葬儀ポータルサイトが誕生して20年ほどが経過した現在、利用者にとっての利便性は認められるものの、さまざまな問題を内包している点が浮き彫りとなってきました。
過度な値下げ競争は徐々に落ち着きつつあるものの、実際に葬儀を施行される葬儀社様の負担は想像以上です。また葬儀ポータルサイト運営会社自身も、収益構造に問題を抱えているケースが少なくありません。
そこで今回は、葬儀ポータルサイトの概要や経営状況について、実例をもとに解説いたします。
葬儀ポータルの概要解説
葬儀ポータルサイトは、葬儀に対する利用者の利便性を高めるというビジョンにもとづき誕生しました。
以前は葬儀に関する情報を手に入れる手段が限られており、葬儀の価格設定や内容が不明瞭だったためです。
しかし新規参入が相次いだ結果、葬儀ポータルサイト同士の競争が激化し、さまざまな問題が発生しました。
50社以上が乱立する葬儀ポータルサイト
葬儀ポータルサイトと聞くと「小さなお葬式」「いい葬儀」などの大手をイメージされる方が多いでしょう。
しかし実際には、現在までさまざまな業界から50社以上が参入し、葬儀ポータルサイトを立ち上げています。
こういった状況下では強引な手法を取る企業も多く、安売り競争が激化したため収益が確保できている企業は多くありません。
また無理な価格設定を押し付けてくる葬儀ポータルサイトに対しては、実際に葬儀を施行する葬儀社様から業務提携の解除を求められるケースも増えているようです。
すでに12社が撤退
葬儀ポータルサイトは現状でも飽和状態とされ、すでに撤退した企業は確認できるだけでも12社に及んでいます。
今後も淘汰が進むとみられており、現在は稼働中の葬儀ポータルサイトでも、将来的に閉鎖される可能性は少なくありません。
下図は葬儀ポータルサイトのサービス提供期間を表していますが、図中の「ベスト葬儀」や「葬儀場サガセルくん」などは、開設から3年以内にクローズされています。
すでに葬儀ポータルサイトと契約している利用者については、サイト閉鎖後も何らかのかたちで救済措置が取られると思われますが、契約内容を確認しておいた方が無難です。
この点については、提携関係にある葬儀社様も確認しておくべきでしょう。
2タイプに分類される葬儀ポータルサイト
葬儀ポータルサイトは、運営手法により「定額型」と「紹介型」の2タイプに分かれます。
出典:公正取引委員会|(令和3年12月2日)株式会社ユニクエストに対する独占禁止法違反被疑事件の処理について
定額型
代表的な「定額型」葬儀ポータルサイトは、ユニクエスト社が運営する「小さなお葬式」です。
有名なところでは、他にも「よりそうお葬式」や「イオンのお葬式」などが存在します。
「定額型」は、葬儀ポータルサイト側が葬儀プランの内容や価格を設定し、各地の葬儀社にプラン通りの葬儀施行を委託する形式です。
葬儀の契約は、利用者と葬儀ポータル運営会社のあいだで交わされます。
この形式での競争原理は葬儀ポータル側に働くため、過当競争により複数の葬儀ポータルサイトが景品表示法や独占禁止法に抵触する事態に発展しています。
また「定額型」葬儀ポータルサイトから委託を受けた葬儀社様は、採算の合わない葬儀を担当させられるケースも多いようです。
過去にはいくつかの葬儀ポータルサイトに対して、消費者庁から指導や課徴金の支払い命令が発せられており、問題の起きやすい形式といえるでしょう。
紹介型
「紹介型」葬儀ポータルサイトの代表格は、鎌倉新書社が運営する「いい葬儀」でしょう。
「紹介型」葬儀ポータルサイトは、葬儀を行いたい利用者の希望に合った葬儀社を紹介する、いわば仲介業者的なスタンスです。
「紹介型」葬儀ポータルサイトは、利用者が複数の葬儀社を比較検討できるようサポートを行い、葬儀の契約自体は利用者と葬儀社のあいだで交わされます。
葬儀プランは提携先の各葬儀社が設定するため、「紹介型」ポータルサイト同士で過度の競争は発生しにくい構造です。
また「紹介型」の場合、葬儀プランや価格の設定は葬儀社様が行うため、不採算の案件を無理に受ける必要はありません。
その反面、利用者に同一地域の同業他社と比較されるため、魅力的な葬儀プランの開発が必要です。
競争激化による問題~Webからの集客ビジネスは過渡期に~
かつての葬儀業界は新規参入が少ない寡占(かせん)状態で、葬儀の施行は冠婚葬祭互助会事業者や中小葬儀社が担っていました。
また「人の死」を扱う仕事柄から、ほとんどの葬儀社様はあまり集客に積極的ではなかったようです。
しかし「家族葬」という言葉が一般的になり、少ない投資での開業が可能になったことから新規参入が相次ぎ、一気に競合が増えた葬儀業界では集客への施策が必要になりました。
こういった状況下で、葬儀社に代わってWebからの集客を専門に扱う葬儀ポータルサイトが誕生したのは必然だったかもしれません。
成功例があれば後追いする企業が続出するのは当然ですが、葬儀ポータルの運営事業については、すでに淘汰が始まっています。
景品表示法違反
