広済堂ホールディングスおよび東京博善の動向解説|同社を取巻く提携状況まとめ

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都内6か所で火葬場を運営する東京博善株式会社の親会社「株式会社広済堂ホールディングス(以下「広済堂HDとします)」ですが、2024年5月15日に開催された「2024年3月期 決算説明会」において、代表取締役の異動(同年6月27日付)が発表されました。
今回の異動に伴い、代表取締役社長の黒澤 洋史氏は退任となりますが、同氏が代表に就任するのと前後して、広済堂HDを中心としたさまざまな動きがみられました。

また持株会社体制への移行に伴い、社名が「株式会社広済堂ホールディングス」に変更され、資産コンサルティング事業「東京博善あんしんサポート株式会社」が立ち上げられるなど、社内の動向も活発化しています。
広済堂HDを取り巻く一連の流れは、現在のライフエンディング市場で進んでいる業界再編の動きにつながっているようにみえます。

こうした背景を鑑みると、葬儀業界に身を置く方であれば、広済堂HDの動向は把握しておくべきでしょう。
そこで本記事では、広済堂HDの周辺事情について、業務提携や人材配置などを中心に紹介いたします。
記事後半では、ライフエンディング市場における業界再編の動きについても解説していますので、ぜひ最後までご覧ください。

目次

広済堂HD、買収報道後の状況まとめ

買収騒動から現体制まで

本記事では、買収騒動から現在までの広済堂HDをめぐる動きについて解説いたしますが、情報が広範にわたるうえ、複数の企業や人物が複雑に絡み合っているため、全体像を理解するのは容易ではありません。
そこで広済堂HD周辺で起きた出来事を、時系列に沿って分かりやすくまとめました。

東京都23区内で6か所の民営火葬場事業を展開する東京博善は、1994年(平成6年)7月に株式会社 廣済堂(現 広済堂HD)により子会社化され、2020年3月31日をもって100%子会社となっています。
しかし前年の2019年には、当時の経営陣と米ベインキャピタルによるMBOを目的としたTOBに端を発した買収騒動が発生するなど、その道のりは決して平坦ではありませんでした。

MBO(Management Buy-Out)
会社の経営陣が外部の資金提供者や金融機関の支援を受け、自社の株式を買い取り、経営権を取得する手法

TOB(Takeover Bid)
企業が他社の株式を公開買付けによって取得し、経営権を掌握する手法

買収騒動が一応の決着をみせ、新体制となった株式会社 廣済堂では、中期経営計画廣済堂 大改造計画2020を策定し、収益構造や経営基盤向上に向けて動き出します。
ここからは、広済堂HDを中心とした企業や人物の動向について、1つずつ詳しく解説していきます。

広済堂HDを中心とした取巻く企業間連携

広済堂HD相関図

上記の図は広済堂HDを中心とした、直近の企業や人材の動き・相関関係をまとめたものです。
ここからは、それぞれの動向について詳しく解説いたします。

企業同士の業務提携

近年の広済堂HD周辺では、さまざまな企業が直接的・間接的に関わっており、同社の影響力の大きさが浮き彫りになっています。

燦HDとの提携により生れたグランセレモ東京

株式会社グランセレモ東京は、大手葬儀社「公益社」を傘下に持つ上場企業「燦ホールディングス」と広済堂HDの合弁会社として、2022年4月1日に設立されました。

なお両社の出資比率は以下の通りです。

  • 株式会社広済堂ホールディングス:51%
  • 燦ホールディングス株式会社:49%

両社における出資比率の差は、わずか2%ほどですので、一見ほぼ同等の権限を有している印象を受けますが、実際には大きな違いがあります。
これは、持株比率51%以上を有する株主は、株主総会における普通決議を単独で可決させる権限を有するためです。これにより、会社を運営する上で必要となる意思決定のほとんどを単独で実施可能となります。

一方、持株比率が33.4%(三分の一)を超える株主には、株主総会における特別決議を単独で否決する権限が与えられているため、持株比率49%を有する燦ホールディングス側も、定款変更や事業譲渡・合併などの重要な事項については意思を反映させることが可能です。

2023年3月以降、燦ホールディングスの中核企業である公益社では、少人数での家族葬に特化した葬儀ブランド「ENDING HAUS.」の全国展開に注力しており、すでに13会館(2024年6月26日現在)を開業しています。

