葬儀社は全国に6500社ほど存在するといわれていますが、その大半を地域密着型の中小企業が占めている状況が続いてきました。
しかし近年では、2040年にピークを迎えるとされる多死社会に向け、葬儀業界でのM&Aが活発化しており、業界構造にも変化がみられます。
葬儀業界においても同業他社によるM&Aが多くを占めますが、最近では他業種からの新規参入に向けたM&Aも増加傾向にあるようです。
M&Aと聞くとネガティブな印象をもたれる方も多いようですが、実際には売り手側・買い手側の双方にメリットもあります。
とはいえ、葬儀業界のM&Aは機械的に業務提携や事業譲渡を行えばよいというものではなく、売り手側企業が築いてきたノウハウや、地域で積み重ねた信頼を保つ必要があります。
そのためには、売り手側・買い手側双方との調整能力に優れ、きめ細かなサポートができる仲介企業を選ぶべきでしょう
そこで本記事では、葬儀業界で実績のあるM&A仲介企業や、市場の動向を紹介するとともに、メリット・デメリットについても解説します。
地域密着型の葬儀社様にとっても、M&Aはもはや他人事ではありませんので、信頼できる仲介企業選びの参考にしていただければ幸いです。
葬儀業界の市場動向
葬儀業界の市場動向を確認するデータとしては、経済産業省が公表している「特定サービス産業動態統計速報」があります。
特定サービス産業動態統計は全数検査ではないため、正確性に欠けるという意見もありますが、全体像はつかめるでしょう。
葬儀業における1か月ごとの「売上高」「取扱件数」について、公開されている最新データが以下の表になります。
2020年の葬儀業界は、新型コロナウイルス感染症(以下 新型コロナ)の影響で、全体的に売上が減少していたため、行動制限が緩和され始めた2021年末以降の売上高は、前年同月を上回る状況が続いています。
市場規模はほぼ横ばい
超高齢化社会を迎えた日本では、年間死者数が増加を続けているため、葬儀施行件数も全体的に増加傾向にあるようです。
一方の売上高については、2020年以降ほぼ横ばいの状態が続いており、新型コロナ発生前の規模まで回復していません。
上記グラフは2022年11月までのデータにもとづいているため、2022年の売上高・件数が減少しているように見えますが、実際には2021年と同程度になると予想されています。
グラフを確認すると、新型コロナの影響が出始めた2020年の売上高が、2019年に比べて大幅に減少しているのがお分かりいただけるかと思います。
本来であれば、新型コロナ関連の行動規制が緩和された2022年の売上高は、2019年に近い水準まで回復するはずですが、実際にはそうなっていません。
その背景には、葬儀に対するニーズや、葬儀業界を取り巻く環境の変化が関係しているようです。
葬儀の小規模化・簡素化が拡大
葬儀業界では、新型コロナ発生以前から葬儀の小規模化・簡素化が、徐々に拡大しつつありました。
「家族葬」という言葉が一般化し、通夜を省略した「一日葬」や、宗教儀式なしで火葬のみをおこなう「直葬(火葬式)」といった葬儀形式が広まった影響が大きいようです。
さらに感染拡大防止に向けて、行政から提示された『「密閉」「密集」「密接」を避けましょう』という行動指針が、葬儀の小規模化・簡素化の進行に拍車をかけました。
葬儀への参列者は家族のみというケースも珍しくなくなった結果、それまで当たり前におこなわれてきた会食も省略されることが多くなっているようです。
葬儀付帯サービス需要が減少すれば、当然ながら葬儀施行単価は低下しますので、施行件数が増加しても売上高が伸び悩む要因の1つになっていると考えられます。
上のグラフは葬儀費用の推移を表したものですが、売上高の推移とリンクしているのがお分かりいただけるかと思います。
この状況から、葬儀業界の売上高停滞に、新型コロナが大きな影響を与えたのは明らかでしょう。
低価格競争の激化
近年になって葬儀業界への新規参入が増加した結果、現在では業界全体が過当競争の状態になっているようです。
競合増加により需要と供給のバランスが崩れた結果、葬儀業界は過度の買い手市場に陥っているといわれています。
加えて、葬儀施行を仲介する葬儀ポータルサイトの台頭により、低価格競争が激化しました。
さらに葬儀ポータルサイト同士の競争も加熱し、大手ポータルサイトの多くが景品表示法に抵触したとして、消費者庁より処分を受ける結果となっています。