競合が増えれば、何とかして他社を出し抜こうとするのが営利企業の常で、中には法に触れるような施策を打ち出す業者も現れます。
大手葬儀ポータルサイトでも、過去に景品表示法違反が多発した時期がありました。
いずれのケースも「追加料金なし」などとうたっているにも関わらず、実際には追加料金が発生する場合もあるという違反内容です。
小さなお葬式
1回目 2018年(平成30年)12月21日⇒景品表示法の周知徹底と指導のみ
引用:消費者庁 措置命令1回目
2回目 2021年(令和3年)7月2日⇒課徴金 1億180万円の支払い
引用:消費者庁 措置命令2回目
イオンのお葬式
1回目 2017年(平成29年)12月22日⇒景品表示法の周知徹底と指導のみ
引用:消費者庁 措置命令1回目
2回目 2019年(平成31年)4月12日⇒課徴金 179万円の支払い
引用:消費者庁 措置命令2回目
よりそうお葬式
1回目 2019年(令和元年)6月14日⇒景品表示法の周知徹底と指導のみ
引用:消費者庁 措置命令1回目
2回目 2020年(令和2年)3月27日⇒課徴金 417万円の支払い
引用:消費者庁 措置命令2回目
想定を超えるコールセンター業務の負担
「紹介型」葬儀ポータルサイトにおけるコールセンター業務は、基本的に葬儀社に送客するまでで、その後の契約主体は利用者と葬儀社に移ります。
葬儀の打ち合わせからアフターフォローまで葬儀社が行うため、コールセンター業務の負担が大きく増減することはまれです。
一方「定額型」葬儀ポータルサイトでは、利用者と葬儀ポータルのあいだで契約が交わされるため、自社コールセンターでクレーム対応やアフターフォローまで行う必要があります。
現場の状況を把握していないオペレーターが、葬儀という繊細な問題を取り扱うため、対応次第では大問題に発展しかねません。
葬儀事業の特性上24時間対応が求められるうえに、「定額型」葬儀ポータルサイトのコールセンター業務は心理的負担も大きくなります。
このような事情から「定額型」葬儀ポータルサイトでは、想定を超えるコールセンター業務の負担が発生しているようです。
前述したように、葬儀に関するコールセンター業務には繊細さが求められるため、オペレーター研修などの教育にも時間が必要とされます。
そのため、CPC(コスト・パー・コール:1回の電話対応費用)の削減も容易ではないようです。
難航する各地の葬儀社との業務提携~囲い込みも~
葬儀ポータルサイトの基本業務は、葬儀の希望者をWeb集客して提携先の葬儀社に葬儀を施行させるというものです。
実際に葬儀を取り仕切るのは提携葬儀社ですので、まずは各地の葬儀社と業務提携契約を締結しなくては始まりません。
各地の葬儀社との業務提携は、基本的に葬儀ポータルサイト側からの話を持ち掛けるかたちになります。
可能な限り多くの葬儀社と提携するためには、各地の葬儀社に対して1軒ずつ連絡をとる地道な営業活動が必要です。
また葬儀社との契約交渉を有利に進めるためには、有能な営業マンを数多く確保する必要があります。
とはいっても、葬儀ポータルサイトの運営会社は基本的にIT企業ですので、泥臭い営業活動を任せられる人材の確保は難航しているようです。
さらに前述したように、葬儀ポータルサイトは数多く存在するため、複数の葬儀ポータルを契約している葬儀社も少なくありません。
こうした状況では、同一地域内で葬儀の希望者が複数発生した場合、葬儀を請け負う葬儀社が無いというケースも起こり得ます。
そのような状況を防ぐために、一部の葬儀ポータルサイトでは競合他社と提携契約をしないことを条件に優遇措置を取る方法で、葬儀社の囲い込みを行ったケースも発生しています。
この施策が独占禁止法に抵触する可能性があるとして、公正取引委員会の審査が始まりましたが、結果的には当該行為を取りやめたことで、審査は終結されました。
出典:公正取引委員会【(令和3年12月2日)株式会社ユニクエストに対する独占禁止法違反被疑事件の処理について】
参照元:株式会社ユニクエストに対する独占禁止法違反被疑事件の処理について
各葬儀社と葬儀ポータルの設定価格の差異(さい)
葬儀ポータルサイトと提携している葬儀社も、葬儀ポータルサイトからの仕事だけを行っているわけではありません。
当然ながら、通常は自社で価格設定した独自のプランを設け、葬儀を執り行っています。
「紹介型」葬儀ポータルサイトであれば、自社の設定価格を表示しているため問題ありません。
しかし「定額型」葬儀ポータルサイトと提携している場合は、自社で集客した利用者の葬儀価格と、葬儀ポータルサイトから請け負った葬儀価格に差異が発生します。
この価格の差異に対応するためには、両者の葬儀内容を変更する必要がありますが、利用者から不満が出るケースもあるでしょう。
地域密着型の葬儀社にとって、地元での評判に傷がつくことは死活問題ですので、こうした問題から葬儀ポータルサイトとの提携を避ける動きも出始めているようです。
大手定額型葬儀ポータル「よりそう」の決算公告分析