「エンディング産業展」事業を譲受

ライフエンディング業界における大規模展示会の1つ「エンディング産業展(ENDEX)」ですが、2022年10月3日にTSO International 株式会社から、広済堂HD傘下の東京博善に事業譲渡されました。
この事業譲渡により、2023年以降は主催者が東京博善株式会社に変更となり、TSO International 株式会社は運営サポートに回っています。

SBIホールディングス株式会社との提携

2024年3月12日に、広済堂HDとSBIホールディングス株式会社(以下「SBIHD」)との資本・業務提携が発表されました。
SBIHD側の発表によると、業務提携・資本提携は以下のような内容となっているようです。

業務提携の内容
広済堂HDが東博あんしんサポートを中心に  手掛ける資産コンサルティングサービス  事業における当社グループ各社との協業に関する検討
資本提携の内容
(1)広済堂HDが自己株式処分の方法により当社に対して割り当てる広済堂HDの普通株式8,050,000株の取得 (取得後の発行済株式総数(自己株式を除く)に対する当社の持株比率:5.62%※)
※2023年9月30日現在の株主名簿を基準に本自己株式の処分による増減株式数を考慮して算定
(2)当社及び広済堂HD間で協議の上、当社グループから東博あんしんサポートに対して出資し、同社を双方が50%ずつ議決権を有する合弁会社とするとともに、同社の商号を「SBI東京博善あんしんサポート株式会社」に変更

出典:SBIホールディングス株式会社『株式会社広済堂ホールディングスとの資本業務提携に関する基本合意のお知らせ』

また広済堂HD側では、業務提携のイメージとして、以下のような内容を想定しているようです。

広済堂HD相関図 (2)

出典:株式会社広済堂ホールディングス広済堂『SBIホールディングス株式会社との資産コンサルティング事業における資本業務提携についての合意、および同社への第三者割当による自己株式の処分に関するお知らせ』

近年では葬儀費用に備えるための少額短期保険が広がりをみせていますが、SBIHDグループ企業のSBIいきいき少額短期保険株式会社もその1つです。
葬儀業界でも、大手冠婚葬祭互助会などを中心に、グループ内で葬儀保険(少額短期保険)を取り扱うケースが増えつつあります。

保険会社系列葬儀費用充当サービス
みどり生命保険株式会社ベルコ系列ご葬儀費用充当サービス
あんしん少額短期保険株式会社アルファクラブ系列あんしん葬儀
株式会社メモリード・ライフメモリード系列お葬式費用あんしん支払サービス

こうしたケースでは、死亡保険金から葬儀費用が直接充当されるため、加入者から葬儀社への支払いが必要ない仕組みとなっています。
消費者にとって分かりやすく、利便性の高い仕組みになっていることから、加入者も増加傾向にあります。

主要少額短期保険グラフ

前述したように、SBIHD傘下にもSBIいきいき少額短期保険株式会社がありますので、将来的には、東京博善のお葬式・グランセレモ東京のいずれかで、葬儀費用充当サービスを提供する可能性もありそうです。

広済堂HDに関わる人の動き

広済堂HD周辺では、積極的な事業領域の拡大にともない、人の動きも活発化しています。
ここでは主要な出来事を時系列に沿って紹介します。

東京博善の元役員 中川 貴郎氏がセレモアの代表に就任

2021年7月30日付けで、東京都や埼玉県・神奈川県を中心に葬祭関連事業を展開するセレモアホールディングス株式会社の代表取締役社長として、東京博善で取締役を務めた経歴を持つ中川 貴郎氏が就任しました。
なお同氏が代表を務める株式会社セレモアでは、PE(Private Equity)ファンドであるライジング・ジャパン・エクイティ株式会社から、2023年12月に投資を受けています。

PE(Private Equity)ファンド:未公開企業の成長を支援し利益を得る投資ファンド

東京博善 代表取締役社長に和田 翔雄氏が就任

東京博善TOP

2023年6月1日に広済堂HDの子会社である東京博善株式会社 代表取締役社長に、和田 翔雄氏が就任しました。
和田 翔雄氏は大手冠婚葬祭互助会アルファクラブ武蔵野株式会社の採用担当や、葬儀ポータルサイト「小さなお葬式」を運営する株式会社ユニクエストの取締役などを歴任した人物です。

