棺や祭壇・骨壷といった葬具を取り扱うメーカーさんは、葬儀業界において欠かすことのできない存在といえるでしょう。
規模の大小にかかわらず、ほぼすべての葬儀社様では、数社の葬具メーカーさんと取引されているかと存じます。
現在の日本では、ご遺体を棺に納めなければ、原則的に火葬できません。
そのため、宗教儀式をおこなわない直葬(火葬式)であっても、棺の用意だけは必須となっています。
最近では、数多くの棺の選択肢を用意している葬儀社様も多いようで、棺メーカーさんも新商品の開発に力を入れているようです。
そこで本記事では、代表的な棺メーカー9社を紹介し、各社の特徴について解説します。
棺の選びかた
棺(ひつぎ)は棺桶(かんおけ)とも呼ばれ、かつては桶型の「座棺(ざかん:ご遺体を座った状態で納める棺)」などもありましたが、火葬が主流となった現在では「寝棺(ねかん:ご遺体を横たわった状態で納める棺)」が一般的です。
葬儀の小規模化・簡素化が進んだ現在では、安価でシンプルな棺を選ばれる方も多いようですが、反対に棺だけは豪華なものを選択される方も少なくないようです。
近年では、オプションとして多種多様な棺を用意している葬儀社様も多く、ご遺族の選択肢も広がっています。
ここでは、ご遺族様が棺を選択する際に基準となる項目について、それぞれ詳しく解説します。
形状
幅が狭く奥行きのある火葬炉に収める都合上、棺の形状も原則的に横長の箱状となりますが、いくつか種類があります。
代表的な棺の形状は、以下の5種類です。
形状 | 特徴 |
箱型(キャスケット型) | 蓋が平らで長方形の箱型。もっともオーソドックスな形状だが、豪華な彫刻を施されたものもあるため、価格帯も幅広い。 |
舟型(コフィン型) | 土葬が主流の欧米などで用いられることの多い形状。頭部から肩にかけて広がり、足元に向けて幅が狭くなる6角形が一般的。 |
山型 | 横から見た蓋の形状が台形に盛り上がっており、装飾性が高い。 |
インロー型 | 蓋が棺全体に覆いかぶさるような形状をしており、重厚感がある。蓋が印籠のようにはめ込み式になっていることが名称の由来といわれている。 |
かまぼこ型(R型) | 蓋が丸く盛り上がった形状をしており、横から見るとかまぼこ状の棺。蓋の形状が丸みを帯びた曲線であることから、R型とも呼ばれる |
大きさ
標準的な棺のサイズ(内寸法)は6尺とされており、1尺は約30cmですので約180cmとなります。
棺のサイズを選ぶ際は、死後硬直の影響を考慮して10cmほど余裕をもつのが一般的ですので、故人が身長170cmまでの方であれば標準サイズで問題ありません。
それより大きい方については6.25尺、あるいは6.5尺を利用することとなります。
とはいえ、火葬炉に収まるサイズは標準炉で長さ195~200cmまで、大型炉でも220~230cmまでですので、際限なく大きくすることはできません。
棺の外寸法は内寸法より10cmほど大きくなりますので、特注の棺でも内寸法210cmまでと考えた方がよいでしょう。
素材
棺の素材としては、杉や檜(ひのき)・桐などの天然木材が一般的ですが、近年では表面を布で覆った布張り棺も多く利用されているようです。
またベニヤ板の表面に自然な木目などをプリントした「プリント棺」は、天然木製よりも安価で軽量という特徴があります。
最近では、環境に配慮した段ボール製の棺も利用され始めているようですが、強化段ボールを使用しているため想像以上に丈夫で、250㎏まで耐えられるものもあるようです。
さらにエンバーミング処置を施したご遺体用の「エンバー棺」では、蓋部分にアクリルを使用した開口部の大きいものが多く、通常の棺よりも対面しやすくなっています。
値段
棺の値段相場はあってないようなもので、装飾が豪華になればなるほど高額になります。
木製の棺でも、シンプルなデザインのものは数万円からありますが、表面全体に精緻な彫刻を施したものでは、100万円以上のものもあります。
比較的安価な布張り棺でも、細かい刺繍(ししゅう)などで装飾されたものは、30万円以上になるケースもあるようです。