葬儀ポータルサイトを運営する企業の具体的な例として、ここでは「よりそうお葬式」を運営する「よりそう」の決算公告を見ていきたいと思います。
非上場企業の決算公告は、上場企業が公開する決算報告書ほど詳細ではありませんが、企業のさまざまな内情が見て取れます。
利益剰余金
利益剰余金は毎年の営業利益を積み上げたもので、内部留保という言葉のほうが聞きなじみがあるかもしれません。
安定して黒字経営を続けている企業では、利益剰余金は年々増加しますが、営業損失が発生した場合は減少します。
下のグラフは、「よりそう」の決算公告に記載された利益剰余金の推移を表したものです。
グラフを見ていただけばわかる通り、「よりそう」の利益剰余金は年々負債を積み上げている状況で、いつ債務超過になってもおかしくありません。
実際には繰り返し資金調達を行っているため債務超過にはなっていませんが、経営状態は決して良いとはいえず、早急な経営改善が必要とされる状況が続いているようです。
低価格路線をとった「よりそうお葬式」
こうした現状は、新型コロナの影響もあるかと思いますが、低価格路線を取った判断も経営悪化の要因の一つと考えられます。
下のグラフは、主要な葬儀ポータルサイトが設定している葬儀プランの最低価格を表していますが、「よりそうお葬式」だけ突出して安価です。
*DMMのお葬式は現在サービスを停止しています
競合サイトとの差別化を図った施策と考えられますが、極端な低価格設定は葬儀ポータルサイト運営会社だけでなく、提携先葬儀社の経営にも悪影響を及ぼします。
そのため長い目で見た場合、極端な低価格路線は収益構造の悪化を招くケースが少なくありません。
「小さなお葬式」ユニクエストとの違い
「よりそうお葬式」と同時期に開設された「定額型」葬儀ポータルサイトに、「小さなお葬式」があります。
「小さなお葬式」を運営するユニクエストとの、利益剰余金の推移を比較したものが下のグラフです。
両社の利益剰余金の推移は対照的ともいえる状況ですが、この差はいったい何に起因するのでしょうか。
両社とも非上場企業のため公開されている情報は少ないのですが、創業から現在までの両社の沿革を比較すると、ヒントが見えてきます。
創業4年目にあたる2013年に「よりそう」が寺院手配サービスの提供を始めていますが、ユニクエストは前年の2012年に寺院手配サービス提供をすでに始めており、2013年には冠婚葬祭互助会事業者のアルファクラブ武蔵野の子会社となっています。
おそらくユニクエストは2013年の時点で、Web集客事業の限界を感じていたのではないでしょうか。
ユニクエストは現時点で、すでに実店舗運営やフランチャイズ事業を始めていますが、葬儀社運営のノウハウを得るためのアルファクラブ武蔵野傘下入りとも考えられます。
こういった点から考えれば、両社のもっとも大きな相違は事業展開のスピード感と、Web集客事業に対する認識といえるかもしれません。
なお「よりそうお葬式」と「小さなお葬式」については当サイトで分析しておりますので、ぜひそちらもご覧ください
貸借対照表
貸借対照表(たいしゃくたいしょうひょう)は、決算時における企業の財務状況を表したもので、バランスシートとも呼ばれます。
「よりそう」の2018年~2021年の決算公告に記載された、貸借対照表をまとめたものが以下の表です。
貸借対照表を見てもらうと、当期純損失が毎年発生している状況が見て取れます。
これは赤字経営が続いていることを表しており、当期純損失額も増加傾向にあることから、経営改善は難航しているようです。
まとめ~Web集客+αが必要とされている葬儀ポータル~
葬儀ポータルサイトの運営には、これまで数多くの企業が参入していましたが、収益化に成功しているケースは決して多くありません。
誕生から20年以上が経過した葬儀ポータルサイト運営事業はすでに成熟期に入っており、もはやWeb集客だけで収益化できた時代は、終わりを迎えつつあるようです。
「紹介型」葬儀ポータルサイト最大手の「いい葬儀」を運営する鎌倉新書は、葬儀だけでなくライフエンディング領域全般に対応するための施策を次々に打ち出しています。
また「定額型」葬儀ポータルサイト最大手の「小さなお葬式」を運営するユニクエストは、冠婚葬祭互助会事業者のアルファクラブ武蔵野の傘下に入り、実店舗運営に乗り出しています。
上記の両者は安定した経営を続けており、今のところ大きな不安要素は見出せません。
一方で「紹介型」葬儀ポータルサイトの「よりそうお葬式」の運営会社「よりそう」や、「イオンのお葬式」を運営する「イオンライフ」は、赤字経営が続いています。
また「終活ねっと」を継承した「DMMのお葬式」は営業を終了しており、事業譲渡先を探している状態です。
これからの葬儀ポータルサイト業界で生き残るためには、Web集客事業以外の収益源の確保が必要と考えられます。
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