こういった事情からか、東京博善、ならびに広済堂ライフウェルが提供する「東京博善のお葬式」の一部サービスを、ユニクエストが担っているともいわれています。
また和田 翔雄氏は、アルファクラブグループの創業家に名を連ねる人物でもあることから、将来的にアルファクラブグループ(傘下企業であるユニクエストやライフアンドデザインを含め)と広済堂HDが、何らかの形で連携する可能性も高そうです。

代表取締役の異動

広済堂HD新代表

冒頭でもお伝えした通り、2024年5月15日に開催された「2024年3月期 決算説明会」において、代表取締役の異動(同年6月27日付)が発表されました。

氏名新役職名現役職名
羅 怡文代表取締役会長CEO(最高経営責任者)取締役会長
前川 雅彦代表取締役社長COO(最高執行責任者) 兼CFO(最高財務責任者) 事業全般、財務及び業績管理 担当
黒澤 洋史代表取締役社長CEO(最高経営責任者) 兼CFO(最高財務責任者) 事業全般、財務及び業績管理 担当
出典:株式会社広済堂ホールディングス『代表取締役の異動および取締役候補者の選任に関するお知らせ』

代表取締役の異動について、広済堂HDでは以下のように発表しています

代表取締役異動の理由

代表取締役社長CEOの黒澤洋史は、2024年6月27日開催予定の第60回定時株主総会の終結の 時をもって任期満了のため退任となります。 
その後任として、現行の中期経営計画を現任者の代表取締役社長と共同して立案、遂行してきた取締役会長職である羅を代表取締役会長とすることで、中期経営計画の方針を代表取締役社長の異動に よって変わることなく、推進してまいります。 
また、代表取締役会長の羅に尽くすとともに、ともに代表取締役とし、その責を委任する職として、今後の成長分野である資産コンサルティングセグメントを早期に拡大させるため、その豊富な経験や幅広い知見をもつ前川氏を代表取締役社長といたします。

出典:株式会社広済堂ホールディングス『代表取締役の異動および取締役候補者の選任に関するお知らせ』

新代表取締役社長となった前川 雅彦氏は、インターネット関連の事業を展開する上場企業「株式会社デジタルガレージ」のグループ企業で、ベンチャー企業への投資及び事業育成支援サービスをおこなう「DGベンチャーズ」取締役を務めていた人物です。

同社在職中には、相続登記関連のプラットフォーム「そうぞくドットコム」を運営する株式会社AGE technologiesの社外取締役にも就任していました。

広済堂HDの葬祭事業グループ会社

広済堂HDTOP

これまでの広済堂HDでは、事業のセグメントを「情報」「人材」「葬祭」の3つに分類していましたが、現在では「葬祭公益」「葬祭収益」「資産コンサルティング」「情報」「人材」の5セグメントに改められています。
ここでは、ライフエンディング領域に属する「葬祭公益」「葬祭収益」「資産コンサルティング」を中心に、広済堂HDのグループ会社について紹介します。

東京博善株式会社

東京博善②

東京博善株式会社は、東京23区内で6か所の民営火葬場を運営する、広済堂HDのグループ企業です。

町屋斎場〒116-0001 東京都荒川区町屋1-23-4
落合斎場〒161-0034 東京都新宿区上落合3-34-12
代々幡斎場〒151-0066 東京都渋谷区西原2-42-1
四ツ木斎場〒125-0063 東京都葛飾区白鳥2-9-1
桐ヶ谷斎場〒141-0031 東京都品川区西五反田5-32-20
堀ノ内斎場〒166-0011 東京都杉並区梅里1-2-27

東京23区内における火葬の約70%を取り扱う同社は、1994年7月に株式会社廣済堂(現 広済堂HD)の子会社となりました。
なお広済堂HDでは、東京博善における火葬場事業を、2024年3月期より「葬祭公益セグメント」として開示しています。

2024年3月期における「葬祭公益セグメント」の業績は以下の通りです。

  • セグメント売上高:55億36百万円(前年同期比0.4%減)
  • セグメント利益:11億2百万円(前年同期比20.8%増)

ただし、上記は火葬費用のみに限定した数値で、式場利用料や控室利用料・骨壷販売収益などは、総合斎場運営事業との位置づけとなっていることから、「葬儀収益セグメント」に含まれていると考えられます。

株式会社広済堂ライフウェル

広済堂ライフウェルTOP

東京博善のお葬式」名義で、東京博善が運営する都内6か所の火葬場に併設された式場を中心に葬儀サービスを提供しているのが株式会社広済堂ライフウェルです。
同社は、2020年5月に発表された廣済堂大改造計画 2020の実現に向け廣済堂グループ(現 広済堂ホールディングス)の収益力強化に向けて設立された戦略子会社株式会社KOSAIDO Innovation Lab(KOIL)の業務を引き継ぐ形で、2021年6月に設立されました。

