏できると説いています。
日蓮門下の宗派は、1874年(明治7年)に通達が出された「一宗一管長」制にもとづいて「日蓮宗」の宗号のもとに合同されましたが、その後、妙法蓮華経に対する考え方や教義の相違から、日蓮宗一致派と日蓮宗勝劣派に分裂しました。
日蓮門下の宗派のうち、在来仏教13宗56派に含まれるは9宗派となっています。
日蓮門下の9宗派は次のように分類されます。
種 別 | 系 譜 | 宗派名 |
一致派 | 日蓮宗 | |
不受不施派 | ||
不受布施日蓮講門宗 | ||
勝劣派 | 富士派 | 日蓮本宗 |
日蓮正宗 | ||
法華宗 | 本門法華経 | |
陣門流 | ||
真門流 | ||
顕本法華宗 |
日蓮宗の開祖・日蓮聖人について
日蓮宗の開祖、日蓮聖人(にちれんしょうにん)は鎌倉時代 1222年、現在の千葉県で生まれました。
当時多くの災害や争い、疫病などで社会は混乱しており、仏さまの真実の教えを知るために
12歳で天台宗 清澄寺(現代は日蓮宗)で修業を始め、16歳で出家しました。
京都 比叡山や高野山で仏教を学んでいく中で、「妙法蓮華経(法華経)」がお釈迦様の根本の教えであると確信したのです。
1253年 32歳のとき日蓮宗を開きましたが、法難により襲撃にあったり流罪にされたりしたようです。
1274年 53歳で身延山に入り、草庵を結んで法華経の教えを広めました。
幾多の法難を乗り越えて法華経の教えを説き続け、1282年 61歳で生涯を終えられました。
晩年を過ごした山梨県 身延山が総本山とされ、弟子たちにより法華経の教えが代々引き継がれています。
日蓮門下宗派の葬儀の特徴
こちらでは日蓮宗の葬儀の特徴をご紹介します。
各宗派により多少の違いがありますが、葬儀関連事業の方々はしきたりとマナーを覚えておかれると、スムーズに業務がおこなえるでしょう。
南無妙法蓮華経
日蓮宗では故人が「霊山浄土」で「釈迦牟尼仏」により成仏できるという教えのもとにおこなわれます。
お題目である「南無妙法蓮華経」を何度も唱えることが大切という考えです。
参列者を含め全員で「南無妙法蓮華経」を唱えます。
開棺と引導
日蓮宗の葬儀では「開棺」と「引導」に特徴があります。
「開棺」は僧侶が棺を扇子でたたきながら読経します。
「引導」では僧侶が「払子(ほっす)」といわれる仏具を振って引導文を読みます。
なお、ほかの宗教の葬儀でおこなわれる「授戒」はおこなわれないため、日蓮宗では、故人に戒名ではなく「法号」が与えられます。
また日蓮正宗では、祭壇に花を使いません。
花の代わりに樒(しきみ)を使って祭壇を設けるという特徴があります。
日蓮系9宗派の紹介
ここから、日蓮宗9派についてご紹介いたします。
各宗教の特徴、概要がおわかりいただけると思います。
1.日蓮宗
開祖 | 日蓮聖人(にちれんしょうにん) |
ご本尊 | 久遠実成(くおんじつじょう)の釈迦如来 大曼荼羅(だいまんだら) |
代表的な寺院 | 久遠寺(くおんじ :山梨県 南巨摩郡) |
日蓮宗は一致派に属し、開祖である日蓮聖人が1274年に身延山に入り、法華経を広めた久遠寺が本山となっています。
「法華経」を基本経典とし、お題目の「南無妙法蓮華経」を唱えることにより、人々の幸せと社会の平和と安定を願うものです。
身延山 久遠寺では研修会や修行体験をおこなっており、僧侶を育成する制度も設けられています。
2.日蓮宗不受不施派
開祖 | 宗祖:日蓮聖人 派祖:日奥(にちおう) |
ご本尊 | 久遠実成の釈迦如来 大曼荼羅 |
代表的な寺院 | 妙覚寺( 岡山市) |
日蓮宗不受不施派は一致派に属し、もとは日蓮宗でしたが分裂しました。
「不受不施」の意味は「法華経」を信心しない者からの布施を受けず「法華経」ではない僧侶に布施をしないということです。
そのためお寺には、お賽銭箱も置かれていなかったようです。
この主義は江戸時代にキリスト教とともに弾圧を受けましたが、1876年(明治9年)には公認されました。
明治時代に日正という僧侶により、妙覚寺で「不受不施派」が再興されました。
1941年(昭和16年)不受不施講門派と合同していましたが、1946年(昭和21年)日蓮講門宗として独立したのです。
3.不受不施日蓮講門宗
開祖 | 宗祖:日蓮聖人 派祖:日奥(にちおう) 開山:日位上人 |
ご本尊 | 久遠実成の釈迦如来 大曼荼羅 |
代表的な寺院 | 本覚寺( 岡山市) |
不受不施日蓮講門宗の本山 本覚寺は、1307年に日位上人が創建しました。
不受不施日蓮講門宗は、はじめ日蓮講門宗という名称でした。
日蓮宗不受不施派と同じで「法華経」を信心しない者からの布施を受けず、法華経ではない僧侶に布施をしないという考えを持っています。