棺メーカーにおける近年の動向
棺メーカー各社についてリサーチを進める中で、共通するキーワードとして「エコ」と「コラボレーション」の2つが目を引きました。
まず「エコ」についてですが、環境への配慮という面では共通しているものの、対応は各社で異なるようです。
強化ダンボールを利用した「エコ棺」で、二酸化炭素排出量の削減に取り組む企業もあれば、植林などにより環境整備に力を入れている企業もあります。
また「コラボレーション」については、著名なアーテイストだけでなく、伝統工芸品との融合も見られ、各社ともオリジナリティーあふれる棺の創出に取り組んでいる様子がうかがえました。
棺メーカー9社の特徴
日本国内には、棺を取り扱っているメーカーが数多く存在しますが、全国に販路を持つ企業は限られるようです。
ここでは代表的な棺専門メーカー、および葬儀メーカー9社の特徴について、詳しく解説します。
株式会社 ジャパン唐和
ジャパン唐和は2015年設立と、葬具メーカーとしては新しい企業ですが、祭壇や棺・骨壷といった葬具全般から、斎場備品までを取り扱う総合メーカーです。
国内最大級の葬具・仏具ショールームには常時200アイテム2,500点を展示しており、斎場全体のトータルコーディネートにも対応しています。
棺については、シンプルな木棺や布張り棺から、精緻な彫刻を施した七面(側面、天面と窓の七面)彫刻棺や塗り棺などの高級品まで、幅広く取り扱っています。
オリジナルブランドの「ここづつみ」の「趣味」シリーズには、サッカーや将棋などをテーマにしたものもあり、棺と骨箱などをセットにすることも可能です。
さらなる商品開発に向けて、新しいアイデアをもった企業との連携も視野にパートナー企業を募集しており、エネルギッシュな印象を受けます。
【社名】株式会社 ジャパン唐和
【設立】2015年6月1日
【所在地】〒575-0034 大阪府四條畷市江瀬美町14-8
【事業所】大阪配送センター・関東支店・福島支店・九州支店
【従業員】39名
【事業内容】葬祭用具の製造販売業務・葬祭ホールの備品製造販売及びトータルコーディネイト・粗供養品及び返礼品,ギフトの販売業務
【公式サイト】https://japan-touwa.co.jp/
株式会社 ヤマトコフイン
株式会社 ヤマトコフインは棺の製造・販売を中核事業としていますが、仏衣や遺影額縁、葬儀業務で必要となる消耗品も取り扱っており、新たな分野の開拓にも力を注いでいるようです。
全国4カ所(四国、関東、東北、九州)に物流拠点を構えて、迅速な納品供給体制を整えており、取引先企業数は2173社にのぼります。
国内工場に製造ラインを設置することで、生産から品質管理・販売までスムーズに行える体制を整え、安定的かつスピーディーな商品供給を実現しているようです。
自社製品だけでなく、環境に配慮されたエコ棺「エコフィン ノア(ウィルライフ株式会社製:三層ダンボール トライウォール・パックを主材料とした棺)」なども取り扱っており、幅広いニーズに対応しています。
国内で大災害が発生した際には、迅速な大量出荷を可能とする体制を整えており、東日本大震災への対応では感謝状を授与されました。
【社名】株式会社ヤマトコフイン
【設立】1977年4月
【所在地】香川県高松市川島東町462-2
【事業所】関東営業所・東北営業所
【従業員】70名
【事業内容】棺・葬祭用品製造販売
【公式サイト】https://www.yamato-coffin.co.jp/
株式会社 共栄
株式会社 共栄は「死に様は 生き様」を自社の存在意義として定め、企画×技術×生産を軸にしたフレキシブルな対応を強みとした棺メーカーです。
カプセル式の「レクサス」、まるで船のような「Sea Cruiser」などユニークなオリジナル棺を多数開発しています。
府中(広島県)家具職人の繊細な技術を装飾に活かした「ナイアガラ」など、多方面の芸術家とのコラボ作品も手掛けており、代表例としては小学館の雑誌『 和樂』とコラボした「和樂コラボ棺」や、カップルで一緒に入れる「Lovers(恋人棺)」などがあります。
