大切な方を失ったばかりのご遺族様にとって、相続に関する手続きは非常に負担が大きいものとなります。
しかし、相続税の申告や相続放棄、限定承認(げんていしょうにん)の判断などには期限があるため、手続きを先送りするわけにはいきません。
さらに遺言書の有無や相続財産の内容によって、手続きに必要となる書類も異なるため、なかなか思うようには進まないケースも多いようです。
とはいえ、税理士など専門家に依頼するためには相応な費用が必要となるため、躊躇(ちゅうちょ)されるご遺族様もいらっしゃるかと思います。
本記事では、比較的少ない費用負担で利用できる相続税申告プラットフォームを紹介しつつ、相続税の申告期限や、配偶者控除・基礎控除といった相続税負担の軽減に役立つ情報について解説します。
さまざまな悩みを抱えるご遺族様に寄り添う葬儀社様のご参考になれば幸いです。
相続税の概要
まずは、相続税の現状についてみていきましょう。
相続税が必要な理由
亡くなった方の財産上の権利や義務を承継することを相続といいます。その際に受け取った財産にかかる税金が相続税です。
財産を所有してた人(亡くなった方)を被相続人、財産を継承する人を相続人といいます。
身内から受け継いだ財産にも関わらず、なぜ相続には税金がかかるのでしょうか。
実は相続税には、「富の再分配」という役割があります。
富裕層の家庭に生まれた人は、多額の財産を受け継ぐことにより、子孫も富裕層になることが多いのが現実です。一方で豊かではない家に生まれた人は、豊かな生活を送ることが難しいという格差を引き継いでいく可能性が高くなります。
そんな社会的な格差を緩和するため、相続税には、累進(るいしん)課税制度が採用されています。
累進課税制度とは、課税される金額が高くなるほど税金が高くなる仕組みです。
相続税も10%~55%の8段階の課税になっており、課税対象額が高いほど、高い税率が課せられます。
相続税の現状
実は、相続が発生しても、相続税の支払いが必要になるケースは、10%にも及びません。
2021年(令和3年)に被相続人となった人(死亡者数)は、1,439,856人に対し、相続税申告書の提出を要したのは、134,275人となりました。つまり、9.3%の被相続人の財産が相続税の対象になったことになります。
なお、2014年(平成26年)の4.4%から2015年(平成27年)の8.0%に課税割合が急増しているのは、制度の改正により基礎控除の額が下がったことによります。
相続税の知識
身近な人が亡くなると、ご遺族様はさまざまな手続きに翻弄されることになります。ここでは、相続に特化して説明していきます。
相続に関する公的な相談窓口
相続は誰もが経験する可能性がある出来事ですが、その機会は非常に限られるため、「どこに相談したらよいのか分からない」という悩みを抱える方も多いことでしょう。
弁護士や税理士といった専門家が真っ先に思い浮かぶかもしれませんが、実は市区町村役場をはじめとした公的機関でも、無料の相続相談窓口を設けています。
ただし、相談できる内容は各機関で異なるため、上手に使い分ける必要があります。
市区町村役場
一般の方にとって、もっとも身近な公的機関である市区町村役場の多くでは、弁護士や司法書士・税理士といった相続の専門家が対応する無料相談会などを開催しています。
「いきなり専門家の事務所に足を運ぶのはハードルが高い」と感じている方でも気軽に利用できるため、相続への第一歩として持ってこいの機会といえるでしょう。
ただし相談できる内容は役場ごとに異なるため、場合によっては「そもそも相続税申告が必要なのかどうか」といった基本的な部分のみというケースもあります。
また、必ずしも専門家が同席するわけではなく、1人当たりの相談時間も短いことが多いため、あらかじめ詳細を問い合わせてから参加することをおすすめします。
国税庁・税務署
相続税の計算や申告書の作成、各種特例制度の利用といった具体的な内容については、地域の税務署や国税局が定期的に開催する無料相談会などがおすすめです。
税務署職員との面談は基本的には予約制となりますが、実際の申告書をもとに、しっかりと時間をとって説明してくれます。
また国税局では「国税局 電話相談センター」を各地の国税局に設置して、税務に精通した税務相談官が相談に対応しています。
法務局
相続登記(正式には「相続による所有権登記」)に関する相談は、各地の法務局で受け付けています。
ただし、基本的には「登記申請書の作成方法についての相談」が対象で、遺産分割協議などには対応していません。
その他
相続に関連する事項としては、他にも相続放棄や限定承認などがあげられますが、こうした手続き上の相談については家庭裁判所の「家事手続案内」で受け付けています。