現在では低価格競争も徐々に落ち着きつつあるといわれていますが、無理な低価格葬儀の提供により悪化した財務状況の改善については、苦戦している中小葬儀社様も多いようです。
葬儀業界におけるM&Aとは
M&Aは「Mergers and Acquisitions(マージャーズ・アンド・アクイジションズ:合併と買収)」の略語で、通常は「会社あるいは経営権の取得」を指す言葉です。
M&Aにはさまざまな手法(スキーム)が用いられますが、葬儀業界においては「株式譲渡(かぶしきじょうと)」「事業譲渡(じぎょうじょうと)」が主流といわれています。
株式譲渡 | 株式のほとんどを会社オーナーが所有していることの多い中小企業のM&Aにおいて、もっとも一般的な手法。 株式の売却により経営権を譲渡する方法で、売り手側は売却益を得られる。 従業員との雇用契約や行政の許認可などについても、買い手が側がすべて引き継ぐため、手続き完了までスピーディーに進むのが特徴。 |
事業譲渡 | 会社全体を買い受けるのではなく、売り手側企業が持つ事業の全部、または一部のみを売買対象とする。 資産や負債だけでなく営業権や人材・事業運営ノウハウまで譲渡対象となるが、移転については個別に手続きが必要となるため、株式譲渡に比べてコストが高くなる可能性が高い。 |
M&Aが成立するまでには、さまざまな準備や煩雑な手続きが必要となるため、中小企業のM&Aでは全体の流れをサポートする仲介業者を利用するのが一般的です。
中小企業が大半を占める葬儀業界ではM&A未経験の企業がほとんどですので、一定のコストをかけてでも、仲介業者のサポートを受けた方が安心でしょう。
葬儀業界におけるM&Aのメリット・デメリット
葬儀業界におけるM&Aについては、売り手側・買い手側の双方にとってメリットがある反面、当然ながらデメリットも存在します。
M&Aの実行にあたっては、事前にメリット・デメリットの両面を知ったうえで、将来的な事業展開を想定して判断を下すべきでしょう。
ここからは売り手側・買い手側双方のメリット・デメリットについて、詳しく紹介します。
売り手側のメリット
現在の葬儀業界において、売り手側企業にとってM&Aのメリットには、以下のようなものがあります。
- 事業の継続が期待できる
- 従業員の雇用が維持される
- 売却益が得られる
- 後継者不在などの問題解消
- 株式譲渡では経営者の個人保証から解放される
- 事業譲渡であれば、会社を残しつつ不採算事業だけの譲渡も可能
地域密着型の中小葬儀社様では、事業継承の時期を迎えているにもかかわらず、後継者不足に悩んでいるケースも少なくないようです。
葬祭サービスの提供という事業の特殊性から、葬儀社には365日24時間稼働を求められます。
こういった事情から、経営者に子供や親族などがいる場合でも、事業を継承しない・させないというケースが増加しているようですので、後継者問題の解消は最大のメリットといえるかもしれません。
買い手側のメリット
葬儀業界におけるM&Aでは、買い手側には数多くのメリットがありますが、主なものとしては以下の通りです。
- 葬儀事業の運営ノウハウが入手できるため新規参入が容易になる
- 事業展開エリアの拡大が図れる
- 地域における寡占度の向上
- 地域独自の葬送習慣に精通した従業員の確保
- 売り手側企業が地域で培った信頼を継承できる
現在の葬儀業界で選択されることの多いドミナント戦略において、M&Aは非常に有益な手法となります。
同一地域への集中出店のメリットは、地域でのシェア拡大だけでなく、人員の流動的な活用や物流の効率化なども可能となるため、大幅な経費削減につながる可能性も高まります。
売り手側のデメリット
葬儀業界のM&Aにあたっては、売り手側の希望条件に合った買い手が見つからない可能性もあります。
M&Aに向けた準備を進めても、売り手側と買い手側の最終交渉で、双方の提示した条件に折り合いが付かなければM&Aは成立しません。
こういったミスマッチを防ぐためにも、仲介業者によるマッチングのサポートは有効に働くようです。
買い手側のデメリット
葬儀業界におけるM&Aにおいて、想定される買い手側のデメリットとしては、譲渡完了後の簿外債務発覚です。
特に中小企業に対して上場企業がM&Aをおこなう場合、双方の会計基準が異なるため簿外債務が発生しやすくなります。
*簿外債務:貸借対照表に記載されていない債務で、退職給付引当金・賞与引当金・未払い残業代・債務保証・リース債務・買掛金・訴訟リスクなどが該当する
