邸宅葬とは1棟1組限定のゲストハウスで行う葬儀
近年、邸宅葬用の会館が全国各地に生まれている。邸宅葬とは、ゲストハウス風の施設で行う1棟1組限定の葬儀を指す。既存施設で例えるなら、遺族控室に小さな葬儀場を隣接させ、家としての機能をプラスして一棟とし、そこで通夜から葬儀までを終わらせてしまうイメージだ。
2000年代後半から家族葬ブームが始まり、今では会葬者が50人を割るような小規模葬儀が当たり前になってきた。葬儀をせず火葬のみを済ませる直葬も、都市部では2~3割の遺族が選ぶといわれている。すでに、社縁・地縁・血縁者すべてが集う葬儀は過去のものになり、死者は縁の濃い人々だけで見送る時代を迎えたといっていいだろう。
近親者だけの葬儀となると、そこにはゆったりと気兼ねのない空気が流れる。大人数の会葬者を迎えるための大きな祭壇も、改まった受付も、大容量の駐車場も必要ない。大事なのは、故人を見送ることに集中できる空間の提供だ。それを叶えるのが邸宅葬だと気づいた葬儀社が、2010年代に入ってから次々に邸宅葬用の会館を建設している。
邸宅葬の特徴
邸宅葬の特徴は、以下の3つに集約される。
- 自宅よりも上質な空間で、便利なサービスを受けながら「自宅葬」ができる
- 通夜から葬儀までワンストップサービスが可能
- 会葬者は遺族と近しい親族の10~50名を想定
それぞれ解説したい。
上質な空間と便利なサービスのある「自宅葬」
邸宅葬は、いわば「自宅とは違う一軒家を借りて行う自宅葬」だ。しかし、だからといって会館が自宅と同じようなつくりでは儀式の特別感がなく、満足度に欠ける。そこで、邸宅葬で使用する一軒家は、まるで高級ホテルの一室のようなラグジュアリー感を漂わせているのが一般的だ。ミニキッチンやバスルームも、一時的な仮住まいのための簡単なつくりではなく、新築の一軒家に負けないシステムを備えている。まさに「邸宅」を彷彿させる施設だ。
また、「自宅葬」といえば、自分の家というまたとないくつろぎの空間で葬儀ができる反面、掃除やかたづけなどの準備、会葬者の湯茶接待に追われてしまうのが一般的だ。しかし、邸宅葬であれば、スタッフが全てのサービスをいわば代行してくれる。それはまるで、グランピングの葬儀バージョンといってもいいかもしれない。グランピングとは、炊事やテントの設営などの準備を全てサービス側が引き受けてくれるキャンプのこと。くつろぎの自宅葬が、より一層上質な空間で、面倒なことを一切せずに叶えられるのだ。
通夜から葬儀までワンストップサービスが可能
邸宅葬は、一棟貸し切り型のハウスウェディングに例えられることもある。しかし、ハウスウェディングは「1日1組貸し切り型」。対して邸宅葬は、短くても2日は貸し切ることになる。通夜から翌朝の葬儀まで、ワンストップサービスが可能なのだ。遺族側の予算と会館側の予定の兼ね合いがつけば、病院からすぐに邸宅葬会館へ移り、そのまま火葬まで滞在することも可能だ。
会葬者は遺族と近しい親族の10~50名を想定
ラグジュアリー感漂う邸宅とはいえ小ぢんまりとした一軒家であり、またそのコンセプトからも想定している会葬者はそれほど多くない。くつろぎの中心となるリビングは、遺族と近しい親族の5名から10名ほどがゆったり過ごせるよう設計されている。式場は収容人数が多くとも50名で、完全に家族葬向けのつくりだ。
邸宅葬の流れ
一般的な邸宅葬の流れは、以下の通りだ。火葬までの日数が長引けば通夜までの日にちが空く。また、火葬のタイミングなど、地域のしきたりによって若干の違いがある。
日数 | 儀式など | 概要 |
1日目 | 安置・打ち合わせ | 病院などに故人を迎えに行き、自宅や邸宅葬会館へ安置する。その後、喪主と打ち合わせを行う |
宿泊 | この日から邸宅葬会館を使う場合は宿泊費用が発生する | |
