国内で営まれる葬儀の8割前後が仏式で執り行われているようですが、宗派ごとに葬送に対する考え方や葬儀の内容も異なります。
しかし、それぞれの違いについて詳しく把握している方は、葬儀社に勤務されている方であっても、少ないのではないでしょうか。
葬儀関連事業に従事する関係者の皆様におかれましては、日本の宗教文化を理解することで、宗教・宗派ごとの葬祭に関する専門知識を高める一助となるでしょう。
この記事では、その多様な宗派の中から浄土宗4派をご紹介いたします。
ぜひ最後までご覧ください。
浄土宗4派の概要と傾向
浄土宗は大乗仏教の一つで1175年に始まり、2024年(令和6年)に開宗850年となります。
「南無阿弥陀仏」と唱えることで、すべての人が極楽浄土へ導かれるというお念仏の教えがあります。
開祖は法然上人(ほうねんしょうにん)で、ご本尊様は阿弥陀如来(あみだにょらい)です。
浄土宗の中にも、多少教義の違いが見られます。
まず、念仏を唱えることだけが往生する道であるとする「一類往生(いちるいおうじょう)」で、おもに「西山派」が説いています。
そして念仏を唱えることを大切にするが、善行によっても往生ができるとする「二類往生(にるいおうじょう)」があり、これはおもに「鎮西派」の教えです。
この2つの教えをめぐり、いくつかの宗派に分かれていったと言われています。
浄土宗は、法然上人の後継になった信空上人(しんくうしょうにん)の没後、浄土四流(じょうどしりゅう)である西山派、鎮西派、長楽寺義、九品寺義(くほんじぎ)、そして親鸞聖人が祖の浄土真宗に分かれました。
現在浄土宗は、知恩院が総本山の浄土宗、西山浄土宗、西山深草派、西山禅林寺派が存在しています。
浄土宗の開祖・法然上人について
浄土宗の開祖、法然上人は1133年現在の岡山県で生まれ、別名を源空上人(げんくうしょうにん)といいます。
10代で比叡山の叡空に従事して仏教を学び、その後奈良や京都の寺院を訪ねたりほかの宗派を学んで比叡山に戻ります。
経蔵にこもって経文を読み続け、43歳のときに中国の僧 善導大師の「観無量寿経疏(かんむりょうじゅけいしょ)」を読んで、ようやく救われ比叡山から東山吉水に移り草庵を結びました。
66歳のとき、「選択本願念仏集(せんちゃくほんがんねんぶつしゅう)」を完成させます。
69歳で当時29歳の親鸞聖人(しんらんしょうにん 浄土真宗の祖)と出会い、救われた親鸞聖人は法然上人の弟子になったのです。
75歳のとき法然上人の弟子が、後鳥羽上皇の女官を勝手に出家させたとして、法然上人は土佐(高知県)へ流刑となります。
79歳でやっと許しが出て京都に戻り、80歳で亡くなりました。
晩年寝たきりになっても、念仏を唱え続けていたといわれています。
浄土宗と浄土真宗の違い
浄土宗と浄土真宗は名称が似ていますが、違いをご存じでしょうか。
浄土宗の開祖は法然上人ですが、弟子の親鸞聖人が開いたのが浄土真宗です。
法然の没後、お念仏のとらえ方からいくつかの派に分かれたので、浄土真宗も浄土宗の一派だと言えます。
基本の教義は共通
「南無阿弥陀仏」と唱えることで、すべての人が極楽浄土へ導かれるというお念仏の教えは、共通しています。
その教義の中にも、「専修念仏」と「他力本願」があります。
「専修念仏」は「南無阿弥陀仏」と唱えると、極楽浄土で仏になると説くもので、浄土宗の基本です。
親鸞は法然の教えをさらに深め「他力本願」の教えを重要だとしています。
「他力」は阿弥陀如来を意味し、仏さまを信心すれば救われるという考えです。
葬儀での違い
浄土宗やほかの宗派の葬儀では、授戒・引導の儀式がおこなわれますが、浄土真宗の葬儀ではおこなわれません。
これは浄土真宗の考え方が他の宗派とは違っているためです。
浄土真宗は人が亡くなると、すぐに阿弥陀如来により極楽浄土に導かれるとの教えによります。
そのため、葬儀で亡くなった人の成仏を祈る必要がないとの考えです。
授戒をおこなわないため、戒名ではなく法名が与えられます。
浄土宗やほかの宗派では、亡くなった人がすぐには極楽浄土に導かれるとは考えていません。
葬儀で授戒・引導の儀式をおこない、成仏を祈らなければならないとされ、戒名が与えられます。
授戒:故人が仏門に入るために戒めを授け、仏の弟子になるとされる
引導:僧侶が仏の弟子になった故人を、仏門へ導き浄土に旅立たせる
香典の表書きの違い
故人がいつ仏さまになるかという考え方は、葬儀での香典の表書きにも反映されています。