また法律に関する悩み事は、国が設置した法的トラブルの総合案内である「法テラス(日本司法支援センター)」に相談できます。
基本的には、トラブル内容に応じて専門家を紹介するかたちになりますが、経済的に余裕がない方は無料法律相談を受けることも可能です。
主な相続税関連の手続内容と期限
手続き期限 | 必要な対応 |
死亡から3カ月以内 | 相続の単純承認、相続放棄、限定承認の判断 相続放棄、限定承認をする場合は、3カ月以内に家庭裁判所にて手続きが必要です。それを過ぎると単純承認(被相続人の財産を無条件で相続すること)したものとみなされます。 |
死亡から4ヵ月以内 | 所得税の準確定申告 相続人が準確定申告を行います。 なお先に準確定申告をすると相続放棄ができなくなるので、注意が必要です。 |
死亡から10ヵ月以内 | 相続税申告と納税手続き 相続税は、原則現金で一括納付となります。 これらの手続きを行うためには、遺言書の有無の確認、相続人の特定、財産の洗い出し、相続財産の評価、遺産分割協議、遺産分割協議書の作成などを行うことが必要です。 |
相続税申告に必要となる書類
相続税申告書を提出する際には、以下のような書類を添付する必要があります。
出典:国税庁「(参考) 相続税の申告の際に提出していただく主な書類」
- 次のいずれかの書類
- 被相続人の全ての相続人を明らかにする戸籍の謄本(相続開始の日から10日を経過した日以後に作成されたもの)
- 図形式の法定相続情報一覧図の写し(子の続柄が実子又は養子のいずれであるかが分かるように記載されたものに限ります。)
- なお、被相続人に養子がいる場合には、その養子の戸籍の謄本又は抄本の提出も必要です。
- 上記をコピー機で複写したもの
- 遺言書の写し又は遺産分割協議書の写し(注)
- 相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書に押印したもの)
上記以外にも、相続財産の内容や、適用される税額軽減制度によって、必要となる書類があります。
相続税申告が必要ないケース
相続があったとしても、必ずしも相続税の負担があるわけではありません。相続した財産が基礎控除(きそこうじょ)内であれば、相続税はかかりません。
基礎控除は以下のように計算します。
基礎控除=3000万円+600万円×法定相続人の人数
申告をすることで税金が軽減されるケース
相続税の申告書を提出することで、税金の負担が軽減される制度もあります。
制度を適用するためには、申告書の提出が必要です。
- 小規模宅地等の特例
被相続人(故人)の自宅や事業用として使用していた場合、宅地の評価額が最大で80%減額できる制度。適用には条件があります。
- 配偶者の税額軽減(配偶者控除)
配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した遺産額が1億6,000万円以下、もしくは配偶者の法定相続分相当額までであれば、配偶者に相続税はかかりません。
みなし相続財産
被後見人が所有していた相続財産ではなく、被後見人が死亡したことによって受け取る財産をみなし相続財産といいます。
生命保険金や死亡退職金(死亡後3年以内に支払いが確定したもの)などがみなし相続財産に該当します。みなし相続財産も期限内に申告が必要です。
生命保険金と死亡退職金には、相続財産の基礎控除とは別に、それぞれ「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が設けられています。
なお、みなし相続財産は、遺産分割の対象にはなりません。生命保険は受取人が取得できる固有の財産となります。
相続税申告期限に間に合わなかった場合
何らかの事情により、相続税の申告期限に間に合わなかった場合、以下のようなデメリットがあります。
- 相続税を軽減できる控除や特例制度などの利用ができなくなる
- 追徴課税(ついちょうかぜい)などのペナルティが課せられる
- 連帯納付義務があるため、 他の相続人に催促(さいそく)が行く可能性がある
相続税が誤りあった場合
もし、申告した相続税に誤りがあった場合、どうなるのでしょうか。
計算間違いや勘違いのほか、後から相続財産が出てくるなどのケースもあります。
相続税にも税務調査が行われ、相続税を申告した人の約2割が税務調査を受けているようです。2021年に税務調査(実地調査)を受けた6317件のうち、87.6%が申告漏れなどの指摘を受けました。
(「令和3事務年度における相続税の調査等の状況」国税庁より)
相続税の誤りの対応