不受不施派と同様に江戸時代にキリスト教とともに弾圧を受けましたが、1882年(明治15年)に公認されました。
一時は不受不施派と合同していましたが、1946年(昭和21年)に日蓮講門宗として分裂し、1960年(昭和35年)不受不施日蓮講門宗と名称が変更されました。
4.日蓮本宗
開祖 | 宗祖:日蓮聖人 派祖:日尊上人 |
ご本尊 | 久遠実成の釈迦如来 大曼荼羅 |
代表的な寺院 | 要法寺( 京都市 左京区) |
日蓮本宗は勝劣派に属し、1308年に日尊上人が京都に法華堂を建立したのが大本山 要法寺の始まりといわれています。
以後様々な法難や京都大火の災害などを乗り越え、1899年(明治32年)に「本門宗」の宗名となりました。
1941年(昭和16年)には日蓮宗と合同していましたが、1950年(昭和25年)に独立しました。
5.日蓮正宗
開祖 | 宗祖:日蓮大聖人(日蓮聖人) 派祖:日興上人 |
ご本尊 | 久遠実成の釈迦如来 大曼荼羅 |
代表的な寺院 | 大石寺(たいせきじ :静岡県 富士宮市) |
日蓮正宗は勝劣派に属し、1290年に日興上人が静岡県に大石寺を建立しました。
日蓮聖人を「日蓮大聖人」と呼び、真の仏さまと考えています。
1900年には「日蓮宗富士派」の宗名でしたが、1912年(明治45年)に日蓮正宗としました。
はじめは日蓮宗と合同していましたが、1940年(昭和15年)に宗教団体法が施行されて翌年の1941年(昭和16年)独立しました。
6.本門法華宗
開祖 | 宗祖:日蓮聖人 派祖:日隆 |
ご本尊 | 久遠実成の釈迦如来 大曼荼羅 |
代表的な寺院 | 妙蓮寺( 京都市 上京区) |
本門法華宗の大本山妙蓮寺は1294年、日蓮聖人により創建されました。
1941年(昭和16年)陣門流、真門流と合同となっていましたが、1950年(昭和25年)独立しました。
「法華経」は28章あり、前半と後半で内容が違うのです。
前半を迹門(しゃくもん)といい、後半を本門といって日蓮聖人は本門を重要としています。
迹門と本門には仏さまの違いがあり、本門の仏さまは生前より仏であるとされています。
7.法華宗陣門流
開祖 | 宗祖:日蓮聖人 派祖:日陣(にちじん) |
ご本尊 | 久遠実成の釈迦如来 大曼荼羅 |
代表的な寺院 | 本成寺(新潟県 三条市) |
法華宗陣門流は勝劣派に属し、日静の弟子 日陣が日陣門流を開き、京都で本禅寺を創建しました。
本山の本成寺は1297年に 日印上人により創建されたとされます。
1941年(昭和16年)法華宗と本門法華宗と合同となっていましたが、1951年(昭和26年)に独立を果たしました。
本成寺には江戸時代の彫刻家である「石川雲蝶」の作品が多く残されており、墓もあります。
8.法華宗真門流
開祖 | 宗祖:日蓮聖人 派祖:日真大和尚(にちしんだいかしょう) |
ご本尊 | 久遠実成の釈迦如来 大曼荼羅 |
代表的な寺院 | 本隆寺( 京都市上京区) |
法華宗真門派は久遠実成の釈迦如来のことが書かれている「法華経」の如来寿量品(にょらいじゅりょうほん)を重要な経典としています。
日蓮聖人は「法華経」により人々が成仏でき、救済され幸せになれるとされています。
日蓮聖人の教えを引き継ぎ、1488年日真大和尚が本果実証(ほんがじっしょう)というお題目により法華宗を開き、本隆寺が創建されました。
9.顕本法華宗
開祖 | 宗祖:日蓮聖人 派祖:日什大正師(にちじゅうだいしょうし) |
ご本尊 | 久遠実成の釈迦如来 大曼荼羅 |
代表的な寺院 | 妙満寺(京都市 左京区) |
顕本法華宗は室町時代に日什大正師(にちじゅうだいしょうし)が興したものです。
1876年(明治9年)には「日蓮宗妙満寺派」という名称でしたが、1898年(明治31年)に「顕本法華宗」に改称しました。
「顕本」は「法華経」の教えを表した「開迹顕本(かいしゃくけんぽん)」から引用していて、永遠の仏を信心することにより信仰が揺らぎのないものとなると説いています。
この教えは「法華経」の中の「如来寿量品(にょらいじゅりょうほん)」に書かれています。
最後に
この記事では日蓮宗9派についてご紹介しました。
葬儀の場では宗派により僧侶が唱えるお経が違いますし、葬儀のしきたりやマナーも違ってきます。
日蓮宗の葬儀では「開棺」と「引導」に特徴があります。
葬儀関連事業に従事される方におかれましては、各宗派のことを知っておくことで、ご遺族や参列される方のご案内もスムーズにおこなえるでしょう。
葬研には各宗派を解説した記事が多数ありますので、ぜひご覧になって業務にお役立ていただければ幸いです。