KOILは、グループ内で展開している「情報」「人材」「葬祭」の各事業を横断するかたちで、事業開発を担う子会社として設立されました。
しかし広済堂ライフウェルでは、活動範囲を新規エンディング事業の開発、および葬祭既存事業の拡大に絞っているようです。

KOIL発足当初は、以下のようなサービスの提供が発表されましたが、少なくとも「東京博善のお葬式」公式ホームページ内での積極的なアピールはなされていません。

株式会社広済堂ライフウェルの公式ホームページを確認すると、現時点(2024年6月26日現在)では具体的な活動内容などの情報がほとんど記載されておらず、未完成の印象です。
このことから、将来的には葬祭事業以外の業務を担う可能性もありそうです。

株式会社グランセレモ東京

東京博善が運営する都内6が所の火葬場内に設置された式場、ならびに四谷斎場に併設された「お花茶屋会館」において、葬祭事業を展開するグランセレモ東京は、以下のコンセプトで設立されました。

  1. ご遺族の‟望む”葬儀を明瞭な費用で実現します。
  2. 長年の経験から高いレベルで整備された研修制度をおき、高品質の葬儀を提供します。 
  3. グリーフケアを含めて葬儀後もご遺族に寄り添います。
  4. 多様な宗教、宗派、様々な規模の葬儀に対応します。

広済堂ライフウェルが運営する「東京博善のお葬式」とは、異なるコンセプトで運営されているとはいえ、都内6か所の火葬場式場+お花茶屋会館で事業を展開しているという点は共通しており、両社は競合関係にあるといえるでしょう。
とはいえ広済堂HDでは、都内6か所の火葬場において、2036年3月期までに葬儀式場117室の増設を計画していますので、葬祭事業は今後も拡大することが予想されます。

東京博善あんしんサポート株式会社

東京博善あんしんサポートTOP

東京博善あんしんサポート株式会社は、主に「東京博善のお葬式」「グランセレモ東京」の利用者を対象に、多岐にわたる相続関連のサポートを一元的に提供しています。
遺産を相続する際に必要となる手続きとしては、以下のようなものがあげられます。

  • 戸籍謄本等書類の取得代行
  • 遺産分割協議書作成
  • 銀行預金口座解約・名義変更
  • 相続税申告
  • 不動産相続登記

上記のような手続きを専門家に依頼した場合、通常はすべてに費用が発生します。
しかし東京博善あんしんサポートでは、以下のような条件付ではあるものの、相続税申告と不動産相続登記以外の部分については無料となっているため、費用負担が軽減されるとしてます。

  1. 相続税申告が必要
  2. 相続空き家がある

東京博善では、利用者から相続に関する相談を受けるケースが、これまでも少なくなかったようです。しかし以前までの東京博善では、民営火葬場の運営のみに特化していたため、こうした利用者の声に応えられていませんでした。
東京博善の親会社である広済堂HDでは、ビジネス上の重大な機会損失と捉え、東京博善あんしんサポートを立ち上げたようです。

葬祭事業以外のグループ会社

社名事業内容
株式会社広済堂ネクスト各種印刷サービス、IT・デジタルソリューション、D2Cビジネス支援、BPOサービス
x-climb株式会社デジタルプロダクト開発
株式会社広済堂ビジネスサポート求人メディア、人材派遣、人材紹介、海外人材サービス、HR Techサービス、RPOサービス
株式会社キャリアステーション人材派遣・人材紹介・業務請負
株式会社ファインズ人材派遣・人材紹介
出典:株式会社広済堂ホールディングス『グループ企業』

広済堂HDが現在の体制にいたるまでの道のり

はた目には安定しているように見える広済堂HDですが、現在の体制に落ち着くまでには、想像以上に紆余曲折を経ています。
特に現在のような持株会社体制に移行する前の2019年には、現体制への転換につながる買収騒動が発生しています。

買収騒動概略(経緯)

葬儀業界に身を置く方にとって、2019年に発生した株式会社 廣済堂(現 広済堂HD)をめぐる買収騒動は記憶に新しいところでしょう。
こうした動きの背景には、関係各所のさまざまな思惑が交錯していたと考えられますが、ここでは主な経緯のみ紹介いたします。