仕入れを希望する葬儀社様向けに、全ての商品を卸価格で注文できるオンラインショップも開設されており、棺1つから注文が可能です。
なおオンラインショップは一般の方でも利用可能で、ペット棺などが購入できます。
【社名】株式会社 共栄
【設立】1970年3月3日
【所在地】〒729-3111 広島県福山市新市町大字金丸438-1
【事業所】配送センター・関東倉庫
【従業員】40名
【事業内容】棺や小物の企画、製造、販売
【公式サイト】https://kyoei-casket.co.jp/
株式会社 協和木工所
株式会社 協和木工所は、昭和元年(1926年)に設立された老舗の棺専門メーカーです。
国内のみならず、中国の上海にも生産子会社として「上海協和木業」を設立して、生産から品質管理・販売までスピーディーに対応できるシステムを確立しているようです。
株式会社 協和木工所では、安定的な商品供給の実現に向け、東日本一円に営業ネットワークを築き上げました。
また環境に配慮した活動も積極的に推進しており、特定非営利活動法人グリーンアークの森の代表者を、協和木工所創業家の井上嚴尹氏が務めています。環境保全活動の一環として、グリーンアークの森への寄付金を含む『グリーンアーク』を、ラインナップに加えています。
【社名】株式会社 協和木工所
【設立】1926年
【所在地】〒190-0182 東京都西多摩郡日の出町平井1316
【事業所】品川営業所・葛飾営業所・横浜営業所・千葉営業所・新潟営業所・札幌営業所・ 静岡営業所・金沢営業所・茨城営業所・仙台営業所
【事業内容】木棺製造販売、葬祭用品販売
【公式サイト】http://kyowa-m.co.jp/
株式会社 日本コフィン
株式会社 日本コフィンは1965年設立の棺専門メーカーで、斬新なデザインの棺を数多く開発しているのが特徴的です。
日本製にこだわった棺作りで送る人の想いに寄り添いつつ、近年では環境保護にも積極的に取り組んでいます。
最近の代表的なオリジナル製品としては、以下のようなものがあります。
・佐賀県有田町出身のアーティスト OHGUSHI氏とのコラボレーションシリーズ『LUXDEA art collaboration with OHGUSHI』2019年~
・棺表面を鳳凰と唐草の紋様が覆い、内装にも龍村美術織物「光悦菊」を採用した龍村美術織物裂使用『舞鳳凰(まいほうおう)』2015年~
・棺全体が多種多様な花々で装飾された、華道家 假屋崎省吾氏プロデュース『花筺(はながたみ)』2014年~
また2021年には日本環境協会エコマーク事務局認定商品として「NC e-LITE」をリリースしています。
将来的に発生が予想される東海南海沖地震への対応も進めており、電源・通信回線の消失への備えとして、2014年4月には衛星電話を導入しました。
【社名】株式会社 日本コフィン
【設立】1965年10月1日
【所在地】〒726-0001 広島県府中市本山町10530-268
【従業員】30名
【事業内容】木製棺製造・販売
【公式サイト】http://coffin.co.jp/
三友物産 株式会社
三友物産 株式会社は山口県の棺専門メーカーで、精緻な彫刻が施されたオリジナル木棺を中心に、製造・販売をおこなっています。
1998年からは中国製棺の輸入にも対応しているようです。
「手のぬくもり」が伝わる商品を目指して、熟練の専門職人が手作りしています。
【社名】三友物産 株式会社
【設立】1984年11月6日
【所在地】〒751-0806 山口県下関市一の宮町3丁目1番20号
【事業内容】葬祭用品製造販売・別注木工品の製造卸売業
【公式サイト】http://we.magma.jp/~sanyu/index.htm
丸喜 株式会社
昭和15年(1940年)に設立された丸喜 株式会社は、大正10年(1921年)創業の小林喜一商店を前身とする、代表的な葬具メーカーのうちの1社です。