2日目 | 湯灌・納棺 | 邸宅葬会館にて湯灌・納棺を行う。この時点で納棺をせず、出棺ギリギリまで故人を布団に休ませる施設もある |
通夜・通夜ぶるまい | 邸宅葬会館にて通夜。通夜ぶるまいも同会館内で行う | |
宿泊 | 遺族は見守りの意味も込めて邸宅葬会館で宿泊する。遠方からの会葬者などが泊まることもある | |
3日目 | 朝食 | 邸宅葬会館内で朝食。朝食サービスがある場合と、遺族がミニキッチンで簡単に準備する場合とがある |
葬儀 | 会館内にしつらえられた小さな祭壇を前に葬儀を行う。特別な祭壇を用意することなく、棺を囲んでお別れをするケースも | |
出棺・火葬 | 邸宅葬会館を後にし、火葬場へ | |
精進落とし | 火葬場で精進落としを済ませ、邸宅葬会館には戻らないケースと、会館に戻って精進落としを行うケースとがある |
邸宅葬を展開している企業
サービスの具体例として、邸宅葬を展開している企業と会館詳細についてご紹介したい。
弔家の灯 宮崎駅東(家族葬のファミーユ/宮崎市)
「弔家の灯(とむりえのひ)」は、家族葬向けサービスの最大手、家族葬のファミーユが手掛ける邸宅葬ブランド。会社設立からすでに1日1件貸し切り型の会館展開を行ってきたが、家族葬会館でさえ広いと感じるような10人規模の葬儀用に、貸し切り型の邸宅葬ホールを展開している。宮崎駅東、高松橋、霧島の3地域に会館がある。とくにブランドの先駆けとなった宮崎駅東ホールは、民家を転用した味わいのある会館だ。一見昔ながらの家屋に見えるが、中に入れば琉球畳の和室控室があったり、地元の作陶による食器が揃えられていたりと和モダンでハイクオリティな空間が広がる。
[住所]宮崎県宮崎市宮崎駅東3-3-2
[駐車場]-
[収容人数]10名
[施設]フローリング和室ホール・和室控室・寝室・宗教者控室・バスルーム・ドレッサー・トイレ
[価格帯]
- シンプルプラン43万2000円~
- スタンダードプラン75万6000円~
- ハイグレードプラン108万円~
(すべて会員割引価格)
参考:弔家の灯 https://www.tomurienohi.com/
四季風 東大和(コムウェルセレモニー/小平市)
「四季風 東大和」は、杉並区に本社を置くコムウェルセレモニーが手掛ける、都内にある貴重な邸宅葬会館。ゲストハウスをモチーフに、洋室・和室を設け、どちらでもくつろぐことができる。
[住所]東京都小平市小川町1-93-2
[駐車場]7台
[収容人数]30名
[施設]式場・洋室リビング・ダイニング・和室・寝室など
[価格帯]25万円~(会員価格)
参考:四季風 東大和 https://www.comwellceremony.co.jp/hall/comwellhall/any-ence/
ほたるの邸宅葬 結庵(家族葬のテンレイ/君津市)
「ほたるの邸宅葬 結庵」は、千葉県君津市に本社のある家族葬のテンレイが展開する邸宅葬プラン。花祭壇の美しさに定評のある日比谷花壇のお葬式と提携し、花に囲まれた憩いの空間をブランディングする。式場を中心に、会食室・安置室・リビングを設けるゆったりとした空間が特徴。
[住所]千葉県君津市中野3-11-1
[駐車場]20台
[収容人数]最大50席
[施設]式場・会食室・安置室・トイレ・ロビー・リビング・寝室・浴室・和室
[設備]エレベーター・バリアフリー ・貸出用車椅子・AED・Wi-Fi・音響/CB・授乳室・介助犬/ペット同伴可
[価格帯]
- 火葬プラン15万円~
- ひそかな家族葬25万円~
- ちいさな家族葬45万円~
- みんなの家族葬80万円~
参考:ほたるの邸宅葬 結庵 http://yuian-tenrei.com/
久遠の宿(明倫社/門真市)