申告した相続税に誤りを発見した場合、次のような対応になります。
①訂正申告
相続税の申告期限内に申告の修正を行う場合。
提出した申告書を差し戻し、再提出をします。
相続税の額が過少であっても、ペナルティは課せられません。
②更正の請求
相続税の申告期限後、納付した相続税が多すぎた場合の手続き。
更正の請求をすることにより、払い過ぎた相続税が還付されます。法定申告期限から5年以内に行うことが必要です。
③修正申告
相続税の申告期限後、納付した相続税の額が納付すべき額よりも少なかった場合に行う手続きです。ペナルティが発生します。
追徴課税(ついちょうかぜい)の種類
正しい申告を行わなかった場合のペナルティには、以下のような追徴課税(ついちょうかぜい)が発生します。
追徴課税の種類 | 概要 |
延滞税 | 未納分の税金に対して利息となる税金です。 法定納付期限を過ぎた日数分かかるため、修正申告が遅くなるほど、延滞税は増額されます。 |
過少申告加算税 | 法定申告期限までに申告・納付した税金額が低かったことに対するペナルティです。 修正申告のタイミングが税務調査で指摘を受ける前と後では、加算される税率が異なります。 |
無申告加算税 | 正当な理由なく、期限までに相続税の申告をしなかった場合に課されます。 申告も納税もおこなっていない場合は、無申告加算税と延滞税の両方が課税されます。 |
重加算税 | 意図的に税金を逃れるための過少申告や無申告などを行った場合に課される税金です。 35~40%と非常に重い税金が課されます。 |
相続税プラットフォーム利用のメリット・デメリット
自分で相続税の申告ができる相続税プラットフォームですが、その利用には、どんなメリット・デメリットがあるのでしょうか・
メリット
- 専門家に依頼するよりも費用が抑えられる
- 専門知識がなくても、自分で申告書の作成ができる
- 自分のペースでできる
- サービスによっては、申告の要・不要を判断をするヒントにもなる
相続税プラットフォームのメリットは、専門家に依頼するほどではないけど、自分で申告書の作成をするのは不安という人にとってはメリットが大きいようです。
デメリット
- ある程度、スマホやパソコンの操作になれていることが必要
- 評価に専門知識が必要な財産が含まれている場合は、利用が難しいことも
- 相続に関する、多少の知識が必要になる
- 専門家に依頼する必要が出てくることもある
複雑な形の土地など、相続する財産に価値の評価が難しいものが含まれている場合、専門家の力が必要になるかもしれません。
葬儀社様にとってのメリット
相続税の申告・納付には10カ月というタイムリミットがありますが、「専門家に依頼するほどの財産ではない」「できるだけ出費は抑えたい」と考える方も多いようです。
ここで紹介する相続税申告プラットフォームは、申告の要・不要を判断できるものもあります。
また誰に相談したらいいかわからないというご遺族様も少なくないでしょう。
専門家への相談以外に、葬儀社様が提案できる選択肢のひとつとして、心に留めておくことをおすすめします。
相続税申告プラットフォームを提供する会社5社の特徴
辻・本郷 ITコンサルティング株式会社様「better相続」
質問に答えていくだけで相続税の申告書の作成ができる申告サポートサービスです。
自分で相続税の申告を行うことを前提としていますが、必要に応じて税理士対応に切り替えることもできます。
会社概要 | ・東京都渋谷区代々木1-36-4 全理連ビル5F |
事業内容 | ITコンサルティング(IT戦略、BPR、業務改善、情報セキュリティ管理等)経理・財務システムの評価、 分析、構築、ERP、CRMシステム導入、構築、運用管理のIT支援(データセンターサーバー運用管理等)、 相続WEBサービスの開発・運営 |
特徴・強み | ・質問に答えるだけで申告書の作成ができる ・55,000円の定額・低価格 ・途中で税理士依頼に切り替えることも可能 ・アンケート形式で財産の洗い出しができる ・必要な資料リストの作成ができる ・土地評価明細書の作成ができる ・相続税額のシミュレーションができる ・相続に必要な知識が得られる |
公式サイト | https://jp-better.com/lp/shinkoku/ |
タイトル | おうちで完結 自分でできる相続税申告 |
株式会社みなと相続コンシェル様「AI相続」
利用制限、追加料金なしで無料で利用できる申告書作成ソフトです。
形状が複雑な土地の評価など、必要な部分に関しては、有料で専門家のサポートがあります。