浄土宗やほかの宗派では「御霊前」「御香料」と書きます。
亡くなってから49日後に仏さまになるとの考えからで、葬儀のときにはまだ仏さまになっていないとされます。
一方の浄土真宗の葬儀での香典の表書きは「御仏前」「御香料」と書きます。
亡くなるとすぐに極楽浄土に導かれるので、葬儀の時にすでに仏さまになっているとされるからです。
浄土宗4派の紹介
ここからは、浄土宗4派についてご紹介いたします。
各宗教の特徴、概要がお分かりいただけると思います。
リンクを載せておりますので、詳しい内容はクリックしてご覧ください。
浄土宗
開祖 | 法然上人(ほうねんしょうにん) |
ご本尊 | 阿弥陀如来(あみだにょらい) |
代表的な寺院 | 知恩院(ちおんいん 京都市東山区) |
浄土宗は法然上人を開祖とし、「南無阿弥陀仏」と唱えることで、すべての人が極楽浄土へ導かれるというお念仏の教えを説いています。
総本山は知恩院、ご本尊様は「阿弥陀如来」で、経典は「観無量寿経(かんむりょうじゅきょう)」「無量寿経(むりょうじゅきょう)」「阿弥陀経(あみだきょう)」の「浄土三部経(じょうどさんぶきょう)」です。
浄土宗について詳しくは、以下の記事をご覧ください。
西山浄土宗
開祖 | ・法然上人(ほうねんしょうにん) ・西山上人 証空(せいざんしょうにん しょうくう) |
ご本尊 | 阿弥陀如来 |
代表的な寺院 | 光明寺(京都府 長岡京市) |
西山浄土宗は法然上人が開祖の浄土宗の流れをくんでおり、念仏を唱えることだけが往生する道であるとする「一類往生(いちるいおうじょう)」を説いています。
浄土宗には法然の後継者である、西山上人 証空を祖とする西山流と西谷流、深草流、嵯峨流の4つの流派があり、その中の法系を継承した宗派の1つが「西山浄土宗」です。
ご本尊様は「阿弥陀如来」で、経典は「観無量寿経」「無量寿経」「阿弥陀経」の浄土三部経ですが、その中で「観無量寿経」を重視しています。
西山浄土宗について詳しくは、以下の記事でご紹介しています。
浄土宗 西山深草派
開祖 | 高祖:善導大師(ぜんどうだいし) 元祖:法然上人(ほうねんしょうにん) 流祖:西山上人 証空(せいざんしょうにん しょうくう) 派祖:立信上人 円空(りゅうしんしょうにん えんくう) |
ご本尊 | 阿弥陀如来 |
代表的な寺院 | 誓願寺(京都府中央区) |
浄土宗 西山深草派は、浄土宗西山派の流れをくんでいます。
法然上人の後継となった信空上人のとき、教義の解釈の違いにより証空の西山儀(西山派)、弁長の鎮西義(鎮西派)、隆寛の長楽寺義、長西の九品寺義の浄土四流(じょうどしりゅう)に分かれます。
最終的に残ったのは、西山派と鎮西派、浄土真宗です。
総本山は誓願寺で、落語発祥の地であり女人往生の寺として知られています。
ご本尊様は「阿弥陀如来」で、経典は浄土三部経である「観無量寿経」「無量寿経」「阿弥陀経」です。
浄土宗 深草派について、以下の記事で詳しくご覧いただけます。
浄土宗 西山禅林寺派
開祖 | ・法然上人(ほうねんしょうにん) ・西山上人 証空(せいざんしょうにん しょうくう) |
ご本尊 | 阿弥陀如来 |
代表的な寺院 | 禅林寺(京都市) |
浄土宗 西山禅林寺派は西山浄土宗、浄土宗 西山深草派とともに浄土宗西山三派の一つです。
浄土宗の中でも教議に違いがあり「一類往生(いちるいおうじょう)」と「二類往生(にるいおうおじょう)」の2つの考え方があります。
念仏を唱えることだけが往生する道であるとするのが「一類往生」です。
「二類往生」は念仏を唱えることを大切にするが、善行によっても往生ができるという考えですが、浄土宗 西山禅林寺は一類往生を説いています。
ご本尊様は「阿弥陀如来」で、経典は「観無量寿経」「無量寿経」「阿弥陀経」の「浄土三部経」です。
浄土宗 西山禅林寺派について、以下の記事で詳しくご紹介しています。
最後に
この記事では浄土宗4派についてご紹介しました。
葬儀の場では宗派により僧侶が唱えるお経が違いますし、昨今は簡略化されることが多いお焼香も、本来は宗派により回数や作法が違います。
葬儀関連事業に従事される方におかれましては、各宗派のことを知っておくことで、ご遺族や参列される方のご案内もスムーズにおこなえるでしょう。
葬研には各宗派を解説した記事が多数ありますので、ぜひご覧になって業務にお役立ていただければ幸いです。