祭壇・葬具だけにとどまらず、仏壇・仏具から手元供養品まで、冠婚葬祭に関わる物品を幅広く取り扱っています。
商品の製造販売だけでなく、大きな斎場を家族葬向けにリメイクする『葬想空間®ユニット』も取り扱っており、コストを抑えた既存ホールの活用を提案しているようです。
さらに2002年に設立されたグループ会社の株式会社 マルキメモリアル21では、都内唯一の家族葬ホテル「葬想空間スペース アデュー®」の運営もおこなっています。
一般的な葬具メーカーに比べ事業範囲が格段に広いため、葬具メーカーというよりは冠婚葬祭の総合商社といった印象です。
【社名】丸喜 株式会社
【設立】1940年12月
【所在地】〒604-0001 京都市中京区室町通り丸太町下る道場町20番地
【事業所】札幌営業所・東京支店・名古屋支店・中央物流センター
【従業員】139名(グループ全体400名)
【事業内容】供養用品製造販売
【公式サイト】https://www.maruki.co.jp/
株式会社 萩原
「白木の萩原」として130年以上の歴史を誇る株式会社 萩原は、冠婚葬祭に関わる商品を網羅的に取り扱う老舗企業です。
札幌・仙台・東京・大阪・福岡の5拠点を設け、全国での取引先は2000社に葬儀用品(神具、仏具、キリスト用品)を提供しています。
棺に関しては、抗菌加工を施した萩原オリジナルの棺『浄菌棺』や、フィルム窓をスライドさせて開けることが可能な『お別れ窓』を開発、商標登録しています。
【社名】株式会社 萩原
【設立】1978年
【所在地】〒111-0041 東京都台東区元浅草4-7-15
【事業所】営業本部・札幌営業所・仙台営業所・大阪営業所・福岡営業所
【従業員】110名
【事業内容】冠婚葬祭用具・用品の卸売
【公式サイト】https://www.e-hagiwara.co.jp/
三和物産 株式会社
三和物産株式会社は、自らを「葬祭用品の企画・製造・販売を行う葬祭商社」として捉え、既存の枠組みにとらわれない商品を提供している葬具メーカーです。
商品を製造・販売するだけでなく、設立以来60年以上にわたって積み上げたノウハウを活かし、葬儀社に対して包括的なサポートを提供しています。
オリジナル棺としては四季シリーズがあり、棺と共柄の仏衣・布団・骨壷・骨箱・骨覆いもラインナップされています。
また商品開発にあたっては、直接の取引先である葬儀社だけでなく、エンドユーザーであるご遺族を意識しているようです。
こういった企業姿勢を象徴するような商品として、2022年12月に発売された『ゆめだっこ』があります。
また環境問題への対応として、不用品に付加価値をもたせてアップサイクルする株式会社 リクラを、グループ企業として2018年に設立しました。
株式会社 リクラの代表取締役社長は、三和物産の常務取締役である西河 誠人氏が兼任しています。
【社名】三和物産株式会社
【設立】1959年4月9日
【所在地】〒920-0031 石川県金沢市広岡3丁目1番1号金沢パークビル9F
【事業所】東京支店・大阪支店・福岡支店・名古屋工場・神奈川工場・札幌営業所
【事業内容】葬祭用品の製造販売
【公式サイト】https://www.sanwa-bussan.co.jp/
まとめ
今回は棺を取り扱うメーカー9社について、企業姿勢やオリジナル商品などを中心に解説しました。
いずれも広範囲に商品を提供している企業ですので、お取引のある葬儀社様も多いかと思いますが、各社の特徴をつかむ参考にしていただければ幸いです。
全国的に葬儀の小規模化・簡素化が進む中でも、故人を手厚く葬りたいと希望される方は一定数存在すると思われます。
「必要最小限に絞ったプラン」が主流となった現在だからこそ、棺や骨壷といった葬具の選択肢を、幅広く用意している葬儀社様も多いようです。
とはいえ、中小葬儀社様が大量の在庫を抱えるのは困難と思われますので、即応態勢を整えている葬具メーカーさんの確保は不可欠でしょう。
こういった点を考慮すれば、葬具メーカーさんを長期的なパートナーとして捉え、共存共栄を見据えた関係性の構築が必要となるかもしれません。