しかしM&Aを実施する際に、売り手側企業の開示した情報を担保した「表明保証」を最終契約書に盛り込むことで、リスクを最小限に抑えられます。
葬儀業界における最近のM&A事例
葬儀業界で実施されたM&Aのうち、ここ最近の主要なものを一覧表にまとめました。
時期 | 売り手 | 買い手 | スキーム |
2022年 | 野々村葬儀社 | 天光社 | 株式譲渡 |
2021年 | 備前屋 | きずなHD | 株式譲渡 |
2020年 | ライフアンドデザイン | ユニクエスト | 株式譲渡 |
2019年 | さがみライフサービス | 平安レイ | 株式譲渡 |
2018年 | 北関東互助センター | こころネット | 株式譲渡 |
2015年 | 牛久葬儀社 | こころネット | 株式譲渡 |
2011年 | へいあん秋田 | 日本セレモニー | 株式譲渡 |
2008年 | 第一互助センター | サン・ライフHD | 事業譲渡 |
2006年 | 公善社 | メモリード | 株式譲渡 |
2006年 | タルイ | 燦HD | 株式譲渡 |
2006年 | フリーダム | ティア | 事業譲渡 |
2006年 | 洛王セレモニー | エポック・ジャパン | 株式譲渡 |
2005年 | 葬仙 | 燦HD | 株式譲渡 |
葬祭サービスを中核事業とする上場企業は、現在のところ以下の7社です。
- 平安レイサービス
- サン・ライフ ホールディング
- ティア
- 燦ホールディングス
- ニチリョク
- きずなホールディングス
- こころネット
一覧表をご覧いただくと、買い手側のほとんどを上場企業が占めているのが、お分かりいただけるかと思います。(エポック・ジャパンは現在のきずなHD)
これは、上場企業が買い手側となるM&Aについては情報の開示義務がありますが、未上場企業については開示義務がないためです。
実際のところ、大手冠婚葬祭互助会や大手葬儀社でも、M&Aは活発におこなわれていますが、世間一般にはあまり知られていません。
葬儀業界で実績のあるM&A仲介企業
葬儀業界のM&Aおいて、買い手側となることの多い大手葬儀社様や上場葬儀社様と、売り手側となる葬儀社様のあいだには、M&Aに関する知識量の差が大きくなる傾向があります。
そのため売り手側となる葬儀社様にとっては、M&Aが買い手側有利の条件で進められてしまう不安を感じるかもしれません。
コンサルティング会社の多くはM&Aを取り扱っていますが、葬儀業界でのM&A実績をもつ会社であれば、安心して相談できるのではないでしょうか。
ここからは、過去に葬儀業界でのM&Aを成立させた実績のあるコンサルティング会社の中から、代表的な5社を紹介します。
インテグループ様
会社概要 | 住所:〒100-0005東京都千代田区丸の内3-4-1 新国際ビル4F 設立:2007年6月 |
着手金・中間報酬等 | ・着手金なし ・月額手数料なし ・中間報酬等なし |
成功報酬 | 完全成功報酬制 買収価格ベース レーマン方式(最低額500万円) |
オプションサービス | ・企業価値算定サービス(無料) ・MBO支援 |
特徴・強み | インテグループは事業承継・事業譲渡・会社売却・企業買収など中小企業M&A(エムアンドエー)の専門家たちによる完全成功報酬M&Aコンサルティング・アドバイザリー・仲介会社です。 豊富な実績を持つコンサルタント、アドバイザーが会社売買をお手伝いします。 |
M&A成約実績 | 業態転換で事業の発展をはかるため、冠婚葬祭互助会(売上:1億円以下)を葬儀会社へ譲渡 |
公式ホームページ | https://www.integroup.jp/ |
*レーマン方式:取引金額(株式譲渡金額、事業譲渡金額、増資金額等)に一定の報酬率を乗じる計算方式
*MBO:Management Buyout(マネージメント・バイアウト)の略。経営陣が自社の株式や一部の事業を買収し、経営権を取得したうえで独立すること
M&A Capital Partners様
会社概要 | 住所:〒104-0028 東京都中央区八重洲二丁目2番1号 東京ミッドタウン八重洲 八重洲セントラルタワー36階 設立:2005年10月 |
着手金・中間報酬等 | ・着手金なし ・月額報酬なし ・中間報酬は最終成功報酬額の10%(基本合意成立後) |
成功報酬 | 株式譲渡対価ベース レーマン方式 |
オプションサービス | ・ファインディングサービス ・協業サービス |