会社概要 | ・営業拠点:141-0001 東京都品川区北品川5-5-15大崎ブライトコア4F ・本店住所:169-0051 東京都新宿区西早稲田1−11−7 ・設立 2018年10月 |
事業内容 | ・システム開発および運用無料相続税申告書作成システム「AI相続」の開発・運営 ・相続税申告に関わる業務グループ税理士事務所による相続税申告および二次相続対策等の税務サービスの提供 ・相続関連業務グループ内の弁護士事務所、司法書士等の紹介 |
特徴・強み | ・完全無料で作成・保存・印刷ができる ・計算などの難しい作業はAI相続が行うため、画面に従って入力するだけで完成 ・必要な部分のみ各専門家に有料で依頼可能 |
公式サイト | https://minatosc.com/ai-souzoku |
タイトル | 未経験でもラクラク! セルフでできる相続税申告 |
市川欽一税理士事務所様「ネットde相続税®」
レクチャーページを参考にしながら、自分で相続税の申告書が作成できるサイトです。納税は不要でも申告書は必要なケースなど、簡単な相続に特化したサービスになっているようです。
会社概要 | ・〒530-0044 大阪府大阪市北区東天満2‐6‐7 南森町東一号館9階 |
業務 | 税務業務 月次会計・税務相談・申告書作成 個人:所得税・消費税・相続税の申告 法人:法人税・消費税・地方税の申告 相続税の簡易チェックの実施 個人・法人の開業支援 その他業務 相続税申告書の「書き方」セミナー 個人と法人間のビジネス・財産の配分見直し 「経理部をデキる財務部にする」セミナー 経理・管理体制のチェックと効率化 資金繰表などの基本的な財務資料の作成支援 |
特徴・強み | ・「税金はかからないけど申告は必要」という方を中心とした簡単な相続に特化している ・税理士事務所からのフォローも可能 ・解説ページがあるので、初心者でも作成しやすい ・無料会員登録で利用できる ・申告書をダウンロードできるダウンロード会員は有料 |
公式サイト | https://www.net-de-souzokuzei.com/ |
タイトル | あなたも相続税の申告書を自分でつくってみませんか? |
TASKI株式会社様「TASKI」
詳細なガイダンスに沿って必要な書類を集め、項目を入力することで相続税の申告書を作成できます。
税理士によるチェックが受けられるほか、手続きの悩みの無料相談が受けられます。
会社概要 | ・東京都千代田区九段南1-5-6 りそな九段ビル5階KSフロア |
事業内容 | ・相続・終活に関するコンサルティング ・TASKI相続税申告システムの運営 ・相続・終活に関するコンテンツの制作 |
特徴・強み | ・詳細なガイダンスにより、自分で申告書を作成できる ・財産規模に関係なく、77,000円の定額で利用できる ・相続専門税理士によるチェックや手続きの関する無料相談が受けられる ・遺産分割の検討や相続税額のシミュレーションは、無料で利用できる |
公式サイト | https://taski.co.jp/ |
タイトル | 自分で相続税申告 |
税理士法人レガシィ様「相続のせんせい」
会員になることでマイページの作成ができ、試算した相続税などの保存が可能です。
さらに「ご依頼会員」になることでスマホで専門家からサポートを受けられるようになります。
会社概要 | ・〒104-0028東京都中央区八重洲二丁目2番1号 東京ミッドタウン八重洲 八重洲セントラルタワー12F |
特徴・強み | ・会員登録をしなくても、相続税がわかる ・会員登録でマイページを作成でき、試算した相続税を保存できる ・ご依頼会員になることで、スマホで専門家のサポートが受けられる |
公式サイト | https://souzoku-no-sensei.legacy.ne.jp/about-me |
タイトル | 相続の不安を専門家が解決するプラットフォーム |
まとめ
本記事では、相続税の計算や申告書を作成できる相続税申告ポータルサイトを紹介しました。
相続税の申告は、専門家に依頼するのが確実ですが、費用の負担が大きくなることが懸念されます。
特に相続した財産に不動産などの現金化しにくいものが多い場合など、費用をかけることが難しい事情を抱えていることもあるかもしれません。
今回紹介した相続税申告プラットフォームは、それほど専門知識がなくても、自分で相続税の申告ができるツールになっています。
また、一般の方だけでは対応が難しいようなトラブルが発生した場合に備えて、専門家への相談・依頼ができる仕組みが含まれています。
心細い思いをされているご遺族様に提案できるアイテムとして、葬儀社様が知っておいて損はないツールだといえるでしょう。