■第1ラウンド:村上ファンドによるMBO(2019年)
1月18日米ベインキャピタル主導のMBO(経営陣による自社買収)が公表
当時の株価は400円前後
1月22日TOB価格 610円
2月6日村上世彰氏が率いるレノが大量保有報告書を提出し、廣済堂株の5.83%を取得していることを
公表株価848円
2月12日株式会社 廣済堂は「MBOの実施に伴うFAQ」を開示
2月12日麻生グループは財務省に変更報告書(5%ルール報告書)を提出。
報告書では広済堂株式保有比率は5.23%→16.54%に増加
2月26日TOB(株式公開買い付け)期間を、これまでの3月1日から3月12日まで延長すると発表
3月9日株式会社 廣済堂はTOB(株式公開買い付け)の買い付け価格を610円から700円に引き上げると発表
4月10日麻生グループは持株割合が20%を超え、廣済堂に対して会計上の関連会社にする意向を示した
5月23日村上世彰氏の資産を運用する南青山不動産は広済堂へのTOBが不成立になったと発表
⇒TOB(株式公開買い付け)合戦に発展したものの、両者不成立
※村上ファンドでは㈱レノ㈱南青山不動産の2社で買収を進めていた。
■第2ラウンド:ラオックス 羅怡文社長によるMBO
7月31日筆頭株主の澤田ホールディングスが保有株を放出(発行済み株式の12.39%にあたる308万8500株を23億円強で売却)
⇒譲渡先は「グローバルワーカー派遣」なる会社。同社の代表取締役は家電量販店ラオックスで社長を務める羅怡文(ら いぶん)氏の妻
8月27日麻生グループが株を売却していたことが明らかになった。1株999円で250万株を市場外で売却、売却価格は24億9750万円に上り、持株比率は20・01%から10・83%に減少
11月18日廣済堂創業家の櫻井美江氏が、保有する株式の一部を羅氏に売却
⇒売却後の持株比率は5.68%
※羅怡文氏はグローバルワーカー派遣㈱、R&L-HD、アジアゲートHD(PA ACE IV (HK) LIMITED)の3社で買収を進めていた。

現在の株主

上記のような経緯をたどった末に、ラオックスの羅怡文社長は株式の買付と個別の譲渡交渉により、広済堂の株式保有率を高めて大株主となりました。
現在の持株比率は以下の通りで、麻生グループは現在でも約9%を保有する大株主であり続けています。

なお以下グラフのうち、グローバルワーカー派遣株式会社・R&Lホールディングス株式会社、PA ACE IV (HK) LIMITEDは、いずれも羅 怡文氏ならびに親族が経営する企業ですので、実質的な持ち株比率は約32%に達しています。

広済堂HD持ち株比率
出典:株式会社 広済堂ホールディングス『第60回 定時株主総会招集ご通知』

現体制になって以降の事業計画を振返り

黒澤 洋史氏が代表取締役社長に就任して以降、広済堂HDでは積極的に新事業を立ち上げてきました。
こうした企業としての姿勢は、羅 怡文会長・前川 雅彦社長体制に移行してからも、変わらず引き継がれるとのことです。

そこで本章では、広済堂HDが描いている未来について、IR情報から読み解いてみたいと思います。

広済堂HDにおける直近の売上高・営業利益

広済堂HDは上場企業ですので、業績や財務状況に関する詳細な数値も公開されています。
中でも売上高や営業利益、全体における構成比は、特に重要な情報となります。

広済堂HDの売上高

出典:株式会社広済堂ホールディングス『2024年3月期決算短信』

上記は広済堂HDの2023年3月期・2024年3月期における事業セグメントごとの売上高、および全社の売上高における構成比を表しています。
売上高では、情報・人材セグメントが前年を下回っているのに対し、葬祭収益セグメントが大きく伸長しているのが確認できます。

なお資産コンサルティングセグメントは、2024年3月期途中から新設された事業であり、準備段階にあった2023年3月期では、葬祭セグメントに含まれていました。
また売上高構成比では、情報セグメントが42%を占めているものの、葬祭公益・葬祭収益・資産コンサルティングを合算すると、葬祭セグメント全体では42%となっています。

広済堂HDの営業利益

出典:株式会社広済堂ホールディングス『2024年3月期決算短信』

上記は広済堂HDの2023年3月期・2024年3月期における事業セグメントごとの営業利益、および全社の営業利益における構成比を表しています。
営業利益においても、売上高と同様に葬祭収益セグメントの成長率が突出しているのが、お分かりいただけるでしょう。