特徴・強み | M&Aキャピタルパートナーズは、着手金や月額報酬をいただくことなく、お相手企業と基本合意にいたるまで無料で支援いたします。 M&Aを将来の選択肢の1つとして、納得いくまで無料でじっくり検討することができます。 |
M&A成約実績 | 譲渡企業は、関西圏で葬祭業を展開。業績は好調であったが、後継者がいないこと、今後の成長発展の為に売主は譲渡を決断。 |
公式ホームページ | https://www.ma-cp.com/ |
日本M&Aセンター様
会社概要 | 住所:〒100-0005 東京都千代田区丸の内一丁目8番2号 鉃鋼ビルディング 24階 設立:2021年4月1日 |
着手金・中間報酬等 | ・着手金あり ・月額報酬なし ・中間報酬なし |
成功報酬 | 移動総資産ベース レーマン方式 |
オプションサービス | ・事業健康診断成長戦略コンサルティング ・株価算定PMIコンサルティング |
特徴・強み | 日本M&Aセンターは、M&A仲介で実績No.1のリーディングカンパニー。 国内最多の圧倒的な譲渡案件・譲受案件が導くベストマッチングで支援。 事業承継・買収・上場支援など、ご相談は無料! |
M&A成約実績 | ・2022年9月:葬祭業(関東)→葬祭業(関東) ・2022年5月:葬祭業(東海・北陸)→葬祭業(東海・北陸) ・2022年1月:葬祭業(関西)→葬祭業(関西) ・2021年12月:葬祭業(東海・北陸)→葬祭業(東海・北陸) ・2021年12月:葬祭業(北海道・東北)→葬祭業(北海道・東北) |
公式ホームページ | https://www.nihon-ma.co.jp/ |
*PMI:Post Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)の略。M&Aの効果を最大化するための統合プロセスを指す。経営統合・業務統合・意識統合の3段階からなる。
M&A総合研究所様
会社概要 | 住所:〒100-0005 東京都千代田区丸の内1-8-1 丸の内トラストタワーN館17階(受付) 設立:2018年10月 |
着手金・中間報酬等 | ・着手金なし ・月額手数料なし ・中間報酬等なし |
成功報酬 | 買収価格ベース ・5億円以下4%~ ・100億円以上1% |
オプションサービス | 無料で利用できる直接交渉用プラットフォームあり |
特徴・強み | M&A総合研究所は譲渡企業様完全成功報酬制のM&A仲介会社です。 売り手と買い手のマッチングを経験豊富なM&Aアドバイザーがフルサポートでお手伝いします。 また、M&Aマッチングプラットフォームも運営しており、ネット上で売り手と買い手を探すこともできます。 |
公式ホームページ | https://masouken.com/ |
船井総研M&A様
会社概要 | 住所:〒100-0005 東京都千代田区丸の内1-6-6 日本生命丸の内ビル 21階 設立:2013年11月28日 |
着手金・中間報酬等 | ・着手金なし ・月額手数料なし ・中間報酬等なし |
成功報酬 | 譲渡対価ベース レーマン方式(最低報酬1000万円) |
オプションサービス | ・企業価値算定(無料) ・企業概要書作成(無料) |
特徴・強み | 着手金・中間金なし、完全成功報酬型のM&A仲介サービスを提供。最新のM&A事例、M&A案件情報などを随時発信してまいります。 |
M&A成約実績 | 提案がなければM&Aしようなんて微塵も思っていなかった。「本城葬祭 × せいぜん石材」 |
公式ホームページ | https://ma.funaisoken.co.jp/ |
まとめ
今回は葬儀業界におけるM&Aの最新動向や、メリット・デメリットについて解説しつつ、実績のあるM&A企業5社を紹介しました。
これまで否定的に捉えられることの多かったM&Aですが、葬儀業界における問題点の解決につながる部分もある点が、お分かりいただけたかと思います。
M&Aと聞くと、大手企業が中小企業を飲み込むイメージをもたれるかもしれませんが、実際には共存共栄を実現したM&Aも少なくありません。
また葬儀業界で活発化している葬儀周辺領域への事業拡大にも、M&Aの手法が大いに役立つ可能性もあります。
M&Aを上手に利用するためには、適切なサポートを提供してくれるM&A企業の選定が、重要なポイントとなります。
競争が激化している葬儀業界での生き残りに向けて、パートナーとなるコンサルティング会社との連携も選択肢の1つといえるでしょう。