「久遠の宿」は、大阪府門真市に本社のある明倫社が持つ邸宅葬会館。「最後にもう一度、みんなで一緒に家族旅行へ」をコンセプトに、旅館さながらの石風呂を貸し切ることができる。火葬場への見送りまで棺ではなく布団で故人を休ませるのが特徴。
[住所]大阪府門真市北岸和田2-2-26
[駐車場]-
[収容人数]-
[施設]安置室・和室・和室オンスイート・お風呂・リビング&ダイニング・レセプションホール・ゲストルーム
[価格帯]完全オーダー
参考:久遠の宿 https://kuon-yado.com/
家族葬邸宅ソラエ江戸崎(こわたり葬祭/三浦村)
「家族葬邸宅ソラエ江戸崎」は、茨城県三浦村にあるこわたり葬祭が展開する邸宅葬会館「SOLAE」の一つ。邸宅型ながら、メインホールは60名収容と大容量なのが特徴。宿泊棟と式場棟が廊下でつながっており、プライベート空間が確保されている。邸宅というよりも、一日一組貸し切りの家族葬ホールといったほうが良いほど大規模で豪華な施設だ。
[住所]茨城県稲敷市江戸崎甲3582-1
[駐車場]-
[収容人数]60名
[施設]導師室・メインホール・リビング・休憩室・パントリー・事務所(以上式場棟)寝室・リビング・和室・バスルーム(以上宿泊棟)
[価格帯]
- ソラエ55プラン 55万円~
- ソラエ85プラン 85万円~
- ソラエ130プラン 130万円~
すべて会員価格
参考:家族葬邸宅ソラエ http://kazokuso-solae.com/solae/?page_id=2
地方から発信されるコンセプチュアルな葬送空間
邸宅葬は今後どんな展開を迎えるだろうか。新しい形態なので、現状どの程度のニーズがあるかは、残念ながらまだつかめる段階ではない。ただ、今いえることは二つある。一つは、都市部からではなく地方から広がっていく葬送の形であること、もう一つは、事業者の個性を明確に打ちだせるコンセプチュアルな葬送空間になっていくだろうということだ。
邸宅葬会館が建設されているのは、都市部ではなく地方都市が多い。1日1組限定で使用する会館を建設し、しかも少人数向けのため大きな利益は見込めないとすると、都心で新たに建設するのは難しいためだ。しかしこれから地方で大きな支持を受けるようになってくると、メディア等で取り上げられ、「邸宅葬」という言葉が一般に知れ渡っていく可能性は高い。トレンドに敏感な都市部のシニアが「私たちも邸宅葬を」と希望するようになる日は近いだろう。そのとき、都心の事業者はどう反応するだろうか。利益の出るギリギリの線を狙ってやや郊外に会館を構えるか。全国で問題視されている空き家を活用するという手もある(持ち主や近隣の了解を得るのが難しいという問題はあるが)。
また、今回取り上げた邸宅葬会館は、それぞれ実に多様な個性を持つ。「弔家の灯」は地元作家の陶器を揃えているし、家族葬のテンレイは他の事業者とコラボレーションして特別な花空間を作り上げてしまった。「久遠の宿」のように、温泉旅館さながらの豪華な空間を提供して高い利益を上げる手法もみられる。邸宅葬は、事業者が想像する「最高の式場、最高の葬儀」を提案できる葬送空間になりえる。近年、「遺族が自由に願いを叶えられる葬送を」という声が高まっているが、邸宅葬は葬儀社側からの「こんな葬式はいかがですか」という強いアピールを感じる。コンセプチュアルな式場として邸宅葬会館を構えていければ、他社との違いを明確に打ち出すまたとない商材となるだろう。
家族葬や直葬が当たり前になってきた現代において、流れは圧倒的に少人数葬儀へ傾いているし、何で利益を上げるのかは全事業者にとって喫緊の課題だ。付加価値をつけやすく、オリジナル性を高く打ち出せる邸宅葬会館は、競合他社を一歩リードするための武器になりえるのではないだろうか。