さらに構成比では、葬祭収益セグメントの占める割合が67%に達しており、葬祭公益セグメントを加えた葬祭セグメント全体では85%に及んでいるのが確認できます。
売上高で全体の42%を占めている情報セグメントの営業利益が占める割合は5%ですので、広済堂HDが葬祭セグメント(葬祭公益・葬祭収益)の成長に注力するのは当然でしょう。

また売上高では全体の1%にとどまっている資産コンサルティングセグメントの営業利益が、情報セグメントと同じ5%を占めているのが確認できます。
資産コンサルティングセグメントの営業利益率は計算上62.31%で、葬祭収益(44.49%)を上回っており、将来的な新しい収益の柱として期待できるでしょう。

中期経営計画4.0

広済堂HDでは、2025年3月期~2027年3月期の3か年を対象とした中期経営計画4.0を発表しています。
その中で、業績向上に向けた施策としてあげているのが「2023年度に増設した式場の収益最大化」「資産コンサルティング事業の収益伸長」の2点です。

既存敷地内での新たな式場増築

広済堂HDでは、2024年10月から20363月期までの長期成長戦略として、火葬場内式場の117室増設を計画しています。
このうち中期経営計画4.0の範囲内である2027年3月期までの期間では、12室の増設が予定されています。

式場数が増えることで、式場利用料収益が増加するのはもちろん、葬祭サービス「東京博善のお葬式」ならびに「グランセレモ東京」の稼働率向上も期待できるため、葬祭収益セグメント営業利益の大幅な向上を見込んでいるようです。
なお広済堂HDでは、式場増設に必要となる最終的な投資額を170億円と算出していますが、内部留保で全額充当するとしています。

資産コンサルティング事業の収益伸長

広済堂HDにおける資産コンサルティングセグメントは、主に貸金業である株式会社広済堂ファイナンス、ならびに相続相談・不動産仲介事業を展開する東京博善あんしんサポート株式会社の2社で構成されています。
なお組織構成上は、広済堂ファイナンスが東京博善あんしんサポートの親会社となっているようです。

参照:株式会社広済堂ホールディングス『特定子会社の異動に関するお知らせ』

前述したように、広済堂HDではSBIホールディングス株式会社との提携を発表しており、将来的には「東京博善あんしんサポート株式会社」は、商号が「SBI東京博善あんしんサポート株式会社」に変更される可能性もあります。
これまでの東京博善あんしんサポートでは、葬祭サービスを展開する「東京博善のお葬式」「グランセレモ東京」からの送客が中心でしたが、今後はSBIグループ各社からの顧客紹介などが期待できます。
くわえてSBIグループ各社が提供している金融・投資商品を、SBI東京博善あんしんサポート株式会社が取り扱う可能性もありそうです。

葬祭市場における業界再編の動き

少子高齢化や核家族化が進行した日本では、葬儀に対する消費者ニーズにも変化がみられ、変革の時を迎えています。
さらに2040年まで続くと予想されている年間死亡者数の増加も、業界全体の負担に拍車をかけている状況です。

こうした現状に対応すべく、近年のライフエンディング市場では、大手冠婚葬祭互助会や大手葬儀社・上場企業を中心にした業界再編の動きが活発化しています。

葬儀業界におけるハブの移り変わり

かつての葬儀業界では地場産業という意識が強く、商圏が異なる同業他社については、あまり興味すら持たないという傾向がありました。
こうした状況の中で、葬儀事業の円滑な遂行に欠かせない専門商社である葬儀問屋が、長きにわたり葬祭各社をつなげる役目を果たしていました。

その後、家族葬の登場と共に葬儀の小規模化(参列者数の少ないお葬式)が進んだ葬儀業界では、インターネットが広く普及した2000年ごろから、情報技術を活用して利益を得る葬儀ポータルサイトの台頭が目立つようになります。
くわえて、主要な葬儀形態が家族葬に移り変わると共に、経営・サービス設計・集客・人材研修などのノウハウを提供するコンサルティング業も花を咲かすようになっていきました。

同時期に、死亡者数の増加にビジネスチャンスを見出した企業による、葬儀業界への新規参入が相次いだことから、一気に集客競争が激化したのも、葬儀ポータルサイト事業者にとって追い風になりました。
葬儀ポータルサイトが収益を向上させるためには、より多くの葬儀社と提携する必要があったため、各ポータルサイトの営業社員を通して、同業他社の動向を知るケースも多かったようです。
ところが、大手葬儀ポータルサイトの多くで景品表示法違反が発覚したころから、葬儀ポータルサイト業界にも翳りが見え始め、葬儀ポータルサイト事業単体で収益化に成功しているケースはわずかとなっています。

そして現在では、豊富な資金力を持つ大手企業や上場企業を中心に、事業領域や商圏の拡大、M&Aなどを駆使した業界再編の動きが活発化しています。
こうした動きは社外にも向けられ始めており、ライフエンディング領域のDX推進に特化したCVCファンド(アルファクラブ武蔵野による「LifeShift Innovaiton1号ファンド」設立)も誕生しています。

CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)
事業会社が自己資金でファンドを組成し、自社の戦略目的のために社外に向けておこなう投資活動

これまでの推移を確認すると、葬儀業界ではおおむね30年周期で、大規模な変革期を迎えているようにみえます。
葬儀ポータルサイト最古参の「いい葬儀(鎌倉新書)」がスタートしてから、今年で24年目となりますので、葬儀業界が転換期を迎えても不思議はないのかもしれません。

広済堂HDが葬儀業界で果たす役割

広済堂HDは東京博善の親会社としてのイメージが強いため、東京23区内を商圏にしていると思われがちですが、情報・人材セグメントでは全国で事業を展開しています。
現時点では、収益拡大に向けた式場の増設に注力しているものの、複数企業との業務提携や人材の動きを考えると、今後は葬祭セグメントでも全国展開が予想されます。

そのための動きとしては、経営が行き詰っている葬儀社や互助会を傘下に収める、あるいは社内の優秀な人材を葬儀社に出向させるなどの方法が考えられますが、少なくとも現時点では表面化していません。
とはいえ葬祭大手による業界再編の動きを鑑みると、同社が収益の柱と捉えている葬祭サービスを自社内だけに留めるとは考えにくいため、今後も広済堂HDの動きから目が離せない状況です。

東京23区における火葬場問題について

広済堂HDのグループ企業である東京博善が、火葬場という公共性の高い事業を運営するうえで、度重なる値上げが問題視されるのは無理もありません。
とはいえ、株式を公開している上場企業である以上、株主に対する利益還元は避けられない問題です。

東京23区内の火葬問題を考えるうえで、もっとも大きな問題は、きわめて公共性の高い事業であるにもかかわらず、行政側がコントロールできていない点でしょう。
民間の営利企業に火葬場運営を任せたまま、行政が管理・監督しなければ、利益優先になるのは自然な流れです。

墓地埋葬に関する法律などをもとに「火葬場の経営主体については、地方公共団体のほか、公益法人又は宗教法人に限られる」と国から通知している以上、本来であれば、もっと早い段階で都または区による対応があってしかるべきだったはずです。
東京都23区内の火葬問題は、一民間企業を責めていても解決しそうにありませんので、行政側の早急な対応が待たれるところです。

まとめ

本記事では、広済堂HDをめぐる企業の動向や人の流れ、IR情報などを参考に、今後の動きについて予想してみました。
火葬費用の値上げなどで、やり玉にあげられることも多い広済堂HDですが、営利を目的とする民間企業である以上、なすべきことを成している部分も多い印象でした。
本記事を作成するにあたっては、各種決算資料やプレスリリースはもちろん、決算説明会の様子を納めた動画なども確認しましたが、少なくとも株主に対しては真摯に対応していると考えられます。

直近における広済堂HDの動向を振り返ると、もしも火葬場事業に行政側から規制が入り、これまでほどの利益が確保できなくなったとしても、他の事業で補える体制づくりに取り組んでいるように感じました。
今後も目標を達成するために、業務提携や資本提携というかたちで、幅広い業界に属する企業とのつながりの強化を図りながら、事業領域や商圏を拡大していく可能性が高いでしょう。

今回は広済堂HDを取り上げましたが、周囲の企業を巻き込みながら、新しいビジネスのカタチを模索している事例は、ほかにも存在します。
中心となっているのは、いずれも豊富な資金を有する葬祭大手と呼ばれる企業ですので、その影響は葬儀業界全体に及ぶ可能性が高いでしょう。
葬研では、今後も葬儀業界のさまざまな動きを注視し、情報を発